第666話「働きやすい世界」
それにしても、太陽が高い時間帯に食事ができるところが見つからないとは思ってもみなかった。
青果、魚、肉を販売する店こそあるが加工はされているが調理はされていない。
当分は食事に困ることが無いが後の事を考えれば状況は確認しておきたい。
ならば手近な人間に聞けばいい、答えてくれるかは定かではないが。
「食事ができるところを知っていたら教えてほしいんだが」
「外から来たんだね。この時間は飲食店は全部しまってるはずさね。見つかったら捕まって店も営業できなくなるさね。朝は7時から10時まで、夜は5時から8時までしか営業はできないさね」
「食事処だけがわりを食ってるってことでもなさそうだな」
「そうさね。私らは昼前10時から夕方5時の間だけ営業が許されているさね。そのおかげで助かってるんさね」
「ん? それだと同業種では生産性が……」
「おかしなことを言うさね。見てごらんなさいな」
この青果店のような店は思いのほか多いのに対してレストランの類は少ない。見渡す限り一件だけ。
それも外観もさることながらその前の床のタイルすらピカピカに磨かれ、行きゆく者達を映し出していた。
だからこそ、埋め尽くさんばかりの建物から見つけ出すことができたのだ。
「なるほどな。いろいろ教えてくれてありがとう。その林檎を貰おう」
「毎度あり。あーそれと、大丈夫だとは思うけど路上で食べては駄目さね。見つかったら罰金さね」
「おっと、知らなかった。俺も知らなければ食べていた」
「悪いことは言わない、早いうちに役所へ行った方がいいさね」
「忠告痛み入る」
この街に塵一つないのは徹底した管理によってもたらされている。
飲食店は中でも害虫、害獣の発生源となる以上国の管理下にあるとみていいだろう。
営業できる時間さえ国が決めてしまうのだ。
しかし、働く人間に不満はないのは見ていればわかる。
限られた時間内でどれだけ生産性を高められるかは本人次第。
それでいて、働き過ぎて過労死する何ても事もないリミットを定めている。
隙が無い。
過労死根絶のために、労働時間を減らし、休日を増やすことに躍起になっていた元の世界と似ている。
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