第21話「猫耳少女の行方」

 森を抜けると広がるのは広がる草原に幾重にも重なりあうように断層が見え隠れする堆い丘。

 日本でも地震が数度起こることにより、地盤が上下することがあるがそれに非常に似ている。

 断層の壁面も数えられないほどの年月が過ぎ去ったのだろうか、草木が生い茂っている。


「夕焼けが綺麗だね。村から離れることがなかったから、ちょっと感動してるかも」


「まあ、どこの世界にいても綺麗なものは綺麗だしね。苦労の末に得られるものは一入ってところか。カメラがあれば撮りたいところだけど、ないんだよなぁ」


 機会があればカメラを作りたい、子供のころ夏休みの自由研究で手作りカメラを作ったことがあった。

 原理さえ分かっていれば割と簡単に作れる。


「アマトなら、カメラの一つや二つ簡単に作っちゃいそう。そういうの得意でしょ?」


「まあ、できなくはないかな。デジタルは流石に無理だけど」


「普通はアナログであっても作れないと思うけど。それより、村から出たことがないかこの世界のことがあんまりわからないんだけど。もしかしたら、ロボットとまではいかなくても機械みたいなのってあったりするんじゃないかな」


 何とも興味の湧いてくることを言うユイナ。

 表情は何ともなげやりというか、期待はしていないように見える。


 俺の母親はパソコンは愚か携帯からテレビまで、機械製品がまるで使えない。

 むしろ敵視しているくらいだった。

 そう、まさにそんな顔をしている。


「あれば便利だと思うけどね。ユイナは機械とか苦手というよりも嫌いなんじゃないか?」


「携帯くらいは使えてたけど、パソコンは触りもしなかったね。気が付くとキーボードがぼろぼろになってるの。なんか精密機器っていうのかな!? 優しく触れないと壊れちゃうっていうところが駄目」


 何が駄目なのか理解するのに……。理解できなかった。

 もともと、馬鹿力だったんだろうこの娘は。

 だから、魔法で攻撃するより物理で殴ったほうが強かったりするんだ。 


「そうだね、機械は柔らかいからね」


 棒読み口調で煽る俺。


 (さて、どう出るユイナよ) 


「アマトもそう思う!! みんなわかってくれなくて、私がおかしいのかと思ってたの。やっぱり機械はもっと丈夫に作ってくれなきゃ駄目よね!!」


 満面の笑みを向ける少女は夕日に照らされて、神々しいまでに輝いていた。

 この犠牲が、幾度となく破壊されたであろう現代文明の上に成り立つお思うと、感慨深い。


「兎にも角にもまた一つ目的が増えたな。なければ作ればいいし、魔法が使えるならば製造機器をそろえる手間がない分ショートカットが可能なはず。発想さえ持っていれば誰かが先に何か発明しているとも考えらえる。科学者を仲間にするのもいいかもしれない」


