第111話「追われるだけでは終われない」
俺は診療所へと戻るとずぶ濡れになった布きれを無造作に放り投げた。
この布きれは厚みがあったおかげで水を吸って重くなってはいたものの衣服までびしょ濡れになることはなかった。
撥水性があれば水を吸う事もなかったのだが、そこまで良質な織物はないのだろうかと疑問に思う。村と町では経済状況が違うとはいえ格差があるように感じたのだ。
「アマト!! どこに行ってたの!!」
ユイナは俺の姿を認めると開墾一番に問いただす。
「少し、外の空気を吸いに……」
「それにしては長かったじゃないの……心配したんだから」
「ごめん……。少しこの辺りを調べるだけのつもりだったんだけど、思わぬ事態に遭遇したというか」
「アマト君は上手くやったと思うよ。アマト君が陽動に動かなければ、尻尾を出すこともなかったよ。あれは」
ルナはどうやら追ってきたものを探り当てたようだ。
それだけで俺のしたことに意味を成したという事がわかる。
「それは結果の話でしょ? 黙っていなくならないで」
「わかった。だからそんな顔するなよ」
ユイナは薄らと泪を浮かべていた。スペラはぼろぼろになり、ディアナも重傷を負っていた。ましてルナは悪魔で少女の死をユイナは一番近くで感じた事でルナとの間の溝は俺よりも深いと思う。
それで俺まで突然いなくなったとなれば、心細くもなるだろ。
「約束したでしょ……」
「わかってる」
俺はそれだけ言った。
あまり言い訳を重ねれば言葉の重みが無くなり、薄っぺらいものとなってしまうように思ったからだ。
スペラは未だに目覚めない。雨が止むのが先かスペラ達が目を覚ますのが先かそちらが先だったとしてもこの場所を離れることなどできはしない。少なくとも俺達は今何者かに狙われているのだからうかつにうごけない。
「ルナ、敵の数はわかるか?」
「わかるだけで二人、ここを挟むように位置を取っているみたい」
「二人か……俺を追いかけてきた奴もなかなかみたいだが、もう一人いるとなれば早まらなくてよかったと思う。迂闊に待ち伏せなんかしていたら見つかっていた。
正体を探りたいが、索敵に特化しているスペラは未だ寝ている以上ルナの力を借りる他ない。
「ルナ、二人で間違いないんだな。それなら俺達だけでもどうにかなるはずだ。敵か味方かはっきりしないうちから仕掛けるのはまずいのはわかっているが後手に回るよりはましだ」
「殺さない程度に遊んであげるよ。少しばかり恐怖を味わってもらえばそれでいいってことだよね」
屈託のない笑顔を向けるルナ。
「牽制するのが目的だからな。隠れて追ってくる以上攻撃されても文句は言えまい」
俺はそうは言ったものの少し濡れた服を手で触りながら落ち着くことはなかった。
即ち、スペラ抜きで打って出るという事。
できれば、戦闘にはなってほしくはないがやられてからでは遅い。
今のうちからできることはやっていかなければ、取り返しのつかないことになってしまう。
「ユイナ、ルナ出るぞ……」
俺達は診療所に無数にあった布きれを各自一人に一枚かぶさると外へと向うのだった。
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