第13話 光影の太刀の使い手 リミア

「ここで良いわね? さぁ、力の差ってのを教えてあげるわ」


ルインズ孤児院の裏庭に移動したシルヴィア達とリミアが対峙する。 その後方にはタツヒコ達とイリアが真剣な面持ちで見ていた。



「まぁまぁ……そう焦る事はないさ。時間はたっぷりあるんだから……ね?」


シルヴィアがリミアを宥める。それは強者の余裕か、驕りか───。リミアは不愉快そうに顔を歪めるとシルヴィアに聞こえるように舌打ちをする。


「その余裕ぶった鼻っ面、へし折ってやるわ」


「へし折られるのは果たしてどちらかね?」


その一言でリミアの心を逆撫でしたのか、リミアは二本の剣を抜刀すると臨戦態勢に入り構える。


「へぇ……二刀流か。珍しい」


リミアの二刀流に興味を惹かれたのか、シルヴィアが小声で呟く。


「……ふんっ!」


動揺を誘う作戦だと踏んだリミアは聞く耳を持たずにシルヴィアとの距離を一気に詰め、剣を振るう。シルヴィアはバックステップで危なげなくそれを躱すがリミアの追撃の二振り目がそれを逃さない。


「おっと」


またもや躱すシルヴィア。 リミアは歯軋りをすると更に攻撃の速度を速めた。高速の刺突攻撃に、躱した時に出来る隙を確実に狙う斬りあげ。 そのどちらもシルヴィアはやはり躱してみせる。


「ちっ……。ちょこまかと! 見せないでおこうかと思ったけど、こうなったら仕方ない……。 私に本気を出させた事を後悔しなさい!!」


リミアの纏う雰囲気が一変する。どうやら本気を出したらしい。感情を昂ぶらせたかと思いきや、冷静さを醸し出すリミアにシルヴィアは警戒心を強くする。 そしてどこから攻撃が飛んできても良いように身体強化を施した。


「 "残光の太刀"」


その言葉が放たれた時には既にリミアは振り終わった動作になっていた。


「え……?」


間の抜けたシルヴィアの声が発せられ、シルヴィアの腹部から血が噴き出した。それと同時にシルヴィアは激しい光を直視ししてしまい、目が潰された。


「がっ……」


すぐに両目を両手で押さえるも隙だらけのそれは格好の餌食だった。


「"残影の太刀"」


静かに呟かれるそれは、たちまちシルヴィアの身体を容易く斬り裂いた。


「これであなたの目は潰した。さぁ……どうするの?」


いつの間にか刀身が黒い影に包まれた剣と、片一方は刀身が光に溶け込んだ剣を持つリミア。リミアは愉快そうにその顔を凄絶に歪ませる。


「 "太刀所有者" の力に覚醒した私を……!それでどうやって倒すというの!? 反撃してみなさいシルヴィア!!」


「……それがあなたの奥の手で良いのね。なら私も見せようか」


背後から聞こえたその声に、愉快に浸ったリミアの顔が間の抜けた顔に早変わりした。 シルヴィアから視線を外さなかった、一度たりとも目を離さなかったというのにどうやって移動したと言うのか。

リミアの思考が疑問で埋め尽くされると同時にリミアの全身から血が噴き出した。


「がっ!?」


崩れ行く感覚が身体を支配する。恨めしそうにシルヴィアを顔を睨みつけながらリミアは膝から崩れ落ちる。


「因みにあなたに使用したこの力の大きさは約2%……。全身に裂傷が入ったあなたの負けよリミア。 負けを認めなさい」


静かだが強い口調のシルヴィアにリミアは歯軋りをすると拳を握り締める。さらに血が噴き出るが気にせずにリミアはガラ空きの腹部に拳を見舞った。しかし、シルヴィアは魔法陣を展開してそれを防ぐと蹴りを放とうと足を後ろに振り上げた。


