魔王が勇者と組んで異世界に侵攻するようです

@zeshiru

第1話 魔王と勇者 計画を練る

「魔王シルヴィア! 貴様は勇者である俺に叩っ斬られる運命にある!大人しく斬り捨てられろ!」


そう言い放って自身の持つ剣の切っ先を向けたのは勇者タツヒコ。短めに切り揃えられた茶髪が特徴のどこにでもいそうな普通の青年だ。ただ、勇者というのは彼一人しかいなかった。


切っ先を向けられているのはまだあどけなさの残る顔立ちの少女だった。タツヒコを見る目は呆れが入っており、どこか辟易とした感じが漂っていた。肩甲骨辺りまで伸ばした艶のある青髪が特徴的だった。黒を基調とした服装に、黄色のラインが入った朱色のスカートを着こなしている彼女の名前はシルヴィア。

シルヴィアは嘆息を吐くとおもむろに口を開いた。


「第一声がそれなのはどうだと思うけど……かなりの自信のようだけど私より強いって事前提で言ってるセリフかな? それ。ま、この魔王様相手に戯言をのたまうような命知らずは嫌いじゃない。 もし私に勝てたら殺すなりなんなり好きにすれば良い。 だが私が勝ったら私の計画に強制参加してもらうよ。仲間が必要なんでね」


シルヴィアが薄ら笑いでそう言う。タツヒコの持つ剣の切っ先が僅かに震えたのを見逃さなかった。 シルヴィアは荘厳な作りの玉座から重い腰を上げると首を鳴らす。 シルヴィアの動きに合わせてスカートが揺らめく。 タツヒコも剣を握り締め、臨戦態勢に入る。


「上等……俺が負けたらお前の計画だろうが仲間だろうが何でも入ってやるが、俺が勝ったら好きにさせてもらうからな」


「……その言葉、忘れないでね?」


両者は口角を吊り上げ、恍惚を帯びた笑みを浮かべていた。不意に、シルヴィアの姿がブレるように消えた。タツヒコは即座に反応し、剣を前方に振り下ろす。甲高い金属音が響くと同時にシルヴィアの姿が鮮明に現れる。

いつの間に持っていたのか、シルヴィアの出現させた剣がタツヒコの剣と激しくぶつかり合い、鍔迫り合いに発展する。


「やるじゃん……流石の俺も驚いたぜ」


「勇者ってのは伊達じゃないようね。ま、そこそこ楽しませてくれそうね」


二人は打ち震えるような笑みをこぼしたあと、距離を取って即座に詰め、打ち合いを展開する。常人には見えない速度での打ち合いは常に金属音が断続的に響き、振動で空気が震えている。


煌びやかな装飾の施された広間で展開される戦いは熾烈を極め、三日三晩と続き、シルヴィアとタツヒコの両者は一歩も譲る事はなかった。



「はぁ……はぁ……、くそ、何で倒れない!? 俺の攻撃をかなり喰らったはずだ!」


息を切らしたタツヒコが叫ぶ。身体には無数の切り傷があり、そこから出血もしていた。

片腕の自由が利かないのか、左腕がさがっていた。 それと対照的なのがシルヴィアだった。三日に及ぶ戦いだと言うのに息一つ乱れておらず、多少の傷は見られるがタツヒコのそれと比べると明らかに少なかった。


「それはこっちのセリフ。流石勇者と言った所か。そのしぶとさは感服に値するよ。 でも、大体君の強さは把握出来たから、少し上げていくよ」


そうシルヴィアが言い終わった瞬間、青い光の残像が見え、それに気付いたタツヒコだったが遅く、タツヒコは広間の壁まで一瞬で吹っ飛ばされ壁に激突した。


「がはっ!? ごほぉ……ぐぐ、な、何だ……何が起こっ……」


壁に背中から突っ込んだタツヒコだったが何とか意識はあった。何が起こったのか現状が把握出来ていない様子だ。


「遅い」


シルヴィアが目の前に現れたと認識した瞬間には襟を掴まれ投げ飛ばされていた。 逆さまに映るシルヴィアが青いオーラを纏いながらタツヒコを一瞥していた。


「申し分ない強さだよタツヒコ君。ただ、少し火力不足だけどね」


逆さまに映るシルヴィアがにっこりと笑いながら言い終わるとタツヒコの腹に蹴りを叩き込む。空中に浮いていたタツヒコは蹴りの衝撃で地面に叩きつけられ、さらに転げ回って壁に頭を強打してようやく止まった。


