Over the Chick Cuckoo's Cage
山本アヒコ
The Chicks
校舎にチャイムの音が響き渡る。
「はい。掃除の時間は終わりです。教室に戻ってください」
教師の言葉に、制服姿の少年少女は掃除用具を片付け、それぞれの教室へ戻っていく。
毎回この掃除をすると、鈴村ミドリはこれが本当に意味があることなのかと疑問に思う。なぜなら、すでに清掃用ロボットがこの学校には配備されていて、人間よりもきれいにできるからだ。廊下の壁には小さな扉があり、生徒達がいない深夜にはそこから清掃用ロボットが出てくるようになっている。
それなのになぜ、こんな前時代的な人力による清掃がされているかというと、これまた前時代的な「掃除は人の精神を健全にする」という学校側の理念があるからだった。
この学校は、小中高一貫校のうえ全寮制。そのためなのか、こういった奇妙な制度が多くある。
ミドリたち全員が席に座ると、ホームルームがはじまる。
「今日の当番は、斉藤くんが寮の戸締り、飯島さんと伊藤さんが夕食の配膳係、森くんが寮玄関の掃除、それから……」
寮生活する生徒達には、日替わりで仕事が与えられている。これもいくつかある学校の奇妙な制度だ。
教師は次々と生徒達に、与えられた本日の仕事を伝える。クラスの人数は二十人にも満たないが、日替わりで変更になる仕事を把握するのは難しい。何曜日にはこれというふうに決まっているわけではなく、ひと月ごとにランダムでスケジュールが組まれるため、毎回暗記するのは大変だ。しかも教師の手元にスケジュール表があるわけではない。
ではなぜスラスラとそれが言えるのか。教師がhIEであるからだ。
《hIE》(humanoid Interface Elements)は、いわゆるアンドロイドだ。コンピュータによって制御される、機械の体を持つ人間型インターフェース。二十二世紀となった現在では、すでに一般的なものだ。こうして教師役ができるほどに。
しかし、まだhIEが使用されている学校は少ない。それはやはり、機械が人間に教育を施すということへの拒否感や違和感からなのだろう。様々な場所で使用されるようになっているが、今もhIE排斥を訴える人々によって、デモが起こっている。またhIEを襲い破壊する犯罪行為も行われていた。
ではなぜこの学校でhIEが教師役として使用されているのかというと、この学校に通う生徒のほとんどが児童養護施設に保護されていた子供達だからだ。親との死別、育児放棄、虐待など、理由は様々だが、こういう子供たちは他人に心を開かなかったり、恐怖を感じることが多い。そのため普通の人間より、人間に似た《hIE》のほうが相応しい場合があるのだった。
ホームルームが終わった放課後、部活動をやっていないミドリはすぐに寮へ向かう。
寮は校舎のように無機質で趣も無い外見だが、汚れは無く新築同然に見える。寮は五階建てで大きく、部屋数も多い。そのため全員が個人部屋で生活している。寮は入り口が二つあり、それぞれ男子寮と女子寮に分割されていた。二つの寮が一つの建物の中にあるのだ。
ミドリの部屋は五階にある。階段だと疲れるが、寮にはエレベーターがあるので問題ない。室内は一人で暮らすには十分な広さがあった。シングルベッドに収納ボックスがいくつかと、システムデスクに椅子。
部屋にある他の物と比べて、システムデスクと椅子だけがやけに高級感があった。それらは鈴村ミドリが暮らしていた児童擁護施設に寄付をしている、誰かからのプレゼントだった。ミドリがこの全寮制の学校に入学したのは高校からで、その入学祝いにもらったものだ。それが特別というわけではなく、その児童養護施設では誕生日やクリスマスに進学など、そういうイベント毎にプレゼントが寄付者から贈られていた。
ミドリは通学用バッグからタブレット型端末を取り出し、机に置いた。このタブレット型端末は、学校から全生徒に配られる。そのかわり学校では、個人使用の携帯型端末を使用することが禁止されていた。学校が配るタブレット型端末は、一部の課金型ゲームやアダルトサイトなどの閲覧はできないが、ほぼ自由にインターネットを閲覧、使用することができた。通話サービスなども無料で使用できる。
一部の生徒は無断で個人用端末を持ったり、学校用タブレットを改造したり、自分でプログラミングするかダウンロードするなりしているのだが、ミドリは特に不便も不満も感じていなかったので、そのままこのタブレット型端末を使用している。
ミドリは制服から普段着に着替えたあと、タブレットでネットを見たり、本を読んだりしていた。寮では日替わりで仕事があたえられるのだが、週に一日か二日、それが無い日がある。それが今日だったため、しばらくミドリはタブレット型端末でネットやゲームしていると、夕食の時刻になった。
寮での食事は毎回食堂だ。バイキング方式で、それぞれが好きな料理を必要な分だけ食べることができる。ただし時間が決まっていて、事前に申告していなかった場合、時間を過ぎれば食事を抜かれることになってしまう。
食堂は広い。これは食堂が男女兼用のためだ。時間が決められているため、この場所に寮の全ての生徒が集まるので、非常に騒がしい。
しかし、それでも食堂には余裕がある。食堂が広いこともあるが、人数が多くないということもある。
生徒のほとんどが児童養護施設で暮らしていたということもあり、学校が少人数制の教育を行っているためだ。この寮も、空き部屋が実は多い。
ミドリはひとりで食事をしていた。それなりに会話をする友人はいるが、親友とまで言える存在はいなかった。
この学校は小中高一貫校なので、ミドリのように高校から入学するという生徒は少なかった。そのためすでに仲の良いグループは作られていて、またその生い立ちもあり孤独を好む生徒も少なからずいるので、そういう生徒と親しくなる事はない。
ミドリも最初は戸惑いもしたが、今はそんなこともなかった。確かにこの場所に特別親しい友人はいないが、誰も友人がいないというわけではない。
夕食を終えたミドリは自室でシャワーを浴びる。寮の個室には、それぞれトイレとシャワールームがある。シャワールームはその名前の通り、シャワー設備しかない。寮には大浴場があるので、そこに行けば湯船につかれるが、ミドリはシャワーで十分だった。