「科学者っていうと、おじいちゃんなイメージがあるなぁ。一緒に旅をするのは大変なんじゃないかな!?」


「ここは異世界だから、歳イコール知識とは限らないんじゃない!? 師匠ほどになれば知識、強さ、年齢が比例するのはわかるけど、いろんな種族があるわけだしさ」


「それもそうね。なんだかんだ私も、人間やめちゃったことでいろいろ便利に生きてるわけだし」


 遠い目をするユイナに、言葉を詰まらせる。

 まだ、出会って一日しかたっていないのにもうすべて吹っ切れと言う方が無理がある。


「俺が元の世界へ帰す……」


「ごめんなさい……。アマトも辛いのに……」


「あと少しで、我が屋敷が見えてくる。日が沈めば夜行性のモンスターが活発になるそれまでには辿り着かねばならん」


 カイルが俺たちの話に割って入る。

 辺りは薄暗くなりつつある。


 断層の壁の隙間は馬車の行き来することができる程度の幅があり、狭い印象は左程感じられない。

 斜面を緩やかに歩行することができる道を選びながら、進んでいく。

 幾度と繰り返してきた先頭により、疲労も限界を超えていたため無理に段差や急勾配を進むことは敢えてしない。


 ようやく屋敷のシルエットが望む高台に差し掛かった。

 遠目に見ても立派な屋敷だとわかる程、村の民家とはかけ離れた豪華な佇まい。

 敢えて屋敷の存在感を発することにより、威厳を保ち周囲の牽制を行ってるのだろう。


 残り300m程といったところで、周囲は完全に柵と塀の二段構えで覆われ魔物除けの鈴が当りにぶら下がっている。

 村では主に魔物のみを対象にしていたのに対して、屋敷を囲む段差や塀は対人を想定しているかのような作りをしている。

 入り口は正面の門に有る為、壁沿いに北に回り込まねばならない。


 屋敷の入り口が、村のある方角では森を向いているのも領主の屋敷としての構えなのだろう。

 門の前には呼び鈴が設置されており、鳴らすとすぐに壮年の執事と若く麗しい侍女が出迎えてくれる。


「旦那様お帰りなさいませ。姫様、御客様ようこそいらっしゃいました。食事の用意ができております。どうぞこちらへ。屋敷の方へ案内させていただきます」


 壮年の執事は会釈をすると、俺たちのリュックを「お預かりいたします」と一言添え、高級ホテルのサービスを受けているかのような対応をする。 

 侍女はというと、カイルからスペラを預かると易々と抱きかかえる。


 門からは庭園が広がり、中央には噴水が神秘的に光り輝く清水を吹きあげている。

 その光景はまるでライトアップされたイルミネーションのように見える。

 敷地の外に向かうように傾斜が有る為、2m近い壁が周囲を囲んでいるにも関わらず、外界を見渡すことができる。


 外部からは、入り組んだ断層により内部が見渡せず屋敷からは周囲の状況が逐一見渡すことができるという籠城に適した作りになっているようだ。

 不思議な造形美の植え込みが辺りに、点在して飽きさせない。

 ドラゴン、猫、犬、鳥、巨人、亀など様々なシルエットを横目に屋敷の玄関に差し掛かる。


 内側から、開かれる扉の奥には二人の侍女、調理服に身を包んだ青年、小ぶりだが逞しい体つきの中年の男が出迎えてくれた。

 皆深くお辞儀をした格好で左右に二人ずつ並んで立っている。


 玄関ホールは広々と開けている為、思っていたほどインパクトにはかけている。

 この広さなら100人くらいは優に、入ることができるだろう。

 それだけいれば、窮屈だとは思うがいざとなれば駆け込むことができそうだ。 


「ラティ。その娘には聞かなければならぬことがある。逃げられるわけにもいかぬのでな、ミーシアにでも監視するように言っておいてくれ。扱いに関しては客人としてで構わん」


 最後にカイルは一言添えた。


「かしこまりました。丁重にご奉仕させていただきます」


 ラティと呼ばれた侍女はメイド服に茶色のポニーテールで整った顔つきで身長は俺と変わらない。落ち着いた年上のお姉さんと言った感じだ。

 一礼すると、猫耳の少女を抱きかかえ二階へ伸びる階段を上っていく。 


「ゼス。留守中はご苦労であった。早急で悪いが何があったか報告せよ」


 ゼスというのは壮年の執事の事だ。ラティと同じく茶色の髪に髪を後ろでに一つに縛っている。背も2m程もあろうか、服を着ていても肉体の張りは隠せぬほどで、逞しさが見え隠れする。


「旦那様の目はごまかせませんな。皆さま、あちらに食事の用意ができておりますので、まずはお済ませになってください。食後にデザートを用意させますので、その時にでもデザートを肴にしながらでもよろしいかと」 


「早く話せというのにお前は相変わらずマイペースな奴だ……。よかろう、あまり無理はするなよ」


「いつの間にか旦那様よりも私の方が年老いてしまいましたからな。ラティのことが心残りですが、その時は頼みますよ」


「主に面倒事を残す程偉くなったのか? 我の許しを得ぬまま死ぬことはまかりならんぞ」


 相変わらず、鎧を脱ぎもせずに言うカイルだが、哀愁を感じる。

 端から見ていれば主と従者という関係以上のが感じられる。

 それも、相当に長い付き合いがあるのだと会話からの推測できる。 


「さあ、こちらへどうぞ」


 案内された部屋は貴族の邸宅の食卓を彷彿させる空間が広がっていた。

 今まで縁もゆかりもなかった為、目の前の光景が以外にもこの世界で一番脅かされることになった。 

 それは元の世界と異世界両方の境目があやふやであるからこそ。


 そして、先程のコック、専属の料理長で名前はザックスというらしい。

 料理スタッフは彼ひとりで一定の間隔で料理を運んでくる。


(なるほど、一度に持ってこないところがリッチだ」


 そんなことを思いつつ、極上の料理に舌鼓を打つ。

 最上級の食事に皆満足し、食べ終えデザートが運ばれてくる。

 今まで別室で食事をしていたであろう、ゼスとラティが姿を見せる。


 これから、留守中に起きた出来事が語られる。

 猫耳少女が奇しくもあの場所にいた事も……。

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