第15話 逸るリミア
孤児院を出発してから三日が経った。三日も経つがhologramに関する有益な情報は未だ得られていない。街の人間や酒場に行ってもhologramの情報はあまり無く、手応えが感じられなかった。
「八方塞がり……かな」
街を歩いているシルヴィアの重たい溜息が響く。 それのせいか、タツヒコ達に取り巻く空気も何処となく重い感じが漂っている。
「そんなすぐに見つかる訳じゃないわよ。焦らず行きましょう」
肩を落とすシルヴィアを励ますようにリミアが激励を送る。それに感化されたシルヴィアは少し元気が出たのか、クスリと笑みを零すと首肯して勇みよく歩き出す。
「そうだね。 根気良く行こうか」
「その意気よ。 この街にはもう用はないから次の街へ行ってみたいんだけど……。一番近い所は、そう遠くない場所にあるミサリアって名前のとこね。歩いても一時間くらいで着くわ」
リミアが得た情報を元に次はミサリアという都市を目指す事になった。
「おっかしいわねぇ……もうそろそろ見えても良い頃なんだけどな」
出発して一時間が経とうとした頃、リミアがボヤく。額には薄っすらと汗が滲んでいた。
「もう少し歩けば見えてくるよ、きっと」
「頑張ろうぜ!」
自分達に言い聞かせるようにシルヴィア達も気持ちを奮い立たせる。そんな最中、シルヴィア達の数メートル先に黒いフードを被った人物が立ってるのが分かった。
「……誰だ?」
長谷川が怪訝そうに眉を寄せる。それに気付いたシルヴィアも前方に視線を向ける。フードの人物はおもむろにフードを取ると、その全貌が明らかになった。
「アイラ……ちゃん」
以前シルヴィアと死闘を繰り広げたアイラがシルヴィア達の前に立ち塞がった。しかしアイラの顔を良く見てみると、少々腫れ上がっており、ローブにも返り血なのか血が付着していた。
「シルヴィアさん……私……」
アイラが今にも泣き出しそうな表情でシルヴィアの名前を呼ぶと、ふらつきながらシルヴィアの方へ歩き出した。
「アイラちゃん何かあったの?」
シルヴィアがアイラのただならぬ様子を見て質問をするが、シルヴィアの横から飛び出した影がアイラを一閃した。
「あんたがシルヴィアの言っていたhologramの末席ね? 特徴も一致する……。hologramのメンバーは殺すって決めてるの! 死になさい!!」
飛び出した影はリミアだった。既に剣を抜いており臨戦態勢になっていた。 アイラはリミアの攻撃を済んでの所で躱しており、頬が少し切れただけで済んでいた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私はシルヴィアさんに用があるだけです! あなたに構ってる時間はありません!」
「うるさい……!! 私は……私はっ!! はあああああああ!!!」
聞く耳を持たないリミアから繰り出されるのは本気の剣技。アイラも覚悟を決め、身体に紅いオーラを纏うとそれに応戦した。刺突を持ち前の反射神経を駆使して躱すと、懐に潜り込んで腹部に拳を繰り出すアイラ。
リミアも常人とはかけ離れた機動力を活かしてそれを躱し、攻撃に転じる。胴を裂くような回転斬りと、その遠心力を利用した渾身の振り下ろしは惜しくもアイラに躱され、左手に持つ剣がアイラによって弾き飛ばされてしまう。
「くっ! まだまだぁ!! "残光の太刀"」
一本になっても諦めずに太刀所有者の力を解放するリミア。刀身が光に覆われ消えたように錯覚を起こす。それをアイラに向け振るうがアイラは既にいない。
「太刀所有者でしたか……。やはり念を入れて正解でしたね。これでチェックメイトです」
背後から聞こえた声が耳を震わすと、思わず身体が硬直してしまった。その隙を見逃さず、即座に羽交締めにしたアイラに軍配が上がった瞬間だった。
*
「リミアちゃん……何でいきなりアイラちゃんに襲い掛かったの?」
「……私の両親ね、hologramに殺されてるのよ。だからhologramって分かった瞬間に頭に血が昇っちゃって、歯止めが利かずに襲い掛かっちゃったって訳……勝手な真似してごめんなさい」
