第692話「少女は謙虚の名のもとに」

ここに来るまでにも異世界からの血筋を持つ者に会っている。

 現実を生きているのは俺だけなのか、それともこの世界にまだまだいるのか。

 もしかしたら、元の世界に戻るすべを知っているかもしれない。


 そうであれば、スペラ達を置き去りにして帰る選択をできるのだろうか。

 こればかりはいつまでも自問自答を繰り返さずにはいられない。

 そして、スミレときた。


 バニティーの本名はわからずじまいになっているが、菫の花言葉は謙虚。

 この世界では名前には圧倒的な縛りがある。

 それをバニティーが知らないはずはない。


 正反対の名を与えられた娘。

 性格が名前と一致しているとは思えないが、そこまでの効力はないのか。

 兎にも角にも、母親に聞きたいことことは恐らくもう聞けない。


 ならば、勝呂は別に見出すほかない。

 幸いにもここには俺達とそれを取り巻く一時の時間だけだ。

 空気の乱れ、埃の一つも舞ってはいない。


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