第9話 シルヴィアVSアイラ
「よっと……ここら辺でいいかな」
シルヴィアはアイラを地面に立たせると少し離れた位置に移動した。 タツヒコ達の場所からかなり離れた場所を選んだようだった。
辺りは相変わらず等間隔に巨木が並んでいるが、ちょっとした茂みもあるようだ。
「アイラちゃん……だったかな? どうして私がアイラちゃんを選んだと思う?」
シルヴィアが意地悪そうな笑みを見せながらアイラに問い掛ける。対するアイラは警戒しているのかシルヴィアを凝視しているが無言だった。
「黙りか。 まぁいいや……勝手に語らせてもらうよ。私が何でアイラちゃんを選んだのか、それは私が直感的に感じたアイラちゃんの力の本質……強大な力を潜在意識の底に感じたから」
「……っ!!」
シルヴィアの言葉に目を丸くするアイラ。
蒼と金の瞳が大きく見開かれる。その反応を見たシルヴィアはそれで確信した。
「その反応、どうやら図星のようだね。
さて、アイラちゃん……何か言う事はあるかな?」
「……私の力に最初から気付いた人は初めてです。 あなたを捕縛対象と認識し、hologramに連行します」
そうアイラが言い終わった刹那、シルヴィアの眼前に移動しており既に右腕を引いて攻撃モーションに入っていた。しかしシルヴィアも引けを取らない反応速度で頭を下げて躱す。 躱した勢いそのままに拳を握り締めてアッパーを繰り出した。
「っ!?」
シルヴィアのアッパーはアイラの顎先を掠めた。驚愕に染まったアイラの顔がシルヴィアの視界に入る。
「いきなり不意打ち? そういうの嫌いじゃないよ」
にこやかに微笑むとシルヴィアは攻撃を仕掛ける。顔付近への正確無比なラッシュ。 風切り音が威力の高さを物語っている。アイラはその全てを躱していた。
「私の力、見せてあげます」
アイラがそう呟いた時には既にシルヴィアの背後に回っており、シルヴィアの目が大きく見開かれ攻撃の手が止まってしまった。
それを好機と見たアイラは渾身の力で拳を振り下ろした。
「っ!!?」
シルヴィアはすんでの所で翻って腕をクロスして防いだ。インパクトした瞬間に衝撃波が発生し、シルヴィアが地面を滑って攻撃の衝撃を地面に流す。 防いだ両手が痺れるように痛むがそれを堪えて顔を上げると、見上げた先に空中で足を大きく引いたアイラがシルヴィアの目の前にいた。
流石に避ける事は出来ず、迫り来る足は強烈な蹴りとなってシルヴィアの顔面を振り抜いた。
「っっ!!」
まともに喰らったシルヴィアは土煙を巻き上げながら吹っ飛ばされた。 シルヴィアは土煙の中で何とか身体を起こし、口の中に溜まった血の混ざった唾を吐いた。
(っ……! 思ったよりやるな。 これは私も負けてらんないな)
シルヴィアは地を蹴ると凄まじい速度でアイラの元へ移動した。 あまりの速度にシルヴィアを覆っていた土煙が四散する程だった。
「……タフですね」
「ちょっと予想外だっただけさ」
「……そうですか」
シルヴィアの乱撃を針の間をすり抜けるようにして躱すアイラはどこか余裕が感じられた。それに少しムッとしたシルヴィアは身体に蒼いオーラを纏って身体強化を施した。
そのおかげかシルヴィアの攻撃はアイラに当たり、アイラの身体がよろめく。
「ならこれも予想外ですね」
轟音と衝撃波が駆け巡り、アイラの微笑と共に放たれた言葉がシルヴィアの思考を停止させた。
(なっ……)
言葉が出なかった。全力で決めに行った渾身の一撃を華奢な身体の、さらにか細い左手で止められたからだ。
「私の力の本質を見たというのにこの程度?