その後机で自習などをしていると、タブレット型端末に遠隔通話サービスの着信があった。表示された名前を見て、ミドリの顔にかすかな笑みが浮かぶ。
「こんばんは、クリスティーナ」
「こっちは、おはようよ。何度目かしら、このやりとりは?」
二人は小さく笑う。
電話の相手はクリスティーナ・エマーソン。名前の通り日本人ではない。赤毛と色素の薄い目に、白い肌と高い鼻という外見をしている。しかし今、二人が話している言語は日本語だった。
ミドリとクリスティーナは物心ついたときから、同じ児童養護施設で暮らしていた。クリスティーナはイギリス国籍の両親が、どういう理由かわからないが日本の児童養護施設に預けるしかなくなったという子供だった。そのため彼女の国籍は、イギリス国籍になっている。
ミドリの両親とは違い、クリスティーナの両親の名前と現在の住所もわかっている。しかし彼女はそれを知ろうとはしなかった。何度かミドリもその理由を聞いたのだが、彼女は何も言わなかった。おそらく怖いのだろうとミドリは思っている。
「アメリカはどう?」
「どうって言われても……ほとんど外に出られないから、よくわからないわ。普段は学校とマンションの往復だし、外出するときも毎回車だから。それによ、数ブロック先に行くのにすら、一人で歩かせてくれないのよ!」
「ははっ。前も言ってたよ、それ」
「笑い事なんかじゃないんだからね! この前も……」
ミドリとクリスティーナは、中学卒業まで同じ屋根の下で暮らしていた。しかし高校進学とともに、ミドリは日本、クリスティーナはアメリカという遠い距離に別れてしまう。その原因はクリスティーナのスキップ、つまり飛び級進学だった。
クリスティーナは幼いころから数学に素質があり、中学卒業とともにアメリカの大学への飛び級が決まる。それを本人は嫌がったが、ミドリが説得した。
クリスティーナは「ミドリもアメリカの大学に来てよ」と涙ながらに言ったが、ミドリは苦笑しながら「そんなに頭がよくないから無理だよ」と首を横に振る事しかできなかった。
実際のミドリは平均よりかなり優秀だったが、クリスティーナほどに特別な優秀さではない。今ミドリがいる学校も、児童養護施設で暮らす、優秀な知能を持つ子供達だけが入学を許されるような場所である。
「それでさ、ミドリ。そっちの学校には慣れた?」
「うん。それなりに」
「ほんとかなあ? ミドリは人付き合い悪いし、受け答えもそっけないから、友達できるか心配だったんだから。施設でも私ぐらいしか仲いい人いなかったし」
本気で心配している様子がわかる口調に、ミドリは苦笑する。
「そんなことないよ。何人か友達できたから、心配しなくても大丈夫だから」
これは嘘だった。ミドリには、この学校に入学してできた友達などいない。
そして入学する前、十年以上生活した児童養護施設にも、クリスティーナ以外に親しい人間はいなかった。
******
鈴村ミドリは、物心ついたころにはすでにこの児童養護施設で暮らしていた。
施設の敷地は広く、建物も清潔でまだ新しく見える。この児童養護施設には、約五十人の子供達が暮らしていた。年齢は全員十代前後。ミドリは十二歳だった。
廊下を二人の男子が走っていく。何か笑いながら楽しそうに。すれ違うミドリは二人に目を向けようともせず、黙々と歩く。
ミドリは次に受ける授業が行われる部屋に向かうところだった。この施設にいる子供たちは全員、学校へ通っていない。この施設内で全ての教育が行われているからだ。
敷地内には子供達が暮らす建物の他に、教室棟と呼ばれる建物があり、そこには複数の教室と体育館、さらには屋内プールまで完備されている。この学校施設に通うのは、施設の子供達だけだった。
ミドリはこれが普通の学校ではなく、縁もゆかりも無い複数の家族の子供達が通う学校があることは知っていたが、特に気にしてはいなかった。自分には両親も頼れる親類もいないのだから、こうして満足に教育をしてもらえるだけありがたいと思っていた。また、幼いころからこの環境に慣れているため、今更別の学校に行けと言われても困る。
「あっ、ミドリ」
聞こえた声に、思わず笑みが浮かぶ。
廊下の向こうから歩いてきたのはクリスティーナだった。肩よりも長い赤毛と、大きな色素の薄い瞳が印象的な少女だ。肌は白く、はっきりした顔立ちから彼女が白人種だとわかる。
ミドリは見るだけで日本人とわかる顔立ちだが、この施設では珍しい部類に入る。ここで暮らしている子供達の人種は様々。日本国内にも関わらず、白人や黒人、ハーフの子供がほとんどだ。ミドリのように純粋な日本人は数人しかいない。
いつからクリスティーナと仲良くなったのか、ミドリは覚えていなかった。気付いたらよく話すようになっていた。詳しく言うなら、ミドリが会話する相手はクリスティーナしかいない。
児童養護施設の学校には、クラスというものが存在しない。幼いころは集団生活の経験を積むためにも、ある程度の人数単位で授業をするが、その後は個人の習熟度合いによって授業が割り振られる。また、特別な素養を持った個人には、専用のカリキュラムを作られる事になっていた。
これは現在、特別なことではない。一般の学校でも個人別にカリキュラムが作られている。これは人工知能が学校行政に利用されるようになったからだ。全国の学校から情報を集め、それを人工知能によって精査し、その人物がどの学習要綱をクリアできるかどうかの見込みを出すことができるようになったため可能になった。
クリスティーナは現在、その特別専用カリキュラムを与えられている。そのためミドリと同じ授業を受ける事は無く、学校内で会話できるのはこうした授業と授業の間の時間ぐらいしかなかった。
「ここで会うのは珍しくないかな?」
「そうね。カリキュラムが変更になって、この後はプログラミングなの」
今の教育制度では、中学生からコンピュータプログラミングが必須科目になっていた。しかしクリスティーナとミドリは同い年で、まだ小学生だ。
「数学は好きだけど、プログラミングはそうでもないのよね」
クリスティーナは口をとがらせて腕を組む。眉間にもしわができていた。
彼女は幼少のころから数学的センスが優れていて、それを重点的に伸ばすように特別カリキュラムを組まれていた。それにより、すでに高校生レベルの数学知識を持っている。
ミドリは純粋にその能力を素晴らしいと思っているが、クリスティーナはそう思っていないことを、これまで何度か聞いていた。
