第2話いざ、異世界へ

「さて、何から話せばいいかな……」


椅子に座っているシルヴィアが考えるようにして手を顎に当てながら呟く。机を挟んで向き合うように座っているタツヒコはそんなシルヴィアを凝視していた。


「まぁ細かい事は置いといて、簡単に説明しよう。まず、異世界に行きます。そして異世界に行ったら、異世界のキーマンとなっている人物に接触して仲間にします。 これが仲間集めね。 で、計画の本筋は……増え過ぎた異世界の悪い奴等をぶっ倒そうって話」


シルヴィアがおもむろに立ち上がり、鼻息を荒くしながらタツヒコに説明をする。タツヒコは半目でシルヴィアを見て手を挙げていた。


「ん?どうしたのかねタツヒコ君? 質問かな?」


シルヴィアが口角を吊り上げて笑う。今のシルヴィアはさしずめ教授と言った所だろうか。


「ツッコンで良いか?」


「却下」


「何で即答!? つーか話がぶっ飛んでるな。 異世界に行くのは解る……仲間集めもまだ解る。 だがな、増え過ぎた異世界の悪い奴等を倒す……これが意味分からん! 何がしたいの!?」


タツヒコが机を思い切り叩きながらツッコむ。 そんなタツヒコのツッコミは予想済みだったのか、シルヴィアは嘆息を吐くと人差し指を立ててタツヒコの顔の前まで近付けた。


「いい? 人間ってのは善悪どちらにも染まりやすい存在でね……。特に悪の人間は何処の世界でも一定数はいる。 一定数なら良いんだよ。 まぁ増え過ぎるとこちらにも色々不都合な事が起こり得る可能性もあるからね」


シルヴィアは一旦言葉を切り、短く息を吸うとまた話始めた。


「その不都合な事を無くす為に悪の人間を狩るって言うのかな。まぁそんな感じだよ。

因みにその悪の思想の人がキーマンの場合は生死は問わない。説得して仲間にするも良し、殺すも良し、その人次第ね。ま、ざっくり説明するとこんなところかな」


息を吐くと、シルヴィアは指を鳴らす。すると紅茶がテーブルに現れる。 その紅茶をシルヴィアは上品な動作で口に運んで飲んだ。

タツヒコはその紅茶を飲む動作に見惚れていたがすぐに頭を振るって思考を現実に戻す。

そしてわざとらしく咳払いをした。


「ゴホッ……! 釈然としない部分もあるが、大体分かった。 で、悪人達を倒したらどうするんだ? ここに帰ってくるのか?」


「そうね。 一通り倒せたらしばらくは余暇って事で異世界に滞在するのもいいわね。まぁでも、娯楽も何もない世界には居たくもないからそんな世界にぶち当たったらさっさと用件済ませて帰りたいなぁ」


「おい……そんなんで大丈夫か……」



異世界に行く前からシルヴィアの事で頭を悩ませるタツヒコ。 頭を押さえて思わずため息を漏らした。


「大丈夫だよ。 あ、これから行く世界だけはこっちで決めてあるから安心してね。パパが選んだらしいから。パパ曰く、"派遣社員の長谷川を探し出して仲間にしろ" って言うんだけど……ホントにそんな人いるのか不思議」


席に着いたシルヴィアが退屈そうにため息を漏らしながら喋る。


「派遣社員の長谷川さん……か。ま、異世界に行ったら分かるでしょ。早速出発……と。 その前に、私とタツヒコ君だけじゃ物足りないからパパのペットであり、私の友人でもあるクラウディアも連れてくからね。 実力は保証するよ。多分タツヒコ君でも勝てないかも。 クラウディア、いらっしゃい」


流れるような動作でシルヴィアが指を鳴らす。その刹那、メイド服に身を包んだ犬耳の女性が礼儀正しい姿勢でシルヴィアの横に立っていた。 クラウディアと呼ばれた女性の外見はブロンドのポニーテールにどこか幼さが残る顔立ちが際立つ女性で、上品そうな雰囲気が全身から醸し出されていた。


「話聞いてたわね? 紹介するわ。 クラウディア、こちら勇者のタツヒコ君よ。 今回の計画に快諾して参加を申し込んでくれたわ。

そしてタツヒコ君、このメイドがクラウディアよ。 犬耳なのはちょっと訳ありなの。クラウディア、挨拶なさい」


シルヴィアの言葉にクラウディアはタツヒコに向かってこの上ないお辞儀をした後、ゆっくり元に戻った後に口を開いた。


「初めましてタツヒコ様。 私は魔神ヴァルグ様の従属であり魔王シルヴィア様のメイドをさせていただいてます。以後お見知り置きを……」


「は、はい……タツヒコです……その、よろしくお願いします」


タツヒコはクラウディアのあまりの礼儀正しさに圧巻され、言葉が出てこなかったが何とか絞り出すように喉を震わせた。

二人の自己紹介が終わったのを見計らったシルヴィアが勢い良く立ち上がる。 椅子が後ろに倒れ、その音にタツヒコは身を震わせた。が、シルヴィアとクラウディアはそれを何事もなかったかのように受けながす。


「さて、二人の自己紹介も済んだし、いよいよ異世界に出発だね! ちょっと専用の部屋まで飛ぶよ!」


シルヴィアが言い終わるや否や、部屋全体に魔法陣が展開され、強い光により視界が白に塗り潰される。


「タツヒコ君……目開けても良いよ?」


「んあ? お、おお……悪い。 ん? 何だこの部屋?」


シルヴィアに言われた通り目を開けたタツヒコの眼前に映ったのは、空間がねじ曲がったかのような、渦を巻いた何かがそこにはあった。


「シルヴィア、何だこれ……」


「お! 良くぞ聞いてくれた! これはこの魔界と異世界を繋ぐ扉みたいなものだよ。パパと私の魔力で形成されてるから魔界が滅びでもしない限りこれが消えることはない。

因みに帰りは私がこれを開いて帰るからね。 もし私とはぐれたりしたら帰れなくなるから注意するんだぞ?」


鼻息を荒くしながら意気揚々と饒舌になるシルヴィア。 最後にウィンクを決めるとタツヒコから目線を外し、空間の渦に集中し始める。


「じゃ、異世界に出発ー。 死んじゃダメだからね」


その言葉を最後にシルヴィア達は空間の渦に吸い込まれる様に消えて行った。

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