第146話「夕焼けとアクアリウム」

 ルナは長い水の壁を突き抜け平原へと降り立った。そこは太陽が地平線に沈む風景とアクアリウムの檻のような風景とがあいまって幻想的な光景が広がっていた。

 相変わらず濁流が村から放射状に広がっているが夕日に照らされ宛ら真っ赤な海のようで地上であることを忘れてしまいそうになる。


 上空に視線を送れば雲が堆く伸び辺りに漂う雨雲を取り込んで大きくなっていくのがよくわかる。そのせいで村の周囲は雲一つない晴天が広がっていた。

 だが、それを引き起こしている張本人を見つけることは出来ない。


 正確には肉眼で視認することができないということで、どこにいるのかは感じ取ってしいた。

 

「降りてこないなら、こっちからいくだけ」


 ルナは村を見下ろすように上空へと舞い上がる。雨が降りしきる村には入らず、それを外から眺めるように飛び上がった。

 目指すは入道雲の真上。

 

 たしかに人の姿を確認した。

 雲が邪魔でシルエットが薄らと映し出されたのみだが、まるで何もない空中にたっているかのような影がそこにはあった。

 

 ガラス板でも張られているかのようにまったく微動だにしない人型の何かはこちらを見据えている。

 

「案外早かったな。それに勇者じゃない」


「勇者じゃなくて悪かったね。でも今やボクもその勇者の仲間ってわけ。行く手を阻むなら無理にでも通らせてもうけど、今すぐこの無意味な事をやめる気はない? 痛い思いはしたくないでしょ」


「それはできない相談だ」


「そういうと思ってたけど、ボクとやるには君は力不足だと思うけど」


「それはどうかな」


 そういうと、雲が邪魔をしていて全貌が見えなかったシルエットが姿を現す。

 そこには中年の男が文字通り立っていた。

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