第204話「急かされる風の中で」
あくまで、それはセオリー通りならばという事であって、例外は決してないわけではない。
そもそも、元の世界の常識が必ずしもこの世界のじょうしきではないということ。
それはわかっている。わかっていて知識の一つとして押さえておけばそれでいい。
「さて、南西の森の方角からって事はユイナ達とぶつかることはないってことだ」
「アマト君!! 急いだ方がいい!!」
物音ひとつさせていないと言えば大げさだが、息をひそめるように静かだったルナが怒声を上げた。
直感でただ事ではない事態になっている事だけは理解したが、何が度外視しているのかわからない。
まるで時間が止まっているかのように思考が停止する。
それなのに、肌を伝う汗の流れる感触と風が頬を撫でる嫌な肌触りは時間が元の流れであることを念を押すかのように伝えている。
時間は待ってはくれず、じわじわと泥沼へと引き込むかのように体中を多い知らない未知の世界へといざなう。
早く答えを出さなければと思うだけで、肝心な事に気が付かない。
自分一人でできることなど限られているというのに。
ここは今一番身近なルナに助言を求めなければいけないということができない。
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