第527話「割れた海の底で」

 海は未だに割れたままであり、俺とスペラに圧倒的な威圧感でそびえている。

 その質量はとても支え切れるような類のものではないというのに、この世の理を無視するかのように確かに一つの現象としてそこにある。

 地面が一切湿り気を含んでいないことからも水分というものが根こそぎこの空間からはじき出されたと言ってしまえば簡単なのだが、実現させるのは容易ではない。


 俺達がいる空間そのものが透明な何か別のものに置き換えられたと考えたが、どうもそうではないらしい。

 海水を遮る壁のようなものも確認ができず、手近な石ころを放ってみたら吸い込まれるかのように海の中へと沈んでいった。

 しかし、これ以上ここにいて検証するのは得策ではない。


 いつ元の様態へと戻るかわからない。

 この莫大な海水がなだれ込んで来れば俺達は瞬く間に押しつぶされてしまう。

 そう考えたら答えはいたってシンプルだった。

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