「待ってください!! リミアちゃんの負けで良いです!! これ以上リミアちゃんを傷つけないで!!」


その絶叫でシルヴィアの動作が止まる。声を張り上げたのはイリアだった。イリアはリミアの所まで駆け寄るとしゃがみこんだ。


「イリア……私負けちゃった」


「リミアちゃん、リミアちゃん!」


力無く声を出すリミアにイリアは涙を零しながらリミアの名前を呼び続ける。


「……一応傷は回復させといてあげるわ。

私もやり過ぎちゃったしね」


シルヴィアが申し訳なさそうに言うとリミアの身体に回復魔法を使う。すると、たちまちリミアの裂傷が癒える。その事態に呆気に取られるリミアとイリア。


「あの……あなた一体何者何ですか?」


「んー内緒」


リミアを立ち上がらせたイリアがシルヴィアに質問を投げかけるものの見事にはぐらかされてしまった。そして、タツヒコ達もシルヴィアの所に集まり出したところで一旦ルインズ孤児院に戻る事となった。


「シルヴィア様! お身体に異常はありませんか!? あの力を使って……ただでは!」


「大丈夫よクラウディア。使ったのは残りカスみたいな力だから……。力は半減したけど数時間もすれば元に戻るわ」


帰途で、クラウディアがただならぬ様子でシルヴィアに詰め寄るがシルヴィアは軽く受け流す。


「あの全身から血が噴き出した力の事か? シルヴィア、あれは一体?」


「……そうだね、まだタツヒコ君や長谷川さんには明かせないかな。 でも分からないと思うから……あれは私の奥の手のほんの一端。言えるのはそれだけ」


そう言うとシルヴィアは黙ってルインズ孤児院に入ってしまった。


「なぁクラウディアさん」


「ごめんなさい勇者君……それだけは私の口からは言えません。 さ、そろそろ戻りましょう」


クラウディアも孤児院に入る。タツヒコも慌ててクラウディアの後を追い掛けた。



「シルヴィアさん、先ほどの数々の失言すみませんでした!」


開口一番、リミアはそう叫ぶとシルヴィアに深く頭を下げた。 シルヴィアはさっきとの態度の温度差に頬を掻きながら困ったような表情を浮かべた。


「だ、大丈夫! 気にしてないから! 頭上げな?リミアちゃん」


「はい……。 それで、何から聞きたいですか?」


改まって質問をシルヴィア達に投げかけるリミア。 ちょこんと正座をしており、黒髪が微かに揺れ動いていた。


「んー、ならさっきリミアちゃんが言ってた "太刀所有者" って?」


「もしかして知らないんですか? あんな強かったのに……最後なんて何をされたか分からなかったくらいなのに……」


きょとんとした様子のリミアだったが、シルヴィアの咳払いで我に返った。


「あ、すみません。 太刀所有者は、人が持つ潜在的な力を覚醒した人の総称です。これはこの世界に住む全ての人が太刀所有者に成り得る可能性を持っています。そして、無意識に自分の深層心理で感じている力が太刀となって具現化します」


「ふむふむ……成る程。リミアちゃんはこの力を覚醒したのはいつ?」


シルヴィアの質問にリミアは考えるように唸ると口を開いた。


「大体、三日前ですかね。 太刀所有者になるにはきっかけは何にあれ、強い気持ちを抱く事です。強い気持ちに反応して私は覚醒したんで……」


リミアは遠い目をして言った。しばらく間が空いたがリミアは気を取り直すようにシルヴィア達を見渡した。


「何か他にありませんか?」


「その敬語やめて欲しいなぁ……。さっきまでタメ口だったのに急に敬語になると違和感感じるんだけど?」


「……ならやめるわ。混乱させたみたいでごめんなさい」


シルヴィアの冗談めいた口調にリミアは口を尖らせる。


「で? 他にないの?」


言って、シルヴィア達を再度見回すが挙手をする者や何か言う者はいなかった。質問者がいない事を確認するとリミアはおもむろに立ち上がる。


「さて、あなた達……。私の勘だけど、今日の寝る所とか決まってないんでしょ? だったらここで寝泊まりすると良いわ。院長に許可もらってくるけど多分下りると思うからしばらくはここで過ごしなさい」


そう言い終わるとリミアはその場を後にした。リミアが離れたのを確認するとイリアがいるのにも関わらず、シルヴィアはだらしのない笑みを浮かべていた。


「うふふ、これで当分寝床と食事に困る事はないわね……。リミアちゃんが居なかったら私達はずっと野宿の予定だったからね」


サラッと恐ろしい事を言ったがあまりのだらしなさにイリアの顔が引きつったのは言うまでもなかった。

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