第526話「生き残った理由」

「アーニャ? 大丈夫かにゃ……」


 スペラの弱弱しくも俺を気遣う声が現へと呼び戻す。

 幾度となく絶望と後悔に胸を焼かれ、仲間の無事を確認し安堵と至福を味わってきたが確かめたい欲求に襲われる。

 夢ではないならば確かめてみたい。


 その思いだけが先行した。

 気がつけば聲の主を抱きしめていた。

 その小さな身体は血と肉片に塗れていたが、そんなことは気にもしなかった。


「無事で良かった……。心配させるなよ」


「ごめんにゃ」


「生きていてくれればそれでいいんだ。無茶をさせた俺に問題があったんだから、スペラが謝ることはないんだ」


「ミャーを心配してくれて、ありがとにゃ………………」



 スペラは力なく言うとそのまま深い眠りに落ちた。

 心拍も辛うじて確認できる程度にまで弱っている。

 治療を施さなければ命の危機からは脱することはない。


 まだ、安心できはしない。

 どういうわけかブレイバーの七支刀から何らかの影響を受けたようには見えないのが救いではあるのだが、それは今は確かめえるすべがない。

 先程までそこにいたはずの男の姿がどこにもなかったからだ。


 

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