第68話「暗殺組織レイブオブス」

 右足左腕を失った男は地面に転がっている。

 焼き切れたことで止血されている為か出血は思いのほか多くはない。

 相対する二人は互いに疑問をぶつけているがどちらも回答を見いだせずにいる。

 

「答えてやってもいいが、まずはお前が俺達を襲った理由から答えてもらおうか。お前は何なんだ?」


 少しでも情報を聞き出す為にできることは、こいつを殺すことではない。ギブアンドテイクでもいい、与えられるものは与え、聞き出せることはすべて聞き出す。そのあとの事なんて知らない。 


「答えてやるわけはねーだろおぉおお、馬鹿かてめえはぁあああ!!」


 しかし、そうやすやすと口を割るならば最初からおとなしく話すだろう。どういう類の人間ではないという事は離さなくてもよく分かる。人は見かけにはよらない。「内面で判断してくれ」などと言う人がいるが、見てくれで拒絶されれば内面を見てもらえることもないという事を理解していない者の言う事だ。


「なら、不本意だが生かしておくのもこの先危ないから殺すことになるが、しょうがないよな?」


 俺の投げやりな台詞を聞いて目を泳がせている男は何かに怯えているようにも見える。今まさに命の危機だというのに俺ではなく何か別の誰かに怯えているとしか思えない。


「ここでしゃべっても殺されるなら話す馬鹿はいねえんだよ!!」


「話すというのならお前が怯えている奴から守ってやってもいいぜ。お前の術さえも無効化した俺達ならばお前くらい守ってあることなんか簡単だが、お前がどうしてもここで死にたいって言うならすぐに楽にしてやるよ」


 辺りをきょろきょろと見渡すと一言呟く。


「本当なのかぁああ? 話したら守ってくれるんだろうなぁああああ」


 いちいちしゃべり方が鼻につくがここで少しでも情報が得られるのならば仕方がないと割り切ることにする。横の二人も今にもブチ切れてぼこぼこにしてやりたいといった雰囲気を醸し出している。

 スペラなんて今すぐにでも飛び掛かりそうにうずうずしている。さっきも止めをさせなかったのが思いのほか尾を引いているようだ。


「ああ、もちろんそのつもりだ。当たり前だろ? お前は俺達に協力すると言ってるんだからお前に死なれて困るのは俺達だ。ただし嘘偽りなく離せばの話だがな」


「わかったっ! 話してやるよぉぉぉおおお。俺はレイブオブスの幹部のロッゾって最強の魔術師なんだよぉおおお!! 俺達は独自にお前らみたいな善人ずらした連中を始末して回ってるんだよぉおおおお。お前らみたいなのがいない方が混沌としていて世の中が楽しくてしょうがねだろおおぉおお。なあ、おい」


 胸糞悪い事を平気で吐き続けるこのロッゾとかいうやつにはこのまま退場してもらいたいところだが、肝心な事を聞いていない。


「お前はレイブオブスとかいう組織に属しているんだな。その組織の詳細を教えろ」


「ボスの名は名は名は名は……これであなた達に会うのは二度目になるのかしらね。前回も直接会ったわけはないのだけれど……。木人形を回収する為にちょっと顔見せはしたけど覚えているかしら? 昨日の事よ」


「そうか……。お前か、確かシャーリーっいうのはあの人形でお前は何者なんだ?」


「私はね、ま、だ、秘密。あなたが直接私のところへ来てくれるのなら教えてあげるわよ。それくらい真名を教えるという事は軽々しいものではないの。それにあなたも自分の真名を知らないだけで仲間にも教えていないでしょ。私と殺し合いをするならせめて自分の本当の名前くらいは思い出してから来なさいな、ふふふ」


「どういうことだ!! 真名ってなんだよ!!」


「……」


 ロッゾはこと切れていた。

 結局何もわからずじまいになってしまった。ロッゾには守ってやると言ったがそれは叶わず口封じに殺されてしまった。

 否、僅かだがわかったことがある。レイブオブスのボスが昨日襲ってきたシャーリーという名の人形少女の親玉だという事。


 そして、その力はかなり強大だという事。俺が二度目の術を防ぐことができたのは、『色創世認識』でロッゾと魔法の流れが色として認識できたからだ。

 ロッゾが流す血と雨、水に擬態した術の流れが全て別々の色として認識したことでその流れをガルファールで断ち切ったことでこれを未然に防ぐことができたのだ。


『色創世認識』はただ認識するだけではなく、認識したものに干渉する力を俺に与える。

 そして、こと切れているとは言ってもまだ魂が完全にロッゾから離れていないことを色として認識したことで新たに得た二つ目の能力を使うことにした。


 その魂をガルファールで斬り伏せる。魂は跡形もなく消えてなくなったことでもう二度と目の前の男が蘇ることはない。

 何も生き返って襲われる可能性を見据えての止めというわけではない。


 消え去った魂を俺の魂が吸収したのだ。

 正確には俺の魂という核の周りを覆う魂の層がこいつの魂を吸収したのだが、実感は無い。

 要はOSとメモリのようなもの。魂というOSそのものは変わらずともメモリには外部から新たにデータを蓄積させることで徐々に情報が増えていく。インストールされたシステムの使用はOSがあれば行えるのだから、まさに吸収して同一化したと言っても過言ではない。