「hologramに親を……ねぇ。 気持ちは分からないでもないし、仇であるhologramを目の前にして冷静さを保つのも難しい。 上から目線で申し訳ないけど、しょうがないっちゃあしょうがないな。反省してるようだし、許そうか」
シルヴィアに説教を食らっているリミアは縮こまっており、萎縮していたが許しが出ると安堵の表情が見え隠れしていた。 シルヴィアはそんなリミアを尻目にアイラに向き直ると、アイラの顔を凝視する。
「アイラちゃん……リミアちゃんには私からきつく言っといたから。 いきなりごめんなさいね」
「いえ……良いですよ。 不用意に近づいた私も悪かったですし。 あの、本題なんですが、私をシルヴィアさん達の仲間にしてもらえないでしょうか?」
アイラは藁にも縋る思いでシルヴィアに懇願した。それを聞いたシルヴィアは目を丸くした後、首を傾げた。
「それは大歓迎なんだけど……どうしていきなり?」
「それは……」
アイラは言うのを若干躊躇ったが、意を決して口を開いた。
「実は、hologramが生物兵器を作って人類を混沌に陥れようとしている作戦をたまたまた耳にしたんです。 私はhologramに恩は感じていましたが、それを聞いた時は限界でした。hologramの施設を半壊状態にし、構成員と何人かナンバーズも倒してhologramを去ったんです。 お兄ちゃん……いえ、ブユウさんも殺されちゃったからもう居る意味も無くなって……」
赤裸々と語られるアイラの口から出る言葉は想像ができない程だった。もしアイラの言った事が真実なら早くhologramを壊滅させないと大きな事件が起こるのは明白だった。
「話してくれてありがとうアイラちゃん……取り敢えず私達の仲間へようこそ。 さて、今のアイラちゃんの話をどう思う?」
シルヴィアは皆の意見を参考にしようと考え、タツヒコ達に意見を求める。
「嘘のようにも聞こえるし、本当のようにも聞こえる……これが私の意見ですかね。アイラちゃんの言った言葉をシルヴィア様が信じるなら私はそれで良いのですが」
とクラウディア。
「俺は本当だと思う。仮に嘘だとしたらその顔の傷や返り血はどうやって説明するんだ?
あのシルヴィアを追い詰めたやつなんだろ?
俺は信じる」
長谷川も強気の口調で肯定する。
「俺も長谷川さんの意見に同意だな。信じるぜ」
タツヒコも肯定し、残るはリミアだけになった。リミアは息を整えると落ち着き払って言葉を紡いだ。
「私も本当だと思うわ。 私の早とちりとは言え、彼女の実力は相当のものだった。その彼女がこんな怪我をするんだからよほど多勢に無勢だったのね……」
リミアをアイラの言葉を信じるようだった。
一応全員が全員、アイラの言葉を信じる結果となって、シルヴィアはアイラを見やると微笑んだ。
「皆、アイラちゃんの言葉を信じたんだ。
これで嘘だったら……なんて今更言わないよ。私も信じてるしね……大切な仲間だから」
「シルヴィアさん……皆さん、本当にありがとうございます!!」
アイラは深々と頭を下げて感謝の気持ちを示した。それに照れ笑いするかのようにシルヴィアは頬を赤らめながら笑みを零した。
「さて、アイラちゃん……。hologramの基地は知ってるね?」
「はい。 今から乗り込むんですか?」
アイラの言葉にシルヴィアはいやらしく口角を吊り上げる。
「もちろん。 またとない好機だ。これに乗じて一気にhologramを潰す。 ちなみに人数はどれくらいいるの?」
「非戦闘員を合わせると二○○人くらいですが、いくら何でも無謀なんじゃ……」
「何……アイラちゃんはその人数相手に施設まで半壊状態にしてきたんでしょう? そこに私達が加わったんだ。確実に潰せるよ」
確固たる自信の元、シルヴィアは胸を張って答えた。アイラも諦めるように嘆息すると肩を竦めた。
「分かりました。 今からhologramの基地に案内します。 計画を阻止しましょう!」
「おおーー!!」
シルヴィア達は気持ちを鼓舞すると共に、これから来るであろう最終決戦に胸を躍らせた。
魔王が勇者と組んで異世界に侵攻するようです @zeshiru
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