第11話 決着……そして

炸裂音と地響きが轟き、シルヴィアの周囲が噴煙で包まれる。シルヴィアは噴煙から逃れるように脱出し、距離を取ってそれを眺めた。


身動きが取れない分、モロに爆発を与えられる事ができ、手応えは充分にあった。が、これでも倒せないとなると少々きつかった。

満身創痍という訳ではないがアイラに受けた一撃一撃が骨を軋ませ、鈍い痛みを発生させていたのだ。 痛む右腕を押さえ、シルヴィアは噴煙を見つつも周囲を警戒する。


(少しダメージを喰らい過ぎた。これがどう響くか、だな)


シルヴィアは魔力を練り上げると身体強化を施す。さらに自然治癒力を高め、少しでも身体の負担を軽くしようと考えた。 ある程度の余力はあるとは言え、長引かせるのも得ではない。 早々に決着を付けなければならなかった。


不意に辺りを覆っていた噴煙が飛散し、殺気が辺りに充満し出した。殺気の主、アイラが姿を現した時は流石のシルヴィアも驚愕を浮かべる。


「あれだけの爆発の中で原型を保っていられるとは……最早称賛に値するよアイラちゃん」


シルヴィアの言葉に耳を傾ける様子は無く、肩で息をしながらアイラはシルヴィアを睨みつけていた。


「……私は負ける訳にはいかない! ここであなたを倒す!」


やはりダメージがあるのか、ふらつきながらも裂帛の気合いを見せると即座に移動を開始する。シルヴィアの真正面に現れると蹴りを放つが、シルヴィアの超反応により躱されてしまう。


「少し動きが遅いよ?」


そう言ってシルヴィアが地面に手を付くと巨大な魔法陣がアイラを囲むように四方に現れる。意表を突かれたアイラの動きが止まってしまう。 四つの魔法陣の内の一つ、下から上へとレーザーが射出され射線上にいたアイラは身体が浮かび上がってしまった。


「……私も負ける訳にはいかないんだ。大人しくててよ」


シルヴィアの言葉に呼応するように、レーザーが四方から射出され、次々とアイラの身体を貫いていく。 さらに射出速度が上がり、常にレーザーがアイラの身体を蹂躙する。速度が限界まで達した時、四方の魔法陣がガラスのように音を立てて砕け散り、そのかわりに極光の柱がアイラの身体を覆い尽くし、天に聳え立つ。


極光の柱は徐々に細くなっていき、数秒もすると満身創痍のアイラが姿を現わす。両腕は力なく下がり、側からみても立っているのがやっとだと分かる程だ。


「驚きを通り越して呆れすら抱くよ……」


と肩を竦めながらシルヴィアが嘆息混じりに言葉を吐く。しかし、まだアイラの目は死んでおらず野獣の如き眼光でシルヴィアを見据えている。その瞬間、シルヴィアの上半身が吹き飛ぶ。


「がっ……!!」


やはりアイラの攻撃だった。上半身が大きく仰け反り、片足が地から離れる。それを見逃さず、地面に着いている片足を払うとシルヴィアの後頭部を掴んでそのままシルヴィアの顔面を地面に叩きつけた。 嫌な音が響きシルヴィアの地面が血に染まっていく。

ピクリとも動かなかったが、アイラはシルヴィアの身体を仰向けにさせると、腹部に強烈な蹴りを入れる。


「ぐぅ!?」


苦悶の声が響き、地面を滑るようにして飛んでいくシルヴィア。やがて止まると起き上がろうと地面に手をつき、何とか四つん這いにまで持っていく。鼻血と頭からの流血が地面に滴り落ちるが知ったことではなかった。


「ごほっ、ごほっ……! 容赦なく女の子の顔面を潰しにかかる辺り、それだけ……、後が……ないのか」


シルヴィアが血だらけの顔で薄ら笑いを浮かべながらも何とか立ち上がる事に成功した。

両者満身創痍で、いつ倒れてもおかしくはない。しかし、今の攻撃でかなりのダメージを負ったシルヴィアが少々不利と言ったところか。


「……っ!!」


一秒にも満たない速度で三〇メートルの距離を詰め、鬼気迫るアイラの拳を鼻先を掠めるようにして躱したシルヴィアは、やけに頭の中が冷静でアイラの姿がよく見えた。

隙のあるアイラの腹部に膝蹴りを入れ、そこから顔面へのアッパーでアイラの顔面を跳ね上げる。 血飛沫が舞う中で、止めの後ろ回し蹴りがアイラの首を抉るように捉えるとアイラもまた地面を滑るように飛んで行った。