「ぐがぁ……!? ぐっ、うぅ……はぁ、はっ……くそ」


痛みを堪えながら何とか顔を上げるとそこには、空中に剣を展開させたシルヴィアが腕を組んで仁王立ちをしながらタツヒコを見下ろしていた。それで負けを確信したタツヒコは自身に悪態をつきながらシルヴィアを睨む。


「さて、私の勝ちだけど……戦う前に言った約束は覚えてるかしら?」


睨むタツヒコを尻目にシルヴィアが笑顔を見せながら口を開く。


「……お前が勝ったら俺をお前の計画に参加させる……って奴だろ?」


タツヒコは口を尖らせ、目を逸らしながらもはっきり答える。シルヴィアはそれを聞いて満足したのか、展開させていた剣をしまうと満面の笑みを作って首肯した。


「ちっ、負けちまったもんはしょうがねぇ。約束だしな。で、その計画ってのは?」


「その話をするにはちょっと歩かないといけないけど、立てる? 回復魔法かけておくね」


シルヴィアは指を鳴らすとタツヒコの身体に光の粒子が螺旋状に包み込む。みるみるうちにタツヒコの身体の傷が癒えていき、同時に身体を覆っていた疲労感も無くなった。

すっかり身体が楽になったタツヒコは立ち上がるとシルヴィアを見てから口を開いた。



「あ、ありがとう。恩にきる。で、少し歩くんだろ? 何処に行くのか知らないが付いてくぜ」


「……それで良し。じゃ、歩きながら軽く説明でもするね」


三日に渡る激闘で煌びやかだった広間は見る影もなくなり、ボロボロになった広間を二人は後にする。長い廊下に差し掛かった辺りでようやくシルヴィアが口を開いた。


「じゃ、説明しようか。まず、私の計画を語るには、私のパパについて話さないと始まらないんだ。 パパ、良いでしょ?」


不意にシルヴィアが自分の肩ら辺を見る。

タツヒコも釣られてそこに視線を持っていく。そのまま一瞬の間が空く。


「ん? ああ、シルヴィーか。ずっと寝てたから気付かんかった」


そんな言葉と共にシルヴィアの肩から、巨大な強面の顔が現れた。鬼の表情そのもので、かなり怖く、睨まれただけで失禁しそうなくらいの迫力があったためタツヒコは驚きよりも先に恐怖心が勝った。


「お、おいおいおい!! おかしいだろ! しかも何で顔だけ!? 身体は!? 顔だけむちゃくちゃでけーし!! こいつがシルヴィアのパパ!? 」


と一瞬遅れて怒涛のツッコミを入れるもシルヴィアとシルヴィアのパパに白い目で見られた。


「タツヒコ君……何か大袈裟」


「何じゃこのクソガキは……。 初対面なのに容赦のないクソガキだな。 躾が足りないようだ」


シルヴィアのパパが般若の形相でタツヒコを睨む。タツヒコは形容出来ない恐怖を抱き、速攻で頭を下げる。


「す、すみませんでした! 許してください!」


そのタツヒコの姿勢に面を喰らったのかシルヴィアのパパは目を見開いた後に口を開いた。


「……次から気をつける事だな。タツヒコとか言ったな? ワシの娘の計画に参加してくれるんだって? と、自己紹介がまだだったな。 ワシはこのシルヴィアの父である魔神ヴァルグだ。 よろしく」


巨大過ぎる顔がタツヒコの目と鼻の先に現れる。タツヒコは上体を反らし、苦笑いを浮かべ頷く。ヴァルグはタツヒコが思った通りの反応をしなかったので定位置のシルヴィアの肩に戻って行った。


「結局パパの話出来なかったね。 着いたよ。

一旦入ろうか。 ここで改めて私の計画を話すね」


シルヴィアが歩くのを止め、眼前にある大きな扉の前で立ち止まる。 金色に塗装されてはいるがそれ以外は無骨で、巨大な取っ手が付いているだけの大きな扉だった。否、むしろここまで来ると門と錯覚しそうだった。


シルヴィアはタツヒコと目が合うと満面の笑みを浮かべた。

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