第5話 帰還

長谷川を仲間に引き入れたシルヴィア達は魔王城に帰る為の下準備をしていた。


「なぁ長谷川さん、長谷川さんのいるこの世界の人間達は皆何かしらの能力を持ってるのか?」


シルヴィアとクラウディアが下準備に忙しい為、暇を持て余しているタツヒコと長谷川はお互いに気になっている事を聞き合っていた。タツヒコの質問に長谷川は唸りながら眉間にシワを寄せていた。


「うーん、そうだなぁ……恐らく皆持ってる筈だ。何かしらの能力を……な。タツヒコの世界は魔法ってやつだったな。 俺らの世界じゃあ魔法は空想上の存在みたいなものなんだ。だからにわかには信じられないが……お前らがここにいるってのが証明だしな」


長谷川はやはり眉根を寄せながら言う。その発言にタツヒコは首肯し、シルヴィアに視線を向ける。


「そうだなぁ……ただ、世の中には逆立ちしても勝てない化け物は存在するって嫌でも認識させれるよ……。シルヴィア、あいつには何も通じなかった。 剣も体術も魔法も何もかも……! あいつは本当に、化け物だ」


タツヒコは悔しそうに歯軋りをしながら絞り出すように言葉を吐き出す。長谷川もそれには共感したのか何度も首を振っていた。そして口を開く。


「確かにな。 ただ、あいつが仲間なのはこの上ない位の強味だろ? 俺はここの世界で産まれたから、この世界から離れるのは辛いが、シルヴィアの言葉に救われてここにいる……だからたとえ命を落とす事になってもシルヴィアに着いてくぜ」


「長谷川さん……」


確固たる決意を胸に、嬉しそうに語る長谷川にタツヒコはどのように言葉をかけて良いのか分からなかった。 確かに長谷川はシルヴィアに救われたと言っても過言ではない。死の危険もあるとシルヴィアは言っていた。

タツヒコとは違い、長谷川は能力を使えはするが、身体能力は通常の人間の範囲内のそれだ。今のままだとすぐに死んでしまうのではないかという思いがタツヒコの頭をよぎった。しかし、そんな事を振り払うように頭を横に振るった。


(いかんいかん……本当になったらどうする。悪いイメージは振り払おう。……俺もシルヴィアの足手まといにならないようにしないとな)


タツヒコも長谷川のポジティブな気持ちに感化され考えを改める。


「やっ、タツヒコ君! 帰る準備出来たよ。

長谷川さん、行っちゃったよ? あとタツヒコ君だけだから早く!」


「うわっ、シルヴィア!?」


不意に声を掛けられたタツヒコは素っ頓狂な声を上げてしまう。シルヴィアはタツヒコの反応が気に食わなかったのか眉根を寄せた。


「そんな驚く事ないじゃん……」


と口を尖らせるシルヴィアにタツヒコは平謝りをして許しを請う。 シルヴィアは鼻を鳴らしてそっぽを向いてそのまま歩き出した。

タツヒコも慌ててシルヴィアの横まで走り、シルヴィア達が作ったであろう空間に空いた穴にシルヴィアと同時に入り込んだ。



「やっと帰って来れた……」


と疲れたような口調で呟き、机に突っ伏しているのはシルヴィア。余程疲労が溜まってたのか、いつもの可愛らしい顔は何処へやら、眉根を寄せて渋い表情をしていた。


「シルちゃん……行儀悪いよ。 ほら、勇者君もきちんと座ってるんだからシルちゃんもしゃんとしよう?」


とメイド服姿のクラウディアが犬耳としっぽを忙しく動かしながらシルヴィアの姿勢を無理矢理正す。シルヴィアは間の抜けた顔をしていたが、目を見開くとわざとらしく咳払いをした。


「んんっ……! 見苦しい所を見せたね。さて、まずはお疲れ様……と言いたい所だが長谷川さん、どうだい? この魔王城は?」


「いや、何か凄いな……会議室みたいな感じ……だな」


「ん、実際会議室だしね、ここ。 早速で悪いんだけど、今回の反省点を述べようと思う」


シルヴィアの言葉に雰囲気というか空気全体が重くなる。 タツヒコと長谷川は本能が危険を感じ取ったのか、姿勢が一気に直立になる。


「タツヒコ君……何故君はそんなにも一対一の戦いにこだわろうとする? 多勢に無勢で戦うのがそんなに嫌? 舐めすぎだよ……勝負の世界を、殺し合いの世界を……」


「うっ……」


鋭い視線と共に辛辣な意見がシルヴィアの口から出る。あまりの雰囲気にタツヒコは口ごもってしまう。 シルヴィアの言ってる事は正しかった。今回のタツヒコはほとんどの戦闘をシルヴィアに任せており、自身が戦ったのは警察官一人と長谷川だけであった。

それに対しシルヴィアは初戦である主婦のおばちゃん相手に多勢に無勢であるにも関わらず瞬殺する戦果を挙げていた。


「……黙ってちゃ分かんないんだけど?」


シルヴィアの厳しい口調がタツヒコの心を抉る。脂汗が滲み出ており、口を開こうにも開けなかった。


「……多勢に無勢は卑怯だと思ってるからだ。 だから、一対一にこだわっているんだ……」


声を震わせながらやっと振り絞って答えを出したそのタツヒコの言葉にシルヴィアは聞き飽きたかのような呆れを含んだ嘆息を零す。


「その理屈じゃあ、こっちが無勢として、タツヒコ君以外が全滅しても向こうが多勢だから戦えないって言ってるようなもんなんだが? そんなちっぽけなプライドは捨てた方が良い。 お前はそのちっぽけなプライドを守る為に仲間を犠牲にするのか?」


「……っ!!」


強い口調だが明らかに正論のシルヴィアに周りも押し黙り、タツヒコはそのシルヴィアの言葉にハッとする。


「……済まない。 シルヴィアの言う通りだ。

仲間を犠牲にする位なら俺はプライドを捨てようと思う……」


「……思う? そんな気持ちじゃダメだ。断言しろ……。プライドも何もかもかなぐり捨てて自分の為、仲間の為に奔走すると。そのくらいの覚悟を持つんだ……良いねタツヒコ君」


厳しい口調だったシルヴィアが最後だけは口調を元に戻し、言い聞かせるようにタツヒコに確認を取る。タツヒコは頷いてそれを肯定した。 それを見届けたシルヴィアはいつもの柔和な雰囲気に戻った。


「さて、次は第二の世界だね〜。次からはどの世界に着くか分からないよ。未来かも知れないし、私達の世界みたいに魔法があるかも知れない……。 キーマンを見つけ出し、仲間にする。 ついでに悪の組織も壊滅……キーマンは私だけにしか分からない。 次の世界には居ないのかも知れないし、二人いる可能性もある。ま、行ってみなきゃ分かんないね」


シルヴィアが軽い口調で説明し、全員がそれに首肯する。 意見する者は居なかった。


「よし、決まり……。第二の世界には三日後に行く事にする。 それまで各々身体を休めておくように」


シルヴィアのその言葉で今日の所は解散となった。 シルヴィアは次の第二の世界が熾烈を極めるような激しい戦いになる事を薄々感じ取っていた。 そして同時に胸騒ぎも微々たるものだが感じていた。


そのシルヴィアの胸騒ぎの通り、第二の世界は熾烈を極める激闘を幾度も繰り広げる事になるのだった。

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