拍子抜けも良いとこです。 さて……まだやりますか?」
アイラの心底残念そうな思いが声色から伝わった。
「っ!!」
シルヴィアは歯軋りをするとアイラから掴まれてる腕を振りほどき、膝蹴りをアイラの腹にめり込ませる。 一発で終わる筈もなく、何度も膝蹴りを喰らわし、最後に顔面を殴り飛ばした。
「……面白い。漸く本気を出せる相手を見つけた……。本当に久し振りだよ、本気を出すのは」
「本気……私も舐められたものですね。 今まで手加減されてたなんて」
刹那の間にシルヴィアの後ろに回り込んでいたアイラはシルヴィアの首に手刀を喰らわそうとするが、シルヴィアの反応速度の方が一瞬速く、アイラの手首を掴むと地面に叩きつけるように投げた。
「きゃあ!!」
背中から叩きつけられたアイラから声が漏れる。 しかしすぐに起き上がるとシルヴィアを睨めつける。しかしシルヴィアは動じずに頭上に複数の魔法陣が展開させると、アイラに向けてナイフが雨のように降り注いだ。
アイラは素早く立ち上がると一本一本のナイフの軌道を読みながらバックステップを繰り返してそれを躱していく。
全部躱し切ったアイラはシルヴィアの姿が見当たらない事に気が付いて辺りを見回す。
「……」
前後左右を素早く見るがどこにもシルヴィアの姿は無かった。一歩踏み出そうと足を動かした瞬間、地面に刺さったナイフが一斉に光り輝きだし、それが連鎖的に爆発を起こし瞬く間にアイラの姿を爆風と砂塵が覆った。
「よっ……と。さて、効いてくれると良いんだけど……"剣戟爆破"」
そういって地面に手を付きながら着地するシルヴィア。シルヴィアはナイフにアイラの意識を集中させ、その間にアイラの真上の上空に移動していたのだ。 そしてシルヴィアがいない事に気付いたアイラをナイフを起爆剤にさせてダメージを負わせるという作戦だった。
「……ま、これで倒せるなら苦労はしないんだけど」
シルヴィアの言葉とともに砂塵の中からほぼ無傷のアイラが出てきた。が、服には細かい砂等が付いており汚れている。
「私は普通の人とは少し違います……。 第二ラウンドと行きましょう」
アイラは紅いオーラを身体全体に纏わせると地面を抉りながらジグザグに移動し始めた。
先程とは違い、急に動きに派手さが出てきた事に内心驚きながらもアイラの動きについていくシルヴィア。
アイラから繰り出される猛撃にシルヴィアは顔を歪ませながら防ぐので精一杯だった。
致命打となる一撃は喰らってはいないが、骨にまで響く重い打撃はそう何度も喰らえなかった。
「のぉ……っ!!」
シルヴィアは鬱陶しそうに声を上げ、瞬間移動でアイラから距離を取った。
(肉弾戦は私と引けを取らない実力……。下手すると奥の手を使わされそうだな。 攻撃や威力もさる事ながら一番警戒しなきゃいけないのは……)
シルヴィアは後ろに気配を感じるとすぐさま飛び退き、後ろを確認する。 シルヴィアがいた場所の地面が大きく陥没していた。
「……やりますね。初見で私の攻撃をここまで躱すとは。侮りは禁物ですね」
「言ってくれるねぇ……! 私の反応速度ギリギリだよっ!」
(この半端じゃない移動速度。 これが一番厄介だ……。 瞬間移動とも違う、まるで初めからそこにいたかのように錯覚するような……そんな感覚)
シルヴィアは苦笑を漏らす。 超人的な反応速度を持つシルヴィアでもアイラの移動速度は解せなかった。
(もしこれが私の感じていたアイラちゃんの力の一部だとしたら、恐ろしい事はない)
シルヴィアが考えているのに夢中でいると不意に腹部に刺すような痛みが襲ってきた。
「ぐっ……!?」
さらに間髪入れず顔面を殴られ後ずさるシルヴィア。
「交戦中に呑気に考え事ですか……。余裕のある人かよほど追い詰められてる人ぐらいしかしませんね。 あなたは前者だと思いますが」
「くっ……!」
紅いオーラを纏ったアイラが追撃として前蹴りを放つ。シルヴィアは腰を引いてそれを躱し、バク転を繰り返してアイラと距離を取る。
「"蒼雷"」
一瞬強く発光したかと思うと、シルヴィアの身体にはスパークを伴った雷を身体に纏わせていた。
「……何ですか、それ」
シルヴィアに起こった現象に理解が追い付かないアイラは思わず疑問をぶつけた。
「魔法ってやつさ……。これはもうちょっと使い勝手が良い時があるけどね。ギア、上げるよ!」
