第6話 『探偵ごっこ』

「全員集まったね」


会長が腕時計を確認して、辺りを見回す。

会長である、卯月先輩。副会長の隼人君。特務班の楓ちゃんに、会計の杏ちゃん。そして私。


6畳ほどの広さの小さな生徒会室に、私たちジョーカー学区の生徒代表であるエルフが集まった。


今日は非番。だが、エルフには先生達には内緒で行っているとある活動日なのだ。


「それでは、我がジョーカー校の七不思議、先代たちの秘密基地についての検証を今回も行います」


『はい』


下校時刻を過ぎてから行う検証会。


このジョーカー校に在学したとされる先輩「ケトー、ハルト、ノエル、モリス、リリィ」。


本名も素性も謎な五人が作ったとされる、秘密基地。


彼らの魔術によって、学校の中に仕掛けられた秘密基地への鍵を探してそこへたどり着けばこの学校の七不思議を1つ解明したことになる。


資料が携帯に届いて、一斉にみんなの携帯から着信音が鳴り響く。


「杏、読んでくれるか?」


会長がそう言って、資料を杏ちゃんが高い声で読み上げた。


「4階の指導室は、扉はあるのに外側からの存在が確認出来ない“魔術設計”によるものだと思われます。よって学生寮と同じく、鍵によって行き先の変わる仕組みが使われているという考察です」


「……では、鍵探しをしよう」


その言葉を合図に、私達の探検が始まる。


“魔術設計”

魔法円の仕組みから作るコンピュータープログラムと似た作りの魔術によって、魔術に使う道具や建物を生み出せる高度な魔術。


私達の住む学生寮のドアや、この学校にもその魔術が組み込まれているという話だ。


そして、その魔術設計の一番簡単な確認方法は……壁に衝撃を与えて一瞬浮かぶ文字を拾うことだ。



さらにわかりやすく説明すると


上履き越しに壁を蹴ると、緑色の文字が僅かに浮かび、消える。しかし設計にミスがあるとその文字が崩れて落ちてくるのだ。


ひたすら壁を蹴ること1時間。


「これで全部か」


みんなで集めた文字の欠片を集め、並べる。


『……TtRtfSB』


落ちてきた文字を拾い集めるが、魔術とは頭文字を省略されるから読み解くのは一筋縄ではいかない。



「……分からないな」


「そうですね」


「さっぱり」


こうして、今日の検証会が幕を閉じる。












-同時刻、職員室-


生徒会顧問、鎖薙幸登は職員室で目を閉じ笑みを浮かべていた。


「ああ、第一突破されたわ」


ポツリと吐いたつぶやきに、隣の机の夜宵白兎の仕事の手が止まる。


幸登と同じく目を閉じた彼は少し顔を顰め、ため息をついた。


「当てずっぽうにやっているように見えますが?」


「ああ、第一はトラップ。どうやっても正解なんか出てこねえよ」


アイツらに旧式の設計が読めるとも思わないけどな。と幸登が呟き、目を開いて再び仕事に戻る。


「……いつになったら見つけてくれますかね」


「さあ、俺達の立場上、助言は出来ないからな」


白兎の脳内にあの楽しかった日々が蘇る。

秘密基地に集まって、魔術について立場も種族もなく語り合ったあの日々。


「秘密基地たどり着いたら、きっとみんな驚くでしょうね」


「ケネーは鎖、ハルトは心、ノエルは白、モリスは月、リリィは夢」


魔術用語から作ったあだ名。


「昔の話だ」


「そうですね」



心を鎖に囚われた男と、月夜に夢と共に眠る彼を待つ白が、ただ2人何事も無かったように仕事に戻った。


いつか彼らの思い出が見つけられる日を願って。

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