『暗即精察取得』 


条件:対象に水魔法により生成した精神水を体内に流し込む。

効果:対象から1キロメートル以内にいる限り対象の視覚を除く五感の機能を封じる。 


『劣化隠密取得……隠密へと昇華されました』


条件:対象を先に捕捉する。単独行動に限る(パーティーメンバーとの距離が10キロメートル以上離れていれば発動可能)

効果:捕捉した対象から完全に情報を秘匿する。

  

 一つ目の魔法に関しては相手によっては絶大な力を発揮するのだろうが、二つ目のアビリティと組み合わせることで真価を発揮するのであって単体では実用性は乏しい。

 隠密を使う為には仲間から10キロメートル離れなければならない。これは現状では使い道が全くないアビリティだと言わざる負えない。

  

 これから先単独行動をとらざるを得ない事態になったとしても10キロメートルという距離はかなり長い。少し様子を見るための偵察程度ではこの距離の壁は超えられない。

 俺の場合は属するパーティーが制限の条件となっていた。しかし、ロッゾの場合は恐らく組織の仲間だろう。即ち、レイブオブスのメンバーは10キロメートル圏内にはいないという事は意味している。


 奴が単独行動をとらざる負えなかったのもこの能力に縛られていた為だろう。それにこの能力の組み合わせは最良であると言わざる負えない。これを偶然身に着けたとするならば幸運以外の何物でもないだろう。

 意図して身に着けることができたとはどうしても思えない。だが、まだそうと決まったわけではない。口を封じた本当の目的は他にあるとするならば、この能力を与えたものがいる。現段階で疑わしいのは数度接触があった組織の恐らくボス。


 いずれまた接触はあるだろうがそれまでに情報は集めておきたい。幸いにも組織の名は割れた。これだけでも一歩前に踏み出したという実感はある。

 次に、真名の存在。俺は自分の名前が他にあるなどと思ったこともなければ言われたこともなかった。 あの口ぶりからすれば、あながち間違ってもいない。


 しかし、ステータス上では今までの本名がそのまま表示されている。これは矛盾しているように思う。 裏を返せばステータス上で表記されない情報があるともとらえることができ、ステータスそのものが嘘、偽りであるとさえいえてしまう。


 まだまだ未知数な部分に多すぎる。 

 あいつの言葉を全て信じることは出来ないが、可能性の一つとして片隅に置いておくくらいならばいいだろうと割り切ることにした。


「アマトはどんどん強くなってるね。私の治癒魔法も必要なかったんでしょ?」


 ユイナが唐突に言った言葉に驚くことはなかった。俺が何を思っているのかなど既にわかっているのだろうという認識はあった。


「いつから気づいてたの?」


「さっき魔法を使った時かな。治癒の魔法に限らず、魔法は使った相手に干渉するからね。あまり回復させているような感覚がなかったからね」


「別に隠すつもりはなかったんだけど、さっきは伝える手段もなかったし余計な心配もかけたくなかったし」


「わかってるよ。アマトが考えてることも、私達を常に気遣っていることも間近で見てきたから。全部話してほしいとは言わないけど、心配を掛けたくないっていうのはやめて。私だってアマトに頼ってる自覚はあるんだから……」


「ありがとう……気を付けるよ」


「ミャーももっと頼ってほしいにゃ」


「さっきは助かった。スペラのこともユイナの事も誰よりも信頼しているさ。出なければ命を預けることなんてできないからな」


 照れたようにスペラは身じろぎして、やはり俺に飛びついてくる。

 今が土砂降りだというのに俺達は一体何をしているんだろうと思うが、口に出さなければ伝わらないことだってある。

 それを改めて今実感した。

 びしょ濡れのスペラの薄着の肌の感触に少しドキドキしてしまう。


 シチュエーションが違えば普段とは違う魅力が見えてくる。

 妙なことを鑑みているのを感じ取ったユイナはいつもなら痛烈な視線を向けてくるところだが、今は雰囲気が少し柔らかい気がする。

 気のせいなのだろうか……。

 気のせいでなければいいなぁと思いつつ、再び先を目指すのだった。

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