第2話「ここにいたはずなのに」

「ここにいたはずなのに」


ああ、はじめましてと言うべきなのかな?


君が僕に会うのは初めてかもしれないけれど、僕はもう何度も何度も君に出会っているんだ。


恵理架、君と僕が初めて出会ったのも「先生と生徒」としてだったね。


僕の初めての生徒だから、とても緊張していて君に面倒をかけっぱなしだった。


それでも僕が教えたことを吸収して更に上のことをやってのける君はやはりアリスなのだろう。


どんどん君に惹かれていった。


だから僕は君のためにこうして何度も同じ時を繰り返しているんだ。


恵理架という長い歴史から見れば沢山いるアリスの1人。僕は彼女が幸せになる世界を作るために全てを失っても構わないと決めた。


僕は何度も何度も君と出会っている。


アリスと白兎。


女王と家臣


魔女と悪魔


君が幸せなら、僕は脇役で構わない。

君のそばにいられるなら。


でも、1周まわって戻った世界で僕と君はもう1度先生と生徒をしてる。


でも、そこにいるのは僕じゃない。


君も僕を覚えていないのだ。


それでも君が幸せになるなら、僕は何だって構わない。


「貴方は白兎先生ではないのですか?」


「違うと言えば違うし、違わないといえば違わないね、そう……僕のことはノエルとでも呼んでおくれ」


君が心から安堵する、君の父とよく似た口調で僕は嘘をついた。


僕は白兎だ。

君の先生だ。


でも僕にはもう、そこに立つ資格はない。

君のそばにいる資格はない。


君を助けられなかった。僕には教師である資格はない。


「わかりました、ノエルさん」


無邪気な顔で僕を見上げる姿は何一つ変わらない。


でも、繰り返せば繰り返すほど君から遠ざかって、すれ違っていく。


『ここにいたはずなのに』


ここで、彼女に魔術を教えていられたはずなのに。

その想いを胸に隠して、僕は彼女を抱き締める。


「ノエルさん?」


「わかるはずないんです。でも構わない。あなたのそばにいますから」


どうか、忘れないで


兎は寂しいと死んでしまうんですから。

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