第460話「簡難の理」

「少し早いが、そろそろ野営の準備をしよう。時間があれば少しは手の込んだ料理もできるしな」


「晩飯は任せてくれねいが? ここらの食材ならまともなものさ、拵えることも容易だが」


「いいんじゃないかな。ねぇ、アマト?」


 ユイナの意図を読んでバニティーに後を託すことにした。

 食材の調達から支度までを一人で熟すからと俺達は今日の臨時拠点の設置に回った。

 無論、寝食をするためだけではないのだから設営がすめば自ずとやらねばならぬことがある。


 手際が良くなってきたこともあり、建物自体は当初の半分もかからず建てられるようになっていた。

 オブジェも多岐にわたる。

 ベッド、円卓、椅子もその役割を果たす以上に快適が付随したものとなったのは進歩と言えるだろう。

 

 椅子に至ってはただの土くれから座り心地にまで気を配れるように、弾力を持たせるなんてことができるようになったのだからその進歩は革新的だ。

 中央には今の倍の人数でちょうど良い大きさの円卓を用意した。

 今後必要な時にも引き続き使用できることを見込んで作ったものではある。


 それとあまり人数が多くない場合は全員に対して相互に発言し易い円形は非常に都合が良い。

 座席は俺と出会った順に左手から左右に分かれて順に座っていく。

 示し合せたというわけでもないのに、誰一人迷う事も誰に聞くこともなかった。


 一見気に留めるにはあまりに些細と言われてもおかしくはない。

 しかし、主義主張も全く異なる個人が一切文句も言わず序列に従うのは奇異なことなのである。

 自分の主張を通すために涙ながらに熱弁することもなく、自分の的確なポジションを手に入れることは簡単なようで難しい。

 

 末端に腰を据えることも諦めからではなく意味を見出す事も容易なことではない。

 何よりも全員が今この時においては一様に合理的な選択をした。

 それは自分の立場を無意識に自覚し、上座に真っ先に向かった己にも癒えることなのだがそれを自覚することはない。


 自覚せずにコミュニティが成立することにこそ絶対の意味を成すのだから。

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