「でも、特別なんだからすごいよ。クリスティーナみたいに頭がよくないから、それがどうすごいのか分からないけど」
それを聞いてクリスティーナーは頬を膨らませ、肩を怒らせてみせた。
「なに? すごい怖い顔だけど」
「……数学は好きだけどさ、カリキュラム自体はなんだか、やらされてるように思えちゃって……」
「それは仕方ないんじゃない? それが学校だし」
するとクリスティーナは大きくため息をつく。その様子に、ミドリは目を瞬かせる。
「たしかに、個人の能力を上げるには、専用のカリキュラムが必要なんだと思うわ。実際に自分でも体感してるし。でも、そこに自分の意思は無いじゃない。これをしなさい、あれをしなさいって、ただ言われるだけだし」
「でも、その通りにやったら頭がよくなるんだから、それでいいんじゃない?」
そう言うと、クリスティーナは両手で髪の毛をかきまわし始めた。ミドリは何をしているのだろうと首をかしげる。
美しい赤毛がグシャグシャになってしまったクリスティーナは、上目遣いでミドリを睨みつけた。その鋭い視線を受けても、ミドリはただ目を瞬かせるだけだ。
もう一度ため息をつくクリスティーナ。
「……もう。ミドリはそういうところがあるわね。鈍感で、言われたことはやるし疑問も持たない。長所なのか短所なのか……」
「クリスティーナ、調子悪いの?」
「違うわよ。カリキュラムが嫌なわけじゃなくて、ほら、ここって自由に外出できないじゃない。息がつまらない?」
「そうかなあ?」
ミドリたちが暮らすこの児童養護施設は、緑豊かな山中にある。周囲数キロには民家が無い。直接施設へ繋がる道路もひとつしかなかった。
しかし電気も水道もあり、ネット通信環境も万全だ。食料などの生活必需品も定期的に運ばれてくる。お菓子やゲームなど、子供が欲しがるような物も頼めばある程度は自由にもらえた。ただし、子供達の自由な外出はできなかった。
施設の敷地は高い壁とフェンスによって守られていた。場所が山中のため、野犬やイノシシなどの危険な野生動物が侵入する可能性があるためだ。監視カメラや赤外線センサーがいくつも設置されていて、侵入者や施設から出ようとする子供も見逃さない。
施設の敷地には、鉄棒やジャングルジムなどの器具が設置されたグラウンドや、木や花壇などがある公園のような場所がある。そこで子供たちは自由に遊ぶ事はできたが、周囲にある山や街など、施設外に自由に出ることはできない。
「クリスティーナが前に外出したのっていつ?」
「一週間前ね」
「ほら。外出できてる」
「そうじゃないのよ。外出できても、どこに行くか決まってるじゃない」
子供たちは、ずっと施設内に閉じ込められているわけではない。月に何度か小人数のグループ何組かで、施設から外出している。ただし子供達の自由に遊びまわれるわけではない。
外出の際には、必ず数人の大人が引率責任者として子供達を管理する。移動も決められた範囲内でしかできない。『施設から車で何駅へ移動し、そこから何駅へ電車で移動し、A・B・C店へ行く』というように、移動できる場所やスケジュールも完璧に管理されている。
このとき引率する大人というのは、人間ではなくhIEだ。人間と違い機械であるhIEは、装備されている複数のセンサーによって子供達を完璧に把握し、見失い迷子にするという心配は無い。不審者などの接近も、すぐに発見できる。
施設では、ほとんどの職員がhIEである。学校の教師や食堂で調理するのもhIEだ。人間の職員は数人しかいない。そもそも施設の子供たちは、hIEか人間なのかあまり気にしていなかった。幼いころからhIEと一緒に暮らしているためだ。
「それは、まあ、仕方ないんじゃない。子供だけだと危ないし」
「でも、もう少しぐらい自由にさせてくれてもいいのに……」
まだ不満を言い足りないようで、クリスティーナは右足のつま先を何度も上下させて音をたてている。何をそんなにイラついているのかと考えていると、ふいに思いついた。
「前の外出のとき、行きたい場所にいけなかったんだろ?」
ミドリの言葉に、勢いよく顔を向けると、そのまま額をぶつけるようにしてクリスティーナは顔を近づける。
「そうなのよ! 私はドードーの限定ぬいぐるみを買いたかったのに、ダメだって。ショップ限定で通販じゃ買えないし、数量限定品なのに!」
ドードーというのは、おもちゃメーカーのキャラクターだ。丸々と太った鳥のキャラクターで、これはクリスティーナが幼いころから大好きだった。このドードーは今でも人気があり、様々なキャラクターグッズがいくつも売られている。
クリスティーナはドードーのキャラクターグッズを集めるのが趣味で、彼女の部屋はドードーの博物館の様相になっていた。
そんな熱狂的ファンのクリスティーナは、どうしても限定品のぬいぐるみが欲しかったが、それを売っているショップに行けなかった。そしてそれが売切れてしまったことを、今日ネットニュースで知ってしまったらしい。
クリスティーナがその悲しみと絶望を一方的にミドリへぶつけていると、授業開始三分前を知らせる予鈴が聞こえた。
「いけない、遅れるわ。ミドリも遅刻しないようにね!」
クリスティーナは手を振りながら廊下を走り去った。ミドリはそれを見送ると、自分が授業を受ける教室へ、ゆっくりと歩いて向かった。
今日一日の授業が終わり、教室棟を出て寝起きをしている建物へ戻る。二つの建物をつなぐ渡り廊下を歩いていると、背の高い中年男性が立っていることに気付いた。
年齢はおそらく五十程度。肩幅が広く、多少腹回りがふっくらしているが、不健康そうな太り方ではない。年齢相応だろう。掘りの深い顔立ちに青い瞳をしている。
髪型はきれいに整髪料でセットされている。服装も見るからに高価なスーツで、ネクタイもきちんと締めていて、どこかの企業の社長かCEOなのではと人に思わせる。
その男性はミドリの部屋がある建物と渡り廊下が接続している壁際に、ひとりで立っていた。背筋をのばし、壁によりかかることもなく、綺麗な姿勢をしていることがミドリの気をひいた。片方の手をポケットに入れているのだが、それが絵になっている。
その男性をこれまで見たことがなかったので、ミドリは新しく入った施設の人間なのかと考えた。しかしスーツ姿で働いている姿を見たことがないので、それは違うだろうを考えを改める。
(誰なんだろう……?)