気を失ったのか、アイラの身体は微動だにせず、横たわったままだった。右腕を押さえたシルヴィアが瞬間移動で現れると微かに悲壮を漂わせた表情を見せながらアイラを一瞥する。


「全く……はぁ、はぁ……とんだ……化け物だよ。 聞こえてるか分からないけど、勝手に言わせてもらうよ……っ」


傷が痛むのか時折顔をしかめるシルヴィアだったがつらつらと喋り始めた。


「アイラちゃん……君の強さは敵としてなら脅威を感じるし、仮に味方だったなら心強く思う……。ホントは止めを刺したいところだけど、如何せん立ってるだけで精一杯だ。もし、アイラちゃんがhologramに嫌気が差したなら、私は全力でアイラちゃんを仲間に向かい入れよう。 逆に敵として立ちふさがるならまた全力で相手をしてあげるから……楽しみにしといてね。 文字通りの死闘、楽しかったよ」


それだけ言うと、シルヴィアは踵を返しその場を後にした。 分厚い雲に太陽が隠れ、戦いの熱を冷ますような凍てつく雨が降り始めていた。



「くっ……いてて」


降りしきる雨の中、シルヴィアは大木にもたれるようにその身を預けていた。かなりの距離を歩いてきたが、未だクラウディア達とは合流できずにいた。


「はぁ、はぁ……参ったな。思った以上にダメージが大きかった。 クラウディア……そっちはどうなった? 全員無事だと良いけど」


仲間の安否を気にし、問い掛けるが、問い掛けた所で返事が返ってくることもなく、虚しく雨音に消えていく。

大木に寄り掛かり、腰を下ろすシルヴィア。

息をゆっくり吐くと、全身の力を抜いて身体と気持ちを楽にさせる。 すると、何処からか声が聞こえた。 その声が聞こえてしばらくすると複数の足音まで耳に入ってきた。どうやらこっちに近づいて来てるらしい。声も大きくなっていき、やがてその声が聞き覚えのある声だと気付いた。


「全く、遅かったね。 タツヒコ君に長谷川さん……それにクラウディア……。ふふ……」


自身の仲間だと気付いたその声が耳に入ると、シルヴィアに安堵の気持ちが駆け巡る。

やたらと冷静になっており、思わず微笑を携えてしまうシルヴィア。らしくないな、と思いながらもしばらくはこの気持ちに身を任せていた。


「シルヴィア様!? お怪我を……っ! 今すぐ治療を」


「待った……クラウディア」


クラウディア達三人がシルヴィアを見つけた時、一目散にクラウディアがシルヴィアの治療に駆け出したがシルヴィアがそれを止めた。


「まず、皆が無事で何より……。クラウディア、あの男と交戦したでしょ? 結果は……?」


「……はい。 良いところまで追い詰めたのですが、逃げられてしまいました。申し訳ありません」


クラウディアが頭を下げ、シルヴィアが片手を挙げてそれに答える。


「いや、良くやった……。充分だ」


そう言って、シルヴィアはタツヒコと長谷川に視線を移す。 二人の表情は信じられないと言った表情でシルヴィアを見つめており、無意識に生唾を飲み込んでいた。


「……これが戦いってやつだよタツヒコ君、長谷川さん。 私でもこのザマ……敵がどれだけ強いか分かるよね?」


「シルヴィア……」


タツヒコが顔を悲痛に歪める。握りこぶしを作り、やるせない思いを噛みしめているようだった。


「私の場合は止めを刺すだけの力は残ってなかったからその場に置いてきた……。 つまりクラウディア達と意味合い的には同じになる。 次来たら奥の手を使うかもしれないな……。 クラウディア、起こしてほしい。 どうやら自力で起きるのは無理みたい」


「はっ……!」


クラウディアの肩を借りて、何とか立ち上がったシルヴィアにクラウディアは回復魔法を掛ける。しかしすぐに治る訳でもなく、当分はこのままだろう。


「さて、次の私達の目的地はファールランスっていう都市だ……。ここを抜けて北に行った所にあるらしい」


「ファールランス……」


「そう……。どれだけ掛かるか分からないけど、歩き続けてればいずれ着く……時間も惜しい。 行こうか」


こうしてシルヴィア達はファールランスを目指して北上して行った。

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