「っ!?」
風を切る音がアイラの耳に届いた時には既にシルヴィアの拳が目の前に迫っていた。不意を突かれた事により行動が遅れたアイラの顔面にめり込む。
「がっ!?」
アイラのくぐもった声が響き、砂塵を巻き上げながら面白いように飛んでいく。木を何本か折ったところで漸く止まった。
「ふむ……久し振りに使ったけどそんなに鈍ってないな……」
自身の拳を見ながら呟くシルヴィアは何処か嬉しげな表情を見せていた。おもむろに左腕をアイラの倒れている方向に伸ばす。 さらに人差し指と中指を伸ばし、暫くするとそこに電気がスパークしながら集約されていく。
「雷の速度って知ってる……? 光と同等の速度の約三◯万km/s……これが何を意味するか、わかるよね。 さらに威力は速力に比例するから破壊力も申し分ない……じゃあね」
シルヴィアから放たれた雷は荒れ狂う奔流となり一直線に駆け抜けた。 遥か後方でドーム状に光輪が展開され、上空にスパークが走っていた。
「……」
シルヴィアは一応確認の為、アイラが倒れた所を見る事にした。 瞬間移動で移動し、食い入るように見つめた時、ようやく異変に気付いた。
「アイラちゃんがいな……っ!?」
シルヴィアの言葉が遮られ、横からの衝撃がシルヴィアの身体を軽々と吹き飛ばした。シルヴィアは地面に叩きつけられ、さらに一◯数メートル程地面を転がった。
「うっ……! ぐぅ……」
痛みを堪えながらも立ち上がり、前方に人影が見え、蒼と金の瞳がシルヴィアを射抜いていた。
「まさか……雷に打たれても死なないなんて、どんな化け物? 笑っちゃうなぁ」
「あなたの技が放たれる前に回避したんですよ」
アイラの声が聞こえた瞬間には既に攻撃を行っており、先程よりも激しく雷を身体に纏わせる。
「やれやれ……とんだ反射神経だよ。 末恐ろしいね」
嘆息と共にやや呆れた口調でシルヴィアがボヤく。
「あなたこそここまで私の攻撃をまともに受けて反撃する余裕があるんですから私から見ればあなたの方が化け物ですけどね。
ナンバーズの上位メンバー並みの実力ですよ」
ポロっと溢したアイラの何気ない言葉にシルヴィアの眉が微かに動いた。
「ナンバーズ……?アイラちゃんはナンバーズじゃないの?」
アイラは言われてから、失言をしたと気付いたが後には引けず言葉を続けた。
「はい。 私は『闘神の加護を受けし者』アイラ・シルエート。 hologramの末席です」
それを聞いたシルヴィアは思わず顔を引きつらせた。
「冗談でしょ……? 末席がこんな化け物染みた実力してる時点でどうかしてる……」
「私は末席ですが、実力はナンバーズの大半を凌駕しています……。さて、ここまで喋ってしまった以上、あなたをどうしても連行しなければいけなくなった……。気絶させてでも連行させます!!」
紅いオーラを纏ったアイラは膝の屈伸運動を利用し、爆発的な加速でシルヴィアの鳩尾に肘をめり込ませた。
「がっ……はぁ……っ!!」
骨の髄まで行き渡る一撃にシルヴィアは苦悶の表情を浮かばせるが、タダでは転ばなかった。
「"ダークネスワールド"」
シルヴィアの真下に巨大な魔法陣が展開させると同時に魔法陣から闇色の植物のツタのようなモノが出現しアイラの身体を拘束した。
「はぁ……はぁ……やっと、捕まえた。アイラちゃん相手だと流石に長くは保たないけど、ちょっとした保険を掛けさせてもらうよ……」
「……誰が、こんなもの!」
アイラは何とか抜け出そうともがくがアイラの華奢な身体を締め上げているツタは想像以上に頑丈だった。
「無駄だよ。 これは一定時間が経過しないと抜けられなくなってるんだ。 で、この拘束時間を利用した攻撃が……」
シルヴィアの言葉に呼応するかのように頭上に三つの魔法陣が現れた。
「"剣戟爆破"だ。 範囲が狭ければ狭い程貫通力と火力が上がる。 逆に広範囲になればなるほど威力は落ちる。ナイフ一本分の範囲だと、常人の五臓六腑を吹き飛ばせる……さて、何本耐えれるかな?」
シルヴィアが言い終わったのを合図にナイフが雨の様に降り注ぎ、何本もアイラに刺さる。 そしてアイラが睨めつける表情を見せた後、ナイフが白い光に包まれ爆発を起こした。
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