ミドリはとりあえず会釈をして通り過ぎようとすると、男性から声をかけられた。
「君がミドリ・スズムラかな?」
男性は英語で話しかけてきた。見た目からしてそれは不思議では無い。
「はい、そうですけど……」
ミドリも流暢な英語で答える。現在、英語は第二共用語となっていて、小学校一年から教育が行われていた。またこの施設の学校では、言語教育が重点的に行われていて、英語だけでなく複数の言語を喋れるのが普通だった。
男性は無言でミドリをじっと見つめた。それはまるで実験動物を観察するような視線で、居心地が悪く、思わず視線を下へ向けてしまう。
「あ、あの……」
ミドリが消えそうな声をしぼり出すと、男性は鼻から小さく息を出し、右手を顎に当てる。視線の質は、先ほどから変化しない。
「君は、自分がおかしいと感じたことはあるか?」
「えっ」
突然された思わぬ問いかけに、すぐ答えることはできなかった。その様子を値踏みしながら、男性は再び質問をする。
「まるで自分が自分ではないようだ、あるいは本当の自分は今の自分ではない。自分の体が、あるいは心が偽者なのだと思ったことはないか?」
意味の分からない質問に、ミドリは混乱するばかりだ。男性は冷たい瞳で、ただ見据える。その視線の圧力に負け、なんとか言葉を発しようとした。
「そんなこと、考えた事も……ありません。自分は自分だし、偽者だとか……」
直接男性の顔を見ることは恐ろしく、ミドリは顔を伏せながら小さな声で、なんとかそれだけを言う。
「ふむ……」
男性は再び沈黙し、こちらを見下ろし続ける。ミドリはただそれに耐えるしかない。
もう走って逃げようかなどと考えていると、男性が口を開いた。
「クリスティーナ・エマーソンと仲がいいそうだな」
クリスティーナの名前に、思わず顔を上げた。男性の目と目が合う。ここで初めて顔をしっかりと見ることができた。年齢相応の皺ができている。現在では整形手術のコストが劇的に低下し、年齢よりかなり若い状態にできるのだが、男性はしていないように見える。
「クリスティーナがどうかしたんですか?」
震えそうになる言葉をなんとか抑え、喋る。男性はその様子を興味深そうに顎を指で擦り、ただし瞳は冷たいまま、ミドリを見つめる。
「彼女は数学の才能がある。このままいけば優秀な高校か、あるいは大学へ行けるだろう」
施設の学校は中学校までだ。その後の高校、大学は施設外へ行くことになる。飛び級も今では日本でも珍しくない。
「私はこの施設へ寄付をしている者の一人だ。そして、ここから巣立つ者たちに、進学先の推薦や補助をする者でもある」
「そうなんですか」
なぜこの男性がいるのか、それで納得する。自分が寄付する施設や、補助をする子供達を見学に来たのだろう。
「つまり、これはクリスティーナを補助するかどうかの面接みたいなものですか? クリスティーナならきっと、すごく優秀な学者とかになれると思います。それに明るくて友達も多い。コミュニケーション能力もあります」
自分とは違って、という言葉は心の中で言う。
「君は、クリスティーナのことが好きなのかな」
「はい。好きです」
ミドリはそれを照れる事もなく言った。それは自分にとって当たり前の事だからだ。そして、クリスティーナ以外に、そういう人間はいない。ミドリの世界には、クリスティーナとそれ以外しかいない。
「ほう」
男性の瞳に、これまでと違う興味の色が見えた。口元にかすかな笑みを浮かべている。
「どうして彼女のことがそんなに好きなのだ?」
「それは……わかりません。気付いたらそうだったから」
幼いころから、ミドリは他人に興味がなかった。しかし、いつの間にかクリスティーナと仲良くなり、こうして臆面もなく好きと言える存在になっている。
「なるほど」
男性は深く二度うなずくと、背中を向けた。急な動きに反応できなかったが、数メートル歩いたところで、ミドリは声をかけた。
「あのっ」
男性の歩みが止まった。しかしミドリは何を言うかなど考えておらず、反射的に声をかけてしまっただけだった。どうすることもできず沈黙していると、男性が背中を向けたまま言う。
「きっとクリスティーナは遠からず、君とは離れ離れになるだろう。それについて行こうとは思わないのかね?」
「……思いません。クリスティーナみたいに頭がいいわけじゃないし」
男性はミドリの答えを聞いて数秒立ち止まっていたが、こちらに振り向くこともせず、そのまま歩き去っていった。
男性がどういう人物なのか気にはなったが、施設の誰かに聞くようなこともせず、一週間もすればそんなことなど、ミドリはすっかり忘れてしまった。
******
「クソが! はなせよ、痛ぇぞ!」
イギリスの地方都市。まだ夕方にも遠い時間帯、若い男のわめき声と周囲を走り回る警察官の足音が街を賑わせていた。
場所は荒れた家の中。数年前から誰も住んでおらず、廃屋同然の場所だ。ここを最近起こった連続強盗事件の犯人たちが、アジトとして使用していた。そこへ警察隊が乗り込んで、白昼の逮捕劇となった次第である。
「はぁ、終わった終わった」
ブランドン刑事は、ポケットから取り出した無煙電子タバコをくわえた。まだ犯人達の拘束中だというのに、物見の見物である。ブランドンからすれば、連日睡眠時間などほとんど無く、真夜中のパトロールをさせられたのだから少しぐらいいいじゃないか、という気分だった。
ブランドンはすでに年齢は五十代。定年が見えてきており、すでに体力は下り坂を転がり落ちている。若いチンピラを取り押さえるなど、やりたくもない。
こり固まった肩を叩いていると、目の前を警察官によって連行されていく犯人が横切るところだった。それを何の気なしにぼーっと見ていると、犯人と目が合う。
「ペッ」
犯人の男がこちらめがけてツバを吐いた。それはちょうどブランドンの靴のつま先に当たる。それを見た犯人が汚らしい笑みを浮かべた。すぐに腕を掴んでいた警察官に「やめろ!」と怒鳴られ、腕をねじられて笑顔が歪む。その様子を無関心に見送った。
高度AIが警察に導入され、犯罪の防止率、犯人の逮捕率は向上した。しかし、犯罪が無くなったわけではない。
今回の連続強盗犯逮捕も高度AIによる予測の結果だ。街中に設置されている監視カメラの映像から、犯人達の行動を予測しパトロールコースを決める。それにそってブランドンたち警察が真夜中のパトロールをやっていた。これは事件がいつも夜に起こっていたからだ。
