第459話「自分には出来ないことでも」

 この世界でルナとディアナ、どちらの方が長い年月を過ごしたかわからない。

 この不安定な局面で的確なアドバイスをくれたのはディアナだった。

 適格というのは何も数学の証明問題の様に、今抱えている問題と結論の整合性がある事を言うわけではない。


 今、俺にとって何を言ってほしいかという事言ってくれたという事である。

 俗にいう精神論、根性論などとも言えるが感情に訴えかけなければどれだけ正しい事であっても心に響くことはない。

 それを経験則で知っていたのか、性分なのかなどそこには考えるだけ意味のない事なのだ。


「アマトさんにはユイナさんも、スペラちゃんもルナもいるのよ。独りだった私とは違うの。それは幸せなの事だと思う。失ってから気づいても遅いのよ」


「俺が言うのもなんだけど、ディアナもそこに含まれると思うぜ。少なくともディアナが目的を果たすまで一人にするわけにはいかない。自分勝手だとかエゴの一言で片づけられないように俺は自分のできることをやる」


「アマトさんは私がやりたいことを叶えられるって言うの? 私だって何千年も出来なかったことが人間の限られた刻の中でできるというの……。心配しなくてもアマトさんの目的地までは一緒に行くつもり……」


 俺は唐突にディアナの言葉を遮り言った。

 人の話を最後まで言わせないのがお家芸のようになっているのが、致し方が無い。

 

「これ以上は無しだ。やると言ったらやる。男に二言はないなんていうつもりはないんだけど、男だろうが女だろうが、それがディアナだろうが関係ない。本人が出来ないことが他人が出来ない道理なんてあるかよ。まあ、俺が出来なかった時にそのあと言いたかったことを聞くさ」


「本当に自分勝手みたいね。嫌いじゃないわよ」


 いたずらっぽッく笑うディアナはやはり年上か年下かがわからなくなるほど不定形で、あどけなく艶めかしかった。

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