第12話 貴重な情報源

「うおっ……ここがファールランス都市か。

ミラーフィとは違って活気があるな」


タツヒコが感慨深く言葉を漏らす。 程よい喧騒がありどこも賑わっていた。


「確かこのファールランス都市ってのは商業の要となる都市って聞いてたからこれくらいの活気は当たり前らしいよ……。ただ、それに比例して窃盗や恐喝も多いらしいけど」


「あー、そうなのか……。なら案外早くhologramの手掛かりも掴めるかもな」


「そうだね。裏で繋がってそうな雰囲気がしそうだし」


太陽が昇り、陽が照らすのをシルヴィアは手で遮りながら人混みを掻き分けるように進んでいく。人混みが思ったより多く、シルヴィア達を物珍しそうに見る人達も少なくなかった。


「……俺らすれ違ってるだけなのにかなり見られてるな。また厄介ごとは勘弁だな」


長谷川が辟易を含んだ口調でボヤく。シルヴィアもそれに同意なのか頷いていた。ふと、シルヴィアは前を歩いていた二人の子どもに何となく目線がいってしまった。 楽しそうに話し込んでいる。 それを微笑ましそうに見ながら子ども達の会話に耳を傾ける。


「なぁ聞いた? ルインズ孤児院のリミアさんの事。 俺もサムから聞いただけだから詳しくは知らないけど、リミアさん、ちょっと前に血塗れで孤児院に帰ってきて直ぐにぶっ倒れたらしいぜ?」


「何で? あの剣なら鬼のように強いリミアさんだぞ……? あの人が負けた? 想像出来ないな」


「何でも相手はhologramのナンバーズだとか。やり合ったらしい」


そこで、一人の子どもが飛び退く仕草をし、少々オーバー気味のリアクションを取る。


「何っ!? リミアさんでも勝てなかった相手なのか!?」


「そこまでは知らないけどな……これ内緒にしろよ。 サムから誰にも話すなって言われたんだからなぁ」


「へへ……分かってるって。まぁいいや、遊びに行こうぜ!!」


「おう!」


そう言って二人の子どもは人混みの隙間を縫うように走り去っていった。


「……とんでもない情報は案外近くに潜んでるものなのね」


シルヴィアが興奮を抑えるように生唾を飲み込みながら呟く。


「タツヒコ君、長谷川さん、クラウディア。今からルインズ孤児院って孤児院に行くわよ。 その孤児院のリミアって子に用が出来たから……とても重要な用がね」




早速行動に移したシルヴィア達はルインズ孤児院の居場所を住人から聞くとここから少し離れた場所にあるらしかった。そうと知ったシルヴィア一行はルインズ孤児院を目指すためファールランスの都市部を一旦離れた。


「やっぱ都市部から少し離れると自然が多いんだな。一応整備はされてるっぽいが」


「そういう世界なんでしょ。 ま、やたらめったら都市開発してたら風情がないもんね」


緑に囲まれた道を歩きながらシルヴィアがわりと真面目な事を言う。


「お、あれじゃないか? ほー、孤児院というだけあって大きいな」


と長谷川が指を差した方向にシルヴィア達が目を向ける。そこにはかなりの人数を収容出来そうな立派な洋風の建物が目に入った。

大きな門があり、門の横にはルインズ孤児院の看板がある。 孤児院の大きさは三回建てで、大勢の子ども達が暮らすには充分過ぎる程の大きさだった。


「じゃ、行くわよ」


と、シルヴィアが門に手を掛けて開けようとする。


「お、おいおい!お前、いくら何でもそれは……っ!」


タツヒコが止めに入り、それと同時にシルヴィアの動きが止まってタツヒコに視線が向けられる。


「何よ……。非常識なのは分かってるけど、そうも言ってられないでしょ?」


「だからってなぁ……それはどうかと思うぞ」


タツヒコが嘆息を吐き、肩を竦めてみせる。

すると、門の前でのシルヴィア達が目に止まったのか一人の少女がこちらに駆け寄ってきた。


「あの、どうしました……?この孤児院に何か用でしょうか?」


胸の前で手を組みながらシルヴィア達に話し掛ける少女。 花柄の服に水玉模様のスカートといった出で立ちの少女は十代半ばと言ったとろで、艶のある黒髪と相まって清楚な雰囲気が漂っていた。少女は警戒しているのか怯えてるのか分からないが少し声が震えていた。