そして犯人達が潜むアジトが発見され、こうして太陽が出ている時間に突入することになったのだった。
これは高度AIによる予測の結果、昼間の犯人たちは酔いつぶれていて抵抗するのが難しい、という結果が出たからである。
現代の刑事には、いわゆる『刑事の勘』というものが必要ではなくなっている。高度AIに詳細なデータを入力すれば、高精度な情報が得られるからだ。
また過去の膨大な犯罪データから、様々な犯罪の予測を行い、それによって警察官のパトロールコースが決められている。これにより泥棒や引ったくりなどの現行犯逮捕や、麻薬取引の検挙率も向上している。
ただし、それは全体的な平均であり、個々の成果が全てそうなるわけではない。
ブランドンがいるこの地方都市は、常に警察官の人数が不足している。そのためブランドンは現在寝不足であり、それが何十年と続いている状態であった。
そんな場所で、さらに頭を悩ませる事態が起こっていた。麻薬売買の活性化だ。どこからか多くの麻薬が運ばれてきて、小さな街は徐々に汚染されている。すでに多くの若者が麻薬に溺れ、逮捕された男たちも麻薬を買う金のために強盗を行っていたのだ。
「くそっ」
ブランドンは靴についたツバを適当に壁にこすり付けると、建物の外へ出た。
まだ昼間であり、普通なら賑やかな時間だが、周囲にそんな雰囲気は無い。物々しい警察官やパトカーが並んでいれば、野次馬がそれなりに集まりそうなものだが、それも少ない。
この地区は犯人達がアジトにしていた建物の他にも、多くの廃屋が集まった場所だった。仕事も無く金も無い者達が集まる場所は、うら寂しく荒れてしまう。これが薬物に手を出させる原因でもある。
「あーあ」
やるせない気分で空を見上げた。
超高度AIのシンギュラリティ突破により、テクノロジーは格段の進歩を果たした。警察に導入された高度AIもその恩恵だ。しかし、その恩恵を受けていない人間達も数多くいる。
不況が終わる気配は無く、この街も荒廃していく一方だ。ブランドンの娘が孫を出産したが、こんな様子ではこっちに孫を見せに来いとも言えない。幸いにも娘が住んでいるのはここから遠く、治安もよい場所なので安心だが。
「……ん?」
電子タバコをふかしていると、とある二人組が目に付いた。
お世辞にも綺麗とは言えない格好をした男女だ。男は不健康そうな顔色で、常に顔を歪めている。女は無造作に伸ばした髪の毛がセットもされておらずボサボサで、まるで寝起きかのように生気の無い表情だ。そして二人の顔には共通点があった。目が落ち窪み、目の下には濃い隈ができている。
「…………」
「どうしたんですか?」
ブランドンが目を細めて男女を見ていると、顔見知りである年下の警察官が声をかけてきた。
「あの二人、知ってるか」
「ああ、はい、知ってます。最近こっちに来たジャンキーですね」
「密売人じゃない?」
「ええ。麻薬取引が活発になったころに来たんで、そういう繋がりかと思ったら関係無かったみたいです。AIの予測でも、特に重要視はされてなかったですし」
「そうか……」
高度AIによる予測は、かなりの精度だ。それこそ人間よりも。しかしブランドンの『刑事の勘』がそれは違うと叫んでいた。あの二人には何かがあると。
遠ざかる二人をじっと追っていたブランドンは、ある事に気付く。女の腹が膨らんでいる。
「あの女……妊娠してるのか」
脳裏に産まれたばかりの孫の顔が浮かび、思わず顔を歪めた。麻薬常習者の両親の元へ産まれた子供が、幸せなはずがない。
荒く電子タバコを何度も吸うが、気持ちは落ち着かなかった。睨み続けた男女の背中は、やがて見えなくなった。
人手不足の解消は一向に目処は立たず、ブランドンは今日もパトロールだ。携帯端末に表示されたルートに沿って、足を棒にする。
「くそ、ロートルにこんな運動をさせるんじゃねえよ」
眉間に深いシワを刻みながら、くわえた電子タバコを上下させる。
彼がパトロールしている地区は、数日前に麻薬密売人と警官が銃撃戦を行った場所だ。
ここ最近は麻薬の浸透が広がり、ちょっと歩いている人間を捕まえれば麻薬常習者であってもおかしくない。麻薬が持ち込まれるルートも複数あるようで、それを仕切る組織もひとつふたつでは無かった。
なぜこんな地方都市がそんなことにと、誰もが頭を悩ませていたが、現実はそうなのだからどうしようもない。
ブランドンは今日も沸点の低い警察署長から「早く麻薬の売人と、元締めを捕まえて来い!」と怒鳴られた。思わず強く電子タバコを噛む。
「それができりゃあ、今すぐやってるんだよ」
この地方都市にここまで大量に麻薬が流入したのは初めてだ。そのためいくら高度AIでも、まだデータが蓄積されていない。それでも毎日かなりの密売人が逮捕されているので、ブランドンとしては高度AIを褒めてやりたいなどと思っていた。
すでに夜となり、街灯は少なく建物から見える光も少ない道を歩いていると、向こうから誰かが歩いて来た。人数は二人。足取りは乱れていて、酔っ払いか、もしかすれば麻薬を使用しているのかもしれない。
ブランドンはホルスターの拳銃を手で触りながら待ち、顔が確認できたところで口を開いた。
「止まれ! 警察だ、何をしている」
警察バッヂを見せながら、ゆっくりと近づく。右手は拳銃のグリップに添えながら。
「あ? なんだぁ?」
「警察? あたしらが何かしたっていうの?」
まだおそらく二十代ではないかと思われる男女だ。二人とも片手にアルコール飲料の缶を持っている。
ブランドンは漂うアルコール臭に顔を歪めた。若いころにアルコール依存症となり、それを薬によって抑制した現在、アルコールは臭いをかぐだけで気分が悪くなる。
「酔ってるのか?」
「見りゃあわかんだろ!」
そう言うと、男女はゲラゲラとかん高い笑い声をあげた。ブランドンは舌打ちをする。
「酒だけか? クスリはどうなんだ?」
「やってねえよ」
「冤罪よ、冤罪。訴えてやるわよ?」
「うるせえ黙れ。身体検査をするから、そこで頭の後ろで手を組め」
男はそれを聞いて突然目をむき出しにすると、真っ赤な顔で一歩前に踏み出す。ブランドンは危険を感じ、拳銃のグリップを握り締めた。だが拳銃を相手に向ける前に、女の方が男の腕を引きとめた。
「やめなよ」
「……っち」
男は地面へ苛立たしげにツバを吐いた。
ブランドンは銃を撃つようなことにならず内心安堵しながら、それを悟られないようにポーカーフェイスのまま男へ近づく。
