第219話「襲いくるのは睡魔」

 全身の痛みも引いてきたというのに、どこか納得がいかない気がするのはなぜだろうか。

 まだ一時間と経っていないというのに普段通りとはいかなくとも、歩き回れる程度には回復したからだろうか。

 それとも、仲間が増えた事による責任の重圧をかんじてるからなのか。


 常に疑問符が頭の中を巡り巡っていきつく場所は葛藤という名の終着点。

 悟られていないだろうかという不安も相まって吐き出せずにいる。

 そばにいるユイナが眠たそうに小さく欠伸をしているのを横目に、気が楽になるのを感じた。


 もうすでに真夜中というのに睡眠をとることよりも先に進むことを優先した俺達。

 ゆっくり休みたいと思いつつもモンスターが徘徊する場所での野営は避けたい。

 ルナ、スペラ、ディアナに関しては特に変わった様子もない。


 野営して、明るくなってから動く方が効率がいいと思うが一刻も早く首都に向かう事を優先したいところでもある。

 少なくともこのまま歩き続けて睡眠を一切取らなかった場合、何らかの形で取り返しのつかないことになる可能性がある。


 人間はコンピュータよりも優れた情報処理を常に脳が行っているのだから休ませなければオーバーヒートすると言われている。

 それが戦闘中であったならば命取りになりかねない。


 誰が一番リスクを抱えているかと言われれば間違いなくただの人間の俺に他ならない。

 しかし、野営した経験など無いのだから手順がわからない。

 眠っている間がもっとも無防備で狙われてたらひとたまりもなく、見張りを立てても一瞬の隙というものは必ず発生する。


 リスクが高すぎるのだ。

 交代で見張りを立てて交代で睡眠をとるのはセオリーであっても、安全な対応としては弱い。

 五人ならば四人で独りを守る形でローテーションを組むのが、リスクを回避するうえでは最も安全だと言える。


 とにかくユイナを休ませ、あとは状態の悪い者から休ませたい。

 さて、どうする。

 このまま歩き続けても恐らく日が昇っても東の森までは辿り着けない。


 辺りは相変わらず見渡しかぎりの草原地帯で、大きく裂けた大地からたびたび強烈な風が吹き出し草木をなぎ風切り音を立てる。

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