第114話「立ち止まることも大切だという事」
一度補足したにもかかわらず追ってはすぐに状況を見定めたのか、存在が一瞬にして消え去った。もう、距離感は一切つかめない。
それでも俺達は足を止めることはしない。恐らくまだつけられている。
そうでなくては意味がない。
悪天候で状況が悪化の一途をたどるのはこちらだけではない。相手だって雨風に打たれ続けられていればいずれは消耗してくるだろう。それを誘発する為の手はルナがうっている。
ルナは設置型の魔法を多岐にわたり張り巡らせてここまできたのだ。
しかし、あからさまな魔方陣はフェイク。ユイナはルナの設置した魔方陣を隠れ蓑に魔法を展開していた。大規模な物ではなく完全にターゲットの正体を探る為だけに特化した魔法だ。
理屈は非常に簡単だ。ユイナの特異な闇の属性の魔法で対象の周囲に薄らと闇を広げるというだけのものだ。
人間は急激な変化には違和感を感じるものだが、些細な物の変化には慣れや適応力によって気が付かなくなってしまうのだ。
特に今俺達の追跡に意識を集中しているとなれば気が付くのは困難というもの。
案の定、振り返ればここからでもわかるほどはっきりと闇が二つ迫ってくる。
ある一部だけ薄らと雨がはじかれている異様な空間がこちらを遠くから距離を詰めることなく追いかけてきていた。
本人たちは遠くからめれば異様な者が追いかけてきてると思われているなどとは思っていまい。
特に変わった様子もなく追いかけてくる闇はスピードは一定で攻めてくる様子は未だない。
奴らの目的は何だと思うがいずれはわかることなので、深く考えることはしない。
谷が目の前に見えてくる。
三人で落ちる危険性がないよう距離を開けて谷を目前に立ち止まる。
準備は整った。
いざ迎え撃たん。
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