第107話「異世界5日目、5人の朝」

 朝になったというのに外は薄暗く雨音が静かになることもなかった。これだけ激しい雨が止むことなく降り続くことなど元の世界ではそうはない。水の量は決まっているのだから二つのコップを行き来しているようなものなのだからこれだけの雨が降るという事は即ち水そのものが豊富だという事を意味する。


 俺はそのまま一人起き上がろうとするが、ルナにしっかりとホールドされていて抜け出せない。流石に、何度も続けば抜け出す為の技術は身についてくる。


『拘束解除 取得』


 天の声を久々に聞いた気がした。実際はことあるごとに聞こえていたはずなのだが、これだけ落ち着いた雰囲気でもないかぎりおちおち聞き入ることなどできるはずもない。

 聞き逃したからと言って、言いなおしてくれたりはしないのだから一発限りのイベントなのだ。


 拘束解除のアビリティは戦闘中にも何かと役に立ちそうな気がする。密着状態に限らず競り合った時も効果を発揮するというのだからこの力は自由度が高い。


「ルナのおかげで新しいアビリティが手に入った……。サンキューな」


 ルナが眠っているならばと一言呟いた。面と向かっては素直に言えないことだってあるものだ。唯でさえルナにはわだかまりがあるのだから、これくらいは仕方がないだろ。

 なにもルナの事が嫌いと言う話ではない。好き嫌いとは違って出会い方が違っていればもっと気軽に話せる間柄になったかもしれないと思うと胸にしこりが残った。


「アマト君は思った通りの人で良かったよ。人間を好きになったことなんてなかったんだけど、アマト君は人とか生物とかそういうのを抜きにして好きだよ」


 ルナは起きていたばかりか、意表を突いた告白をこれでもかというほど核心をついて伝えてきた。

 ユイナが起きないようにと気を使ってそれほど大きな音は立てていない。

 この状態をどう説明したらいいのかわからない為、寝ててくれると助かるのだが。


「その気持ちだけもらっておく。そのうち俺の本性が見えてくれば二度とそんなことは言えなくなると思むしな」


「悪魔は相手の本心を見抜くことができるんだよ。ってことは言うまでもないよね」


「その力は常時働いているのか?」


「流石に意識しないとわからないよ。そうでないとざわざわしすぎて疲れるでしょ」


 意味は分かるのだが、そんなに単純な物なのだろうか。本人がそういうのだからそうなのだろう。


「ほどほどにしてくれ」


「わかった。じゃあ、口止め料としてキスして」


「調子に乗らないようにな」


「つまらないの」


 ルナはちらっとユイナの方を見るとにかっと笑った。もうだいたい読めてきた。


「ユイナもなんか言ってやっていいよ」


「未遂で終わって良かったね。それとも残念だった?」


「いや……」


 俺は背筋に冷たいものを感じた。

 ユイナは怒らせないようにしないといけないな。もう何度目だろうか。

 これから先も心配事は絶えない。そう思ったのだった。

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