第443話「獲物の前の舌なめずりなぞ」

 先が無いとは笑えない。

 今、俺は笑っている。

 意表を突いたと思っているのだろう。


 一際大きい人猿は俺を一撃で仕留めたと思い、ユイナの方へ向かった。

 止めを刺していかなかったのは、この世の理であれば放っておいたところで時期を待たずして尽きる道理であるからだ。

 俺を甘く見た事を後悔はさせない。


「後悔……する間もなく、逝くがいい……」


 俺の生き絶え絶えに絞り出す声を聞きとった人猿は、振り返り標的を俺へと変えた。

 そのままユイナに振り下ろしていればいいものを、侮蔑の目が余程気に障ったのか地面を均しながら数歩で再び俺の頭蓋に拳を振り下ろす。


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