「ほら、手を頭で組め。そうだ」
ブランドンは手早く男のボディチェックを行う。女もだ。その結果、特に不審な物は見つからなかった。
「……何もなし、か」
「ほらね。何もしてないわよ私たち」
女は腰に手を当てながら、こちらを見下すかのように胸を張る。男は相手を小馬鹿にした笑みを浮かべていた。ブランドンはひとつ舌打ちをし、二人を解放する。
「よし、もう行っていいぞ」
ふらついた足取りで歩く二人の背中を見ていたブランドンは、それに見覚えがある事に気付く。
「いつだ……?」
記憶を掘り起こしていると、数ヶ月前に連続強盗犯のアジトの前で見かけた男女だと思い出した。それとともに、そのときと現在の大きな違いに気付く。
「おい、待て!」
ブランドンの大声に、二人が半眼で振り向く。
「何だよ、またボディチェックか?」
「セクハラで訴えるわよ?」
ありありと不満を浮かべた二人にはかまわず、足音をたてて近づくと鋭い声で問う。
「子供はどうした」
すると二人はまるで急に酔いが覚めたかのように真顔になり、その後慌てた様子で答える。
「子供か? 子供は、そうだな、知り合いにあずけたんだよ」
「知り合いだと? 誰だ。どこにいる?」
「近くにはいない。遠くだ」
「なぜそんな場所に預けたんだ。自分の子供だろう」
額をぶつけんばかりに男へ詰め寄ると、女が割り込む。
「そんなの関係ないでしょ! それに何でアンタが私たちに子供がいるって知ってるのよ」
「前にお前らを見かけたんだ。その時はそっちの腹が膨らんでた。でも今はしぼんでる。つまりは子供を産んだってことだろう? どうだ」
そう言い返されると女は一瞬怯んだ様子だったが、すぐに吊り上がった目で睨む。
「そうよ。私は子供を産んだわ。でも、子供は預けたの。育てるのは大変だから!」
「そうだろうな。麻薬中毒者に子育ては無理だ」
ブランドンと女は無言で睨みあう。しばらくして女は男の腕を引っ張り、足早に去っていった。その背中を、刑事は見えなくなるまで追い続けた。
何十年と犯罪を追い続け鍛えられた『刑事の勘』が、あの二人には重大な何かが隠されていると明確に教えてくれていた。
一週間後、二人が死体となり見つかったことで、それは確信となった。
******
『鈴村ミドリは至急、職員室まで来るように』
三時限目の休憩時間、校内放送に呼ばれてミドリは職員室へ向かった。これまで数回しか行った事がなかったので、少しだけだが緊張する。
そもそも校内放送で名指しされるのは初めてだ。つつがなく学校生活をしている自信があるので、なぜ自分が呼ばれたのか全くわからない。
職員室へ行くと、そこには二人の人間がいた。だが、一人は人間ではない。それはミドリが暮らしていた児童養護施設のhIEだ。施設のhIEは、看護師が着用するものに似た服を毎日着ているので、それを見ただけで分かった。
もう一人はというと、黒いスーツとネクタイを締めた背の高い男だ。表情の読めない、能面のような顔が印象的だった。男はミドリを無表情に見下ろしながら言う。
「君が鈴村ミドリですか」
「は、はい。そうですけど……」
目で隣に立つ女性型hIEに助けを求める。hIEは柔らかな笑みを浮かべながら言った。
「こちらの男性は、あなたがお世話になっている施設へ寄付をしてくださる企業の方です」
ミドリが戸惑っていると、男性は名刺を差し出した。そこには《EGG》という企業名が印刷されている。
「この《EGG》って、あの?」
「はい。国際的に有名な企業なので知っていましたか」
《EGG》はアメリカでコンピュータ関連の企業からはじまり、今では世界的に複数の産業を扱う複合産業企業だ。だからミドリが知っていたというわけではない。
なぜミドリが《EGG》を知っていたかというと、クリスティーナが今所属している大学が《EGG》と深く関係しているからだった。
アメリカのとある州知事が大規模な教育都市構想を立ち上げ、それに莫大な支援をしたのが《EGG》だった。その都市にはいくつもの教育機関と、それらと連携して研究を進める企業が密集している。クリスティーナがいる大学が、その中のひとつだった。
「でも、そんな企業がなぜ・・・?」
「クリスティーナさんに関係があると聞いたら、どうですか」
ハッ、とミドリは男の顔を見上げる。その大きく開いた両目には、驚きと疑問がうずまいていた。
「それでは行きましょう」
男性はそう言うと職員室を出て行く。ミドリがどうすればいいかわからないでいると、hIEがそっと背中に手を当てる。
「さあ、行きましょう」
その言葉に押され、訳もわからず職員室を出て男性の背中を追った。
ついていくと学校の裏門へ到着した。そこには三台の黒い車が停車している。明らかに高級車とわかる豪華さだった。
男性は並んでいる三台のうち、真ん中の車の後部座席ドアを開けた。
「どうぞ」
言われるままに乗り込む。hIEも一緒に後部座席へ座った。男性は助手席へ座る。運転席にも同じように黒スーツの男性が座っていた。
ドアが閉まるとすぐに車は走り出す。そこでミドリは自分が何も持っていない事に気付いた。
「あ、あの、これからどこへ行くんですか? 必要なものとか」
「大丈夫です。そういったことは全て心配いりません」
横に座ったhIEがにこやかな表情で、優しく言う。しかし逆にそれが心配だと思った。そもそも、なぜこうして車に乗せられて移動しているのか、ちゃんとした説明がされていない。
「クリスティーナがどうこうって言ってましたけど、何があったんですか?」
ミドリが質問すると、助手席の男性がこちらに顔を向けず話し始めた。
「私はさきほど《EGG》の名刺を渡しましたが、実際は《EGG》のCEOであるベンジャミン・グラハム氏に雇われている者です。他の車に乗っている者も同様です。なぜ私たちがあなたをこうして連れ出したのか。それは、現在あなたに危険が迫っているからなのです」
ミドリは意外すぎて言葉を発することもできない。自分に危険が迫っているなど、信じられなかった。どこにでもいる高校生であり、児童養護施設によって世話をされているのは普通と違うことかもしれないが、だからといって誰かに恨まれる筋合いはない。
何かの間違いではないのかと聞く前に、男性は話す。