「いや、ちょっとこの孤児院にいるリミアっていう女の子に用があるんだけど。今日が無理なら日を改めて来るわ」


リミアという名前を聞いた瞬間、少女の顔色が変わったのをシルヴィアは見逃さなかった。


「リミアちゃん……ですか? どうしてリミアちゃんに?」


当たり前の疑問を投げ掛ける少女に、シルヴィアは一瞬顔をしかめたが少女の問いに答える。


「そうね……早い話hologramを潰そうって私達は考えていて、たまたまファールランス都市でリミアって子がhologramのナンバーズとやり合ったっていう話を小耳に挟みんだからね」


「えっ!?」


シルヴィア達の話を信じられないと言った様子でリアクションを取る少女。 そのリアクションにシルヴィアは内心驚きながらも平静を装い言葉を続ける。


「もし、私達の話を信じたんなら中に入れて欲しい。リミアちゃんにも出来れば会わせて欲しいんだけど?」


少女はシルヴィアの言葉に顎に手を当てながら逡巡している。十数秒の逡巡の末、少女は門の扉に手を掛け、重々しい金属音と共に門のが開かれた。


「そうですね。立ち話もなんですから。どうぞ」



「さて、大体こんな感じなんだけど……信じて貰えたかな?」


とシルヴィアが少女───イリアに今までの出来事を簡単に説明していた。勿論、異世界から来たことは伏せてあるが。

イリアは考えるように顎に手を置いて唸っている。


「確かに分かりましたが……襲ってきたhologramの連中は二人で、一人が末席ながらナンバーズ並の実力を持つ女の子と、もう一人がただの構成員ですよね。にわかには信じられませんが……」


「まぁイリアちゃんが信じるかどうかは別として私が言ったのは少なくとも事実だからこれだけは覚えておいてね」


「はい。話してくれてありがとうございます」


と、イリアが頭を下げると立ち上がった。


「そろそろリミアちゃん呼んできますね!」


「その必要はないわイリア……。悪いけどそこで立聞きをさせてもらったわ」


一人の少女が仕切られたカーテンの間から姿を現した。


「リミアちゃん……どうしてここに?」


「イリアが見慣れない人を連れてきたって子ども達から聞いてね……。バレないように先回りしたのよ」


「もう、バカ」


冗談も程々に、リミアと呼ばれた少女はシルヴィア達に視線を移すと嬉しそうに口角を吊り上げた。


「ようこそルインズ孤児院へ……。そして、シルヴィアさんとタツヒコさんとクラウディアさん……だっけ? 私がリミアよ。 よろしくお願いするわ」


そう言って頭を軽く下げる。 出で立ちはイリアとそれ程大差はなかった。


「よろしくねリミアちゃん……立聞きしてたみたいだから説明は省くね。 単刀直入に聞くわ。 ナンバーズとやり合ったってホント?」


シルヴィアの投げ掛けた言葉にリミアは鼻で笑うと肩を竦めた。


「そうね……。全く、誰が漏らしたんだか……合ってるわ。戦ったのはナンバーズ随一と言われる剣豪、ミラ・ラルス。 ナンバーズのナンバーIIIよ」


「ミラ・ラルス……」


シルヴィアが名前を復唱する。それに相槌を打つリミアはさらに続けた。


「最初に私から仕掛けて、両者一歩引かない激しい戦闘になったのは覚えてる……。最後は本当に運だった。僅差で私は負けたの……でも相手にも相当な深手は与えられたわ。これだけが唯一の救いね。で、何とか死に体でこの孤児院まで戻ってきてそこで意識が途絶えたって訳」


「ありがとうリミアちゃん……。本題に入らせてもらうけど、私達の仲間になってみない?」


「何ですって……?」


リミアが眉根を寄せながらシルヴィアの言葉に返答をする。


「目的は同じなんだ。ここは手を組んだ方が得策だと思うけど? それに、リミアちゃん……いや、これは言わないでおこうかな。で、どうするの? 仲間になる?ならない?」


「あなた達の実力も分からないのにいきなり仲間になれだぁ? ふざけるんじゃないわよ!少なくとも私と同じ実力じゃないと仲間にはなれないわ!」


シルヴィアの言葉に激情を隠せないリミア。それを聞いたシルヴィアは嗜虐的な笑みを浮かべた。


「上等。なら私が勝ったら仲間になってもらうわよリミアちゃん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る