第137話「不自然な程、自然なものはない」

「回答を拒否する」


 無機質だが、鬱陶しそうにアマトは言った。

 

「むっ」


 鎧もそれ以上は追及してくる様子はない。

 ただ、認識を改めたようで、大きく跳躍すると距離を取ることにする。その判断も間違いだったとすぐに気付く。


 アマトは鎧に視線を送るとその瞬間、音速を超える拳大の空気の塊を複数放っていた。そのすべてが狙いすましたように鎧に吸い込まれるように命中する。

 その衝撃は余波となり辺り一面に凹凸を出現させていく。


 その数は優に100を超える。

 体内の魔力を一切使うことなく、大気中のマナを使っての攻撃手段。だが、精霊術ではない。

 周囲の空間を演算処理することでプログラムされたシステムを起動するかのように空間そのものに干渉しているに過ぎない。


 この世界に有るのかどうかもわからない数式がアマトの頭の中で繰り返し処理されていく。

 数百のCPUを同時に並列処理するという人間離れした能力でこの空間を支配する。

 しかし、高性能のコンピュータならばできるかと言えばそうではない。


 人間は目の前ので見たものを直感で認識できるがコンピュータではそうはいかない。必ず合理的且つ効率的に処理しようとするからだ。悪く言えばプロセスの順番は変わることがないので近道をしたりいらない部分を省くことができない。というよりもその判断が前もって書き込まれていないといけないのだ。


 即ち、今のアマトは機械的な合理性と人間の超自然的な感覚の良い部分を両方持ち合わせているのだ。

 人を超えた存在ともいえるが、人間の優位性である感情を捨てた存在という一面の持ち合わせた存在となったアマト。

 その存在はまさに異質。


 鎧は圧縮した空気の衝撃に耐えることができずに爆砕して粉みじんになったというのに、辺りは綺麗な物だった。

 不自然な程、自然だった。

   



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