第3話 第一の世界
シルヴィアが目を開けると、ただっ広い広場のような場所にいる事が把握出来た。子どもからお年寄りまでおり、見慣れない遊具で遊ぶ子ども達も見受けられた。
どうやら異世界の転移に成功したらしい。
「……成功したみたいだね。ここが異世界……第一の世界か」
シルヴィアが辺りを見回しながら感慨深そうに呟く。そしてタツヒコの方に身体を捻ると耳を貸せというジェスチャーをし出した。
「ん? どうしたシルヴィア? 耳?……分かった」
タツヒコは訝しげながらもシルヴィアに耳を貸した。
「タツヒコ君、良く聞いてくれ。まず、私達はこの世界の人達から見れば異世界人だ。なるべくバレずに長谷川さんを探したい……。
あと、この世界の住人がどんな能力を持ってるかも分からない……派手な行動は慎むようにしてね?」
「お、おう。 気をつけるぜ」
シルヴィアはタツヒコの返事を聞くとタツヒコの側から離れる。 そしてまた辺りを見回し始めた。
(……私達が異世界人とバレたら戦闘は避けられない。そうならないためにも策は練っときたいんだが……。敵と認識されたらおしまいだ。……ま、万が一ここの人達と戦闘になっても負けない自信はあるから良いけど)
シルヴィアは思考に耽るのに夢中で、シルヴィアに近付く人影を認識するのが遅れてしまった。
「ちょっとあんた! 聞きたい事があるんだけど!?」
「っ!? は、はい! なんでございましょう!?」
不意に声を掛けられ若干声が上擦るも何とか平常心を保ち、返答をするシルヴィア。
シルヴィアの目の前には中年のおばちゃんが立っていた。 服装も地味で、長袖の服、太もも辺りが隠れる長さのスカートを履いていた。 表情は眉間にシワが寄っており、如何にも不機嫌そうだった。 しかし、シルヴィアと目が合うといやらしい笑みを浮かべ、口を開けた。
「あなた達、異世界人でしょ? 他の人の目は欺けても私は欺けないわよ?……ねぇ、シルヴィアちゃん……?」
「っ!? なっ……」
いきなりの事で思考が追いつかなくなった。
と同時にシルヴィアの頭の中でいくつもの疑問が駆け巡った。
(何で見抜かれた!? いや、そもそも私達がこの世界に来てからまだ五分経つか経たないか……それなのに、もう…… 一旦距離を取ろう)
混乱する思考を即座に切り替え、この中年のおばちゃんが危険と感じたのか距離を取るシルヴィア。 異常を察知したタツヒコがシルヴィアの隣へ駆け寄る。
「どうしたシルヴィア?」
「私達が異世界人だと気付かれた。 戦闘はできるだけ避けたかったけど仕方ないね。タツヒコ君……君は背後を。挟み撃ちにする。頭数で勝ってる場合、囲んで叩くのが定石だ」
「ちょ、ちょっと待てよ! いきなり過ぎないか!?」
シルヴィアの急過ぎる展開についていけないのか、タツヒコが声を荒げる。そんなタツヒコを前にシルヴィアは一瞬顔を歪ませると、タツヒコから目線を逸らした。
「ま、いきなり過ぎて状況が理解出来ないのも分かる……全く、私の時は全力で相手してきた癖に……」
「うっ……そ、それは」
「どうせサシじゃないと……とか考えてそうだし、良いよ。 これは勝負じゃない。 殺し合いだ……タツヒコ君の甘い考えじゃすぐに壁にぶち当たる事だし、今はそこで見ててよ。私が戦い方ってのを教えてあげるから!」
シルヴィアがおばちゃんに向き直る。おばちゃんは未だいやらしい笑みを浮かべたままシルヴィア達を観察していた。
「終わったかしら〜? シルヴィアちゃんに……タツヒコ君。 あなた達は異世界人……まだこの世界の住人の能力を知らない。 "能力・情報拡散"。 ……これで私の半径五〇〇メートル圏内にいる全ての人達にあなた達の情報が行き渡った。 おばちゃんの情報収集は早いのよ」
おばちゃんは胸を張るようにして誇らし気にしていたがシルヴィアはおばちゃんの言葉に耳を疑った。
(半径五〇〇メートル以内に……情報を拡散!? くっ、まずい。 思ったより広範囲だ。
先手を取るしかない!)
これ程までに厄介な能力を持つおばちゃんを相手にするのは正直シルヴィアは初めてだった。が、相手が戦闘タイプじゃないのが不幸中の幸いだろう。 すぐさま先制攻撃に移ろうと足に力を入れ移動を始めようとした時、おばちゃんの表情が一層いやらしいものになった。
「"能力・主婦友の会"! 皆さーん!こちらですよー!集まって下さい!」
おばちゃんの声と共に同じような背格好の大量のおばちゃんが何処からともなく姿を現した。皆、手に武器を持っており、フライパンからハエ叩きまでバリエーションが豊富だ。 しかしシルヴィアは魔王城から来たため、武器というのは分かるが、本来の用途は分からなかった。しかしシルヴィアは不敵に微笑んだ。
「何笑ってんのよ! 小娘の分際で!」
「そうよそうよ! 生意気よ!?」
口々にシルヴィアを蔑むおばちゃん達だったが、シルヴィアは意に介した様子を見せず、おもむろに口を開いた。
「一ヶ所に集まってもらったおかげで殺しやすくなったわ。じゃ、おばちゃん達、さようなら……良い夢を」
清々しいまでの笑みを携えながらシルヴィアが右手を横に薙ぐ。シルヴィアの頭上に数個の魔法陣が展開され、そこから無数のナイフが飛び出しておばちゃん達の身体をメッタ刺しにしていく。 おばちゃん達の悲鳴が公園内に響き渡る。 突如身体に刺さったナイフも地面に刺さったナイフも発光し始める。
次の瞬間、地を揺るがす程の振動と、空気を震わす爆発音が黒煙と共に上がった。
「"剣戟爆破"。 多くの敵を一度に屠るならこれが一番ね」
血生臭さが辺りに蔓延する中、シルヴィアは顔色一つ変えずに言った。 爆発が起こった地点はいまだ粉塵が舞い、見る事は出来なかった。シルヴィアの耳に甲高い悲鳴と怒声が聞こえてきた。 今の騒ぎで公園内で遊んでいた人々が避難を始めたのだろう。これはシルヴィアにとって好都合だった。
(やっぱ恐怖を植え付けると自分の身可愛さに逃げ出す人が多いな。おばちゃんには悪いけど犠牲になってもらうよ。 さて、これから長谷川さん探しを本格的に始めたいんだけど……情報が足りなさ過ぎる)
「シ、シルヴィア……」
顔を上げると申し訳無さそうな顔をしてるタツヒコが居た。シルヴィアは諦めたようにため息を吐くと空を見上げた。
「タツヒコ君……もし君なら、あの状況で殺し以外に切り抜ける方法を見つけられてたかな?」
「え……? っ、難しいな。多分、俺もダメだったと思う。シルヴィアが正しいとも言える訳でもないけど、悪い訳でもないだろ?」
そんなタツヒコの言葉で、シルヴィアは可笑しかったのか、クスっと笑う。
「ふふ、そうだね……。さて、これからどうしよっか?」
そう、まだ問題は山積みに残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます