第363話「窮鼠猫噛み」

 徐々に帯びていた電気も霧散し再び闇夜が戻りつつある。

 完全に沈黙するまで息をひそめていた獣たちは獲物を見定め機会をうかがっているのが感じ取れた。

 このまま襲われれば魔力を使いきったスペラでは一網打尽にできる程の決定打はない。

 

 再び、力を振り絞り力尽きるまで身体能力に物を言わせた格闘術で蹴散らせるのみ。

 自然治癒能力を高める効果によって擦り傷はすっかり治っている。

 よろよろと今にも倒れそうな体を必死に起き上らせ、なんとか立ち上がることは出来たが足を地面に縫い合わせたように一歩踏み出すことは出来ない。


 そんなスペラの様子を見ていた牛狼が颯爽と茂みから駆け寄りスペラに飛び掛かる。

 だらっと垂らした腕は肩より上の高さまで持ち上げることができない。

 緊張が走る。


 幾度となく味わってきた死の予兆。

 目の前の低俗な獣風情に終止符を打たれるという屈辱。

 そして、死の間際だというのに脳裏に浮かぶのはアマトの横顔。

 その表情は何とも言えない冷たさがあった。


 

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