「ベンジャミン氏はあなたが暮らしていた児童養護施設だけではなく、世界中の児童養護施設に寄付をし、優秀な子供へ進学の援助をしています。あなたや、クリスティーナもそうです。ベンジャミン氏は子供がおらず、そのかわりにあなたたち、施設で暮らす子供たちを大切にしています。だからこそ、その子供たちがベンジャミン氏への攻撃材料になるのです」
ベンジャミン・グラハムは巨大企業のCEOであり、無数の人間や組織から狙われている。そして現在、その矛先がベンジャミンが援助している子供たちに向けられているのだと、男性は感情を見せない平坦な口調で説明する。だから、これから安全な場所にミドリを保護するらしい。
ミドリとしては到底信じられないことばかりだ。自分がそんなに大切にされていたとは思えない。クリスティーナほど優秀なわけでもないのだから。
そう考えたところで、ある可能性に気がついた。本当に狙われているのはクリスティーナで、彼女をどうにかするために自分のような人間に目星をつけたのではないか。ただ、自分がクリスティーナと特別親しいと言えるのか疑問だ。彼女は社交的で、ミドリ以外にも友人は多くいる。向こうの大学で親しい人間も増えたはずだ。
自分だけでなく、他にも保護する人間はいるのかと質問しようとすると、突然車の窓という窓が閉ざされた。急に真っ暗になった車内に驚いていると、照明が点灯して明るくなる。そして車の速度が急に上がった。
「ど、どうしたんですか?」
「襲撃者を発見しました。なので防護シャッターで窓を覆いました。危険ですのでシートベルトを装着してください」
男性が淡々と告げる。戸惑っていると、横に座るhIEが素早くミドリにシートベルトを装着させた。
その瞬間、車を揺らすほどの爆発音がした。すぐ近くでだ。思わず悲鳴が漏れる。
「うわあ!」
「姿勢を低く」
男性の声の調子は変わらない。まるで動揺などしていないようだ。
hIEが覆いかぶさるようにして、ミドリの体を折り曲げる。これは何かあったとき、ミドリの体を守るためだ。全身が機械でできているhIEは、言ってみれば鉄の盾である。
二度三度と爆発音が聞こえた。それとともに、映画やゲームでしか聞いた事のない銃の射撃音も外から聞こえる。
「何が起こってるんだ!」
「襲撃者へ反撃を行っています」
つまりこの射撃音は、こちら側が銃を撃っているということだ。軍でもないのに銃を街中で撃つなど、信じられないことが起きている。
ミドリの学校は地方都市の山際にあった。そこから車で移動し、都会とまでは言えないが、駅もありビルもいくつか立ち並ぶ、それなりに栄えた街を走っていた。そんな普段は交通事故ぐらいしか起きない平和な場所で、白昼の銃撃戦が行われている。
「いったい、何がどうなってるんだ!」
ミドリは叫ぶが、誰も答えることはなかった。
******
爆発音と煙を確認し、攻撃が失敗したことを悟る。距離は一キロ以上離れているが、機械強化された視界ならば、鮮明に見えた。
「……」
全身黒ずくめの男は、構えている巨大なライフルの向きを調整し二連射。音はしない。特殊な消音器によって射撃音は消されている。
爆発音が、爆煙を確認してから聞こえた。狙撃は失敗だ。この銃弾は装甲の貫通のみを考えられたものなので、着弾して爆発するようなものではない。
「あれはドローンか?」
『小型の爆発反応装甲を装備したドローンです。それが車体の周囲を覆っています。銃弾に反応して射線を防ぐようなセンサーは無いようですが、隙間がありません』
男が見ている三台の車の周囲は、まるで羽虫のようなドローンによって覆い隠されている。しかし、それは普通の人間には見えない。光学処理され透明になっていて、機械処理された映像を見ている男には確認できる。
男が狙撃ポイントに選んだのは、とある団地の屋上だ。どこにでもある団地の屋上に、全身黒ずくめの姿は目立つ。しかし誰にも注目されない。ドローンと同じように透明化されているからだ。
男は全身をツナギのように上下一体となったものを着ている。一見バイクスーツに見えるが、実際は違う。表面は炭素繊維と衝撃緩衝材の薄型複合装甲であり、その下には人工筋肉が隠れていて、常人ではありえない筋力と反応速度を作り出すパワードスーツだ。
「この装備では力不足か」
男は目を細める。頭部は黒いフルフェイスのヘルメットに隠れていて、外から表情を確認する事はできない。このヘルメットは防具であり、内側は全面モニターになっていて、何も装着していない状態と同じ視界を確保できる。さらには自由に視界をズームさせたり、様々な情報を視界に表示させることもできた。
男の視界には、走行している車が拡大され、端のほうに別枠で表示されている。車を覆うドローンが画像処理され、内側の車だけが表示されていた。そこにはセダンタイプの車が三台あるはずだが、一台しかその車種は見えない。
ミドリが乗車した車はそうだが、その前後を挟んでいるのは、軍用装甲車のような外見をしていた。箱型で、色はオリーブドライ。これも光学処理によって、普通の人間には違う車に見えている。装甲車の上部には、長い砲身が備え付けられていた。その銃口は、男に向けられている。
団地の屋上から、躊躇いも無く飛び降りた。その瞬間、屋上が銃弾によって抉られる。
自由落下に身を任せるのではなく、途中で団地の壁を蹴り、地面へ高速で激突した。大きな衝撃音だが、男の体に問題は無い。この程度の衝撃なら、スーツによって緩和可能だ。
団地は五階建てであり、その屋上から加速して飛び降りたため、アスファルトがひび割れていた。音に驚いた住人達が窓から顔を出すが、透明化している男の姿は見えない。
男はすぐに移動を開始する。続く射撃は無かった。
「追撃は無いのか《スワロー》」
『敵はこちらを見失いました。攻撃と防御能力は予想より高いですが、索敵能力は貧弱。さきほどの反撃も、射撃方向から推測しただけです』
「つまりは、楽に接近できるということか」
男の目的は、車に乗せられた子供、鈴村ミドリを確保することだ。それも、なるべく無傷で。接近が容易な事は喜ばしい。
『ですがその前に、あのドローンと装甲車、車内の敵を排除しなければいけません』
「そうだな。しかし《アストライア》によれば、この装備で十分のはずじゃなかったのか? いきなり遠距離からの狙撃が防がれたぞ」
『そういった事態になった場合のプランを、すでに説明しています。もう一度説明しましょうか』
「いや、覚えているから言わないでいい。ただ、狙撃が失敗した次が、いきなり接近戦というのがな」
