第685話「娘と父の苛みと」

 今まで身動き一つできずにいたというのに、誰も騒ぎ立てることなく何もなかったかのように、見て見ぬふりをするように、今しがた起きた事など忘れてしまったかのようにただただ日常に戻っていく。

 騒ぎを聞きつけて巡回兵がやって来るかと思いきや、それもない。

 ますます、雲行きが怪しくおかしくなってくる。


「不思議だニャ!?」


「言わずもながな……。この時間だと落ち着いて話ができる場所もないか、どうする?」

 

 宿のロビーであれば話をするには適しているが、泊まっている場所を知られてしまう。

 もうすでにこうして顔を合わせた以上、そこは問題ではないのはわかっているつもりだが納得いくことはない。

 このままうやむやにできる雰囲気でもないのだから、連れて行ってしまってもよいか。


「いいんじゃないかな。口ぶりからして反対方向に歩いて行っても見つかりそうだけど……。それに……」


「お姉さんは気がついたみたいね。それに比べて、お兄さんは察しが悪いなぁ」


「……」


「たぶんあってるよ」


「この子、ドワーフには見えないけど……」


「半分はあいつの血が流れてるかと思うと血を全部抜いて干からびて死んだ方がましだって思う。本当にね。それに、そこの悪魔のお姉さんの奇怪な武器だけど、見ただけでわかった!! あいつ殺さなきゃって!!」


 感情をむき出しにする少女は涙で眼を腫らして、膝から崩れ落ちた。




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