第668話「こころの引き出し」

「これだけ人が多いと酔っていしまいますね」


「私も久々だからかな、疲れたってわけじゃないんだけど、なんだかね」


「言いたいことはわかるさ。俺達は元の世界よりも格段に身体能力が高くなって処理できる情報量も多くなった……。一度に数万の個性が目の前を闊歩してると思えば疲れもする。ここではどうかわからないが人間は一度見た物は二度と忘れないっていうしな」


「どういう意味にゃ?」


「今までに見た事も聞いたことも無いような光景を夢見たことはないか? 今言っているのは寝ている時ってことだぞ。偏に一瞬でも瞳に映った光景を脳が記憶し、かすかに聞こえた音、僅かな匂いまでも脳は忘れはしない。それが心という脳に記憶されていない不確かなものの影響で未知の世界を夢として見るんだそうだ」


「うーん。今までのことを全部覚えている事なんてできないにゃぁ」


「思いだせていないだけだ。忘れたころに突然思い出す事はないか? 記憶が完全に消えてしまっているなら思い出すことは出来ないってことだ。まあ、衝撃で思い出すかもしれないが……試してみるか……」


「アーニャは酷いにゃ」


「まあ、スペラに思い出してほしい事なんてないから心配しなくていいがな」


「あんまり、スペラをいじめてると足を掬われるかもね」


「それはそれでありかもな。ルナに言わせてみれば退屈しのぎにはなるだろ」


「ボクを引き合いに出してくれることは嬉しいところだけど、スペラに意表を突かれるダーリン何て見たくないんだけど!!」


 ルナに耳もとで囁かれてから抱き寄せられる。

 もう、限界だ。

 早く服を買いに行かないと。


「お、おう」

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