第7話 第二の世界 ミラナス・ナハス
空間に穴が開き、そこから飛び降りるようにシルヴィア達は地面に着地する。全員が地面に着くと空間は徐々に小さくなっていき完全に閉じられた。
「ふぅ……到着っと。 しかし、これはまた広い所に出たな……。荒野かな?」
だだっ広い荒野には巨大な岩石が所々に点在していた。何処を見渡しても荒野が続いており、満月の光が幻想的な雰囲気を作り出していた。
「夜に着いたのは好都合だ。ここが人気の少ない荒野ってのも相まってるね。 さて、まずは夜通し歩いてこの荒野を脱しようか。 野宿も出来なさそうだしね。 盗賊とかに襲われちゃ後々面倒くさそうになりそうだし」
シルヴィアがウィンクをしながら言う。月明かりに照らされるその姿は天女のような美しさで、タツヒコと長谷川は少しだけ見惚れていおり、クラウディアはその二人を蔑むような目で見ていた。
「おう見慣れない奴等がいるな! おい、金目のもん置いて行けぇ!」
不意に怒号がシルヴィア達の耳を駆け抜けた。視線をそちらに動かすと、ナイフをチラつかせた盗賊と思わしき五〜六人の男が立っていた。 服装は軽装で動きやすそうだっだが大した問題では無さそうだ。
「あちゃー、お約束だねぇ」
とシルヴィアが大仰に溜息を吐き、顔を手で覆ってみせる。
「おっ、可愛い女の子も居るじゃねぇか……姉ちゃん達で楽しませてくれても良いんだぜ? ゲェへへへへ」
バンダナを巻き、顎髭が逞しいリーダー格の男が下卑た笑いを浮かべながらシルヴィアとクラウディアを一瞥する。それに倣って残りの盗賊の男達も下卑た笑みを同じように浮かべた。クラウディアは今にも飛びかがりそうだったがシルヴィアがそれを制す。
シルヴィアがわざとらしく地面にへたれこむ。 そして上目遣いで盗賊たちを見遣った。
「あの、仲間には手を出さないでください……何でもしますから」
そう涙目ながらに言うと、おもむろにスカートをずらし始めた。 シルヴィアの綺麗な太ももが露わになり、白と青の縞々の下着をチラつかせるように見せる。それを見た盗賊達は鼻息を荒くさせ、興奮状態になる。 中には鼻血を出している者いる程だった。
「分かってるじゃねぇか姉ちゃんよぉ……へへ。 散々楽しんだ後に『hologram』に売り飛ばしてやるぜ」
「……hologram?」
「ん? 怖気付いたか姉ちゃん……? そりゃそうだよなぁ。 世界的組織であり戦闘狂の集まりでもある『hologram』だ。俺達なんか可愛く見えるぜぇ……ゲヘヘ」
盗賊はそう言った後にシルヴィアの太ももに目を向けた。鼻の下が伸び切っており、何を考えているのかを想像するには容易かった。
「あの、どうせならもっとhologramについて教えてくれませんか?」
シルヴィアは胸元をはだけさせ、色目を使って男達にせがんだ。男達はやはり興奮し、顔を見合わせている者もいた。
「おいシルヴィ……」
流石にマズイと思ったのか、タツヒコが声を掛けようとする。が、タツヒコの声に気付いたシルヴィアはタツヒコを睨みつけ、強い殺気を一瞬だけ放った。
「うっ……」
手を出すな、と言わんばかりのシルヴィアにタツヒコが後ずさりし、口を閉じた。それを見た盗賊の男達は何が可笑しかったのか笑い始めた。
「ギャハハハハ! 女の尻に敷かれてやがるぜ。 そうだなぁ、男達の前でこの姉ちゃん達ヤろうぜ?」
「おー良いなそれ。 よーし、お前ら男達を倒せ」
リーダー格の男が命じ、三人の盗賊がタツヒコと長谷川に向かって襲い掛かった。タツヒコ達は即座に身構えそれを迎え撃つ。しかし、次の瞬間には三人の腰から上が抉り取られたかのように消滅し、下半身が血塗れと化した。
「はっ……?」
盗賊のリーダー格の男と、タツヒコと長谷川が間の抜けた声を同時に発した。
「やれやれ……もう少しだったのに。ま、面白そうな組織の名前は聞けたからそれだけは大きな収穫だね……。君達、もう散っていいよ。私の身体を舐め回すように見たんだ。最初から生かして帰すつもりはない……」
ゆらり、とシルヴィアが立ち上がり底冷えするような口調で言った。シルヴィアの大きな目は細められ、蒼い眼光が盗賊の男達を射抜いた。
「う……うわあああああああああああああああ!!!」
男の狂乱染みた悲鳴が響き渡った。
*
原型を留めてない、血みどろの肉塊が転がり、下半身だけの死体が無造作に地面に落ちていたりしている。 全ての盗賊達を始末し終えたシルヴィアは氷のような冷たい表情で肉塊を見下ろしている。
「……」
踵を返し、タツヒコ達の所に戻ったシルヴィアはすぐにいつもの調子に戻っていた。そして、満月の月明かりを頼りに荒野を歩いていく。
「なぁ……俺ら数人でそのhologramってのに挑むのか?」
「そうだね。 ま、激戦になると思うから覚悟しといた方が良いでしょう。もちろん、死ぬ場合もあるからそれも頭に入れておいた方が良いね。私も例外じゃないし」
シルヴィアがさらっと恐ろしい事を口走ったが当然の事だろう。敵がどれ位いるか分からない上が、盗賊の男が漏らした情報を推測すると、シルヴィア達より多いのは火を見るよりも明らかだった。
「ま、キーマンが居ても厳しいかな。 キーマンだけじゃなく、そこまで尽くしていない敵を味方に引きずり込むのもありだね。仲間は多いに越した事はない」
シルヴィアはやや軽い口調で続けて言う。
「そうか……」
タツヒコは何か考えるように呟いた。それっきりシルヴィア達は話をせず、黙々と歩き続けた。そして空が白み始めた頃、ようやく街が目と鼻の距離の所まで来た。シルヴィアは立ち止まると、タツヒコ達と向き合った。
「街はもうすぐ、目と鼻の先だ。一応、この世界の文字は翻訳されているから分かるはずだよ。凄いでしょ、技術の賜物なんだよ!
……こほん、まぁそれは置いといて。 さて、勝負に置いて一番大事なのは情報だ。力もそうだけど、やはり敵の事をどれだけ知っているか……これが鍵だ」
シルヴィアが凛とした口調でタツヒコ達に言い聞かせる。タツヒコや長谷川は聞き逃す事がないよう耳を傾けていた。
「とにかく出来るだけ情報を集めよう。それが一番の近道だよ」
シルヴィアはそう言い切ると向き直って歩みを進めた。それに続いてタツヒコ達も歩き出す。 そしてシルヴィア達を歓迎するかのように夜が明け、朝日が昇った。
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