第882話「偏見などない」

 なるべく人目に触れないルートで宿へと向かっているはずだったのだが、いつの間にやら人の目など気にならなくなっていた。

 街の中心地に向かえば向かうほど人がいない場所などなく、右も左も視界には誰かが必ずいるのだから最早気にしていた方がかえって注目を集めてしまう。

 それなのに、俺たちの存在などまるで空気にでも溶けて消えてしまったかのように気になどされていなかった。


 逆の立場ならつい視線で追いかけてしまうそうだと思うのは、俺自身が奴隷などというものを特別視しているからに他ならない。

 人は誰しも平等ではないのは周知の事実であるというのに、受け入れ切れていないからだ。

 皆等しいというのならば俺はこんなところで命がけの旅なんてしてはいない。


 しかし、ここにいる誰しもが種族も性別も気にしている様子はない。

 それは機会が誰しも平等にあることを知っているからだろう。

 それは、街の影もまた同様であるのだが、それはこの街に限ったことではない。

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