第145話「悪魔の優しい嘘」

 ルナはユイナを残し、診療所へと向かってすぐ東へと方向転換し一層加速しまるで水中を弾丸が突き抜けるように突き進む。

 上空から飛来する大粒の雨は質量が増す事で、最早プールの水をそのまま地上へとひっくり返したような大きさで一つの形を成していた。その重さは数百トンにも及ぶが圧力で押しつぶされることがないのは偏に空気の抵抗と一つなぎに形成された水だからである。


 例えるならば深海の魚。数千メートル深くとも圧死することはないと言えばわかるだろう。単純に水の重さイコールでは計ることは出来ないという事だ。

 そうでなくては雨に打たれただけで生物は命を落としてしまう。


「ボクが人間の心配をするなんて、この子の意思なのか情が湧いたのか……」


 つい口からこぼれた言葉は本来悪魔が持ち合わせていない感情から来るものであった。それはルナが悪魔という器から昇華するする為の一歩となっていることにまだ気が付いていない。

 なぜ、善悪の概念を持たない悪魔が悪魔と呼ばれているのか。


 その垣根を越えたときに訪れる日を終末というのか。

 この時は誰も知る由もなかった。

 本人でさえも自分の存在に疑問を抱くようになったのだから、他人がそれを理解することなどできようはずもない。どれだけ理に聡くとも物の分別がわかる程度の蒙昧でない人間だろうと等しく理解の及ぶことではない。



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