第995話「何も残らない、心から」
俺は安堵した。
邪気が完全に消失したことからくる、安心感ではなく倒れていたルナがふらつきながらも立ち上がったからである。
だからこそ、呪いをとく手がかりがなくなったと思ってもすぐに取り乱すようなこともなかった。
「ユイナ、ルナ……お疲れ様です。そして、ありがとう」
「これでよかったのかな。もっと、ほかにできることがあったんじゃないかなって、そう思うと納得できないよ」
「ボクは取り返しがつかないことをしたんだね……。二人の後悔はボクの判断が招いた結果だって、今ならはっきり言える。ボクは、もうここにはいられない……」
ルナは、俺たちに背を向けたまま言うとそのまま歩き出す。
それを、止めたのはユイナだった。
つかまれた手首は振りほどくことは愚か、このままつかまれ続ければ引きちぎれてしまうのではないかと思うほどの力が加わっていたのであろう。
「痛いね……。心が痛いよ」
「責任から逃れることなんてしちゃだめだよ。逃げたいって思えるようになったなら、次は逃げないようにすることから初めていかなきゃ」
「ディアナは死んだ。殺した相手を殺し返しても生き返ったりなんてしなかった。この分だと、呪いが消えることもないだろう。でもなルナ、ここでルナまで失ったら俺は間違いなく後悔する。幸いにも今止めるチャンスがあったわけだ。なら、そこに俺は止めるさ」
「ボクを恨まないの? ボクが憎くないの? ボクは……」
「それでいい。何も感じていないかと言われれば、もちろんそんなわけはない。だからってな、もう終わったんだ。終わったんだよ」
最後は自分に言い聞かせていたのはルナにも伝わったと思う。
正直、涙を流していることで説得力に欠けていることくらい理解している。
それでも、突き通さなければならない。
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