第138話「アカシックレコーダーの本質」

 俺は徐々に塞がりつつある胸に開いた傷を左腕で抑えながら立ち竦んでいた。

 今しがた起こった出来事に恐怖し、まるで崖の淵に出も経っているかのような背筋に伝わる寒気と緊張がその場に釘付けにする。


 そう、俺は自分が何をしていたのか全て覚えている。それでも、自分が何かをしていたといういう意識はない。強いて言うのならば誰かが俺の身体をまるで人形か、ゲームのキャラクターを動かすかのように動かしていたような感覚。


 二重人格なのかと思ったのだが、そうではないとわかる。そこでアカシックレコーダーのアビリティの効果だと脳裏に情報が流れる。

 これは、本来は自分の思考を手助けするような使い方が主体であるかと思っていたのだが、実際はそうではなかった。


 アビリティそのものが一つの人格のように独立して成立する類のものだったのだ。

 それが、俺の精神が限界を超えた事で緊急避難と言う形で具現化したというのが顛末。

 凄まじい情報演算能力を発揮したのも、この世界の全ての開示された情報を網羅しているのだから糸も容易いというものだ。


 本来、計算しなければ答えを導き出せない数式があったとしても、その間の計算式を省略して答えを引っ張り出してこれるのだから俗にいうチートと言わざる負えない。

 現状緊急時にしか発現しないのは偏にこのチート能力を掌握するだけのレベルに達していないからである。


 俺はその圧倒的な演算処理を実際に体験して凄まじい情報量に気が狂いそうになり、まだその次元に達していないことを悟った。


「たかが数分の事なのに、何年もここで戦ってたような気がする……。それより、あの鎧は何だったんだ……」


 言葉を話していたのだから、中に何かいただろうかと思っただのだが鎧の中身は空っぽだった。

 あれは操り人形なのか、鎧そのものがモンスターの類だったのか今になっては最早調べるすべはない。


 傷が完全に塞がり、探索を続行することにした。 


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