第684話「黙っていれば可愛いのに……」

 予想に反して、目の前にはブロンズ色の女の子が立ちふさがっているがそれがここまで面倒なことになっていくとは思わなかった。

 スペラよりも一回りも小柄だというのに、尊大で傲慢で自分を中心に回っていると言わんばかりの物言いにただただあっけにとられてしまう。

 黙っていれば可愛いのにといわれる典型的な例だろう。

 

 注目を集めるには十分な容姿だというのに何がここまで彼女を駆り立てるのだろうか。

 この状況は彼女にとっても最悪な環境であると言っても過言ではないというのにだ。

 それでも、一歩も動かず動かさせず微動だにしない。


「騒ぎを起こすと不味いのはお前の方なんじゃないのか? 」


「何を言っているの!? 簡単な事でしょ、あたしに協力するの!! もうー!! なんでわからないかなぁ!! むきーー」


「うるさすぎるだろ……」


「このままじゃ埒があきませんね」


「にゃはは、勝手に騒いでるにゃ。面白いにゃ」


「アマト……、なんだか可哀想になってきたかな」


「悪意は感じないんだよね。案外、構ってあげた方が面白くなる気もするけど、ダーリンどうする?」


 次第に憐みの目が少女に集中する。

 それは道行く者達に伝播していく。

 なんとも言えない空気に、傲慢な少女もいきばのない感情が爆発寸前になる。


「はぁ、とりあえず場所を変えたいんだが?」


「やっとあたしに協力する気になったみたいね。はじめから素直になればいいんだから」


 ブロンズ色の髪を靡かせ、少女は大げさにかかとを鳴らす。

 それが意味するところを、動き出した人波をもって是とした。

 

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