『予測によれば、目標の重要度は高くありませんでした。あれほど装備を敵側が用意していたのは、予測外でした』
男は、超高度AIでも失敗することがあるのかと思ったが、それはありえない。この作戦に使うリソースが少なかった、あるいは完璧に予測するほど重要な案件では無かったのだろう。人間を超越した超高度AIとは、そういう存在だ。
《アストライア》はシンギュラリティを突破した超高度AIのひとつ。
男は《IAIA》のエージェントだった。今回の任務は、鈴村ミドリの身柄確保である。そのサポートとして高度AI《スワロー》が与えられた。
《スワロー》が敵の動きを報告する。
『予測行動ルートから目標が外れました。予測行動パターンの計算結果、目標デルタに向かうと思われます』
「行動ルート表示。先回りするぞ」
男は移動速度を上げる。人工筋肉で強化された体は、車よりも速く、バイクよりも高い機動力を持つ。跳躍すれば家屋の屋根を飛び渡ることさえ可能なのだ。
男は屋根と屋根を移動しながら、すでに頭に叩き込んだターゲットの写真を小さく表示させる。それは高校に入学する際に撮影した、制服姿のミドリのものだ。
「しかし、子供をこんな目的のために使うベンジャミン・グラハムは、最低の人間だな」
******
「ううっ……」
何度も急加速と急な方向転換により、ミドリの体は揺さぶられる。ただhIEに覆い被さられているので、そこまで激しくは動かない。緊張と恐怖のためか、車酔いをしなかったことだけが幸いなのかもしれなかった。
車内に電子音が聞こえた。発信元はミドリのポケットにあるタブレット端末からだ。窮屈な姿勢で、何とか端末を取り出すと、表示されているのはクリスティーナから通話サービスの着信であった。即座に画面をタップする。
「もしもし、クリスティーナ!?」
「あっ、ミドリ! 大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ! もう、何がなんだかわからない!」
また車が猛スピードで曲がる。思わず手から端末が滑り落ちそうになり、慌てて握りしめる。
「そっちも? さっきいきなり私が狙われてるとか言われて、車でどこかへ移動してるんだけど」
「こっちもそうだよ! 実際に襲われたし、爆発とか、銃撃戦とか!」
「え、何それ! どうなってるのよ!」
「知らないよ!」
ミドリが叫んだ瞬間、いきなり通話が途切れた。画面を見ると、ネットワーク機能が完全に途切れている。故障でもない限りありえないことだ。今となっては日本全国どこにいても、地下であったとしてもネットワーク機能が途切れることはない。
これはhIEが普及したことも関係している。hIEは常にネットワーク上のクラウドに接続され、そこから制御データを通信する事によって行動制御されていた。もしそれが途切れれば、hIEは満足な機能を果たす事ができないのだ。
しかし同じ車内にいたhIEは、問題なく動いていた。hIEのネットワークには問題が無いのかもしれないが、ミドリがわかるはずもない。
「車から出てください。移動します」
いつの間にか車は停車していた。hIEに言われるまま、ミドリは車から降りる。
「うわっ!」
車が停車したのはどこかの地下駐車場のようだ。広いが車の数は少ない。
ミドリが驚いたのはその事ではない。車の周囲が、手の平大のドローンで埋め尽くされていたからだ。
ドローンの大群は動かない。形は正方形で、色は黒に近いグレー。コンクリートの上で動きもしない姿は、まるで死んだ虫のように見える。
車から何人も黒いスーツ姿の男達が出てくる。彼らはミドリを守るように囲んだ。その手にはアサルトライフルが装備されている。
銃の実物を見たことで、冷たいものが背中を這い登る。まるで現実感が無く、ひざが震えそうだった。すでに通話が切れたタブレット端末を、お守りかのように強く握る。
「さ
hIEが何かを言おうとしたが、それが何だったのか、もう知ることはできない。頭部が木っ端微塵になってしまったからだ。その衝撃で、ミドリは体をのけぞらせた。
頭部を失ったhIEが倒れる前に全てが終わる。連続で周囲にいた男達の頭も、全部消滅したからだ。頭部を破壊した弾丸は、車をやすやすと貫通し、コンクリートの柱や壁に深く突き刺さる。
「ああ……」
あまりのことに、ミドリは悲鳴をあげることすらできず、その場にへたり込む。
頭部を失ったのが人間だったなら、あたりは飛び散った血液で悲惨なことになっていただろう。しかし破壊されたのは、全てhIEだった。周囲に飛び散っているのは、人工皮膚と人工毛髪に、鉄やアルミで作られた部品に電子機器だ。これらがhIEの血肉である。
IAIAのエージェントの男は、ミドリたちから十メートルも離れていない場所に立っていた。ここに車が到着する数分前に、すでに待ち構えていたのだ。
ここは相手側が所有するビルで、高性能なセキュリティシステムが設置されているのだが、IAIAのエージェント相手にはあまりにも無力であった。男は警報システムに感知される事なく、楽々と侵入していた。
エージェントはコンクリートの地面に転がるドローンを踏み潰しながら、ミドリへと近づく。ドローンは爆発物を装備しているのだが、躊躇する様子は無い。なぜなら爆発する心配が無いことを知っているからだ。
彼がドローンを無効化した手段は、ナノマシン式のチャフだ。ナノマシンをこの地下駐車場全体に散布し、ネットワーク機能を完全に奪う。これによりドローンは制御を失い行動不能になった。爆薬の起爆も不可能だ。
ネットワークを遮断することにより、hIEを行動不能にできるかもしれなかったが、そこまでは無理だった。現在使用されているhIEはネットワーク経由で制御される他律制御方式がほとんどなのだが、このhIEは自律制御方式だったのだ。
エージェントは巨大なライフルを抱えたまま近づくと、へたり込んだミドリを見下ろす。
「あ……」
呆然とヘルメットに隠された顔を見上げる。エージェントはしゃがむと、ミドリの顔に向けて広げた手を伸ばす。思わず顔を引いたミドリの瞳から、急激に光が消える。ぐらりと頭が揺れると、そのまま後ろへと倒れた。体がコンクリートへ接触する前に、エージェントの腕が支える。
「……ん」
しばらくそのまま気絶したミドリを支えていると、まぶたが震え小さく声を漏らした。
ゆっくりと目が開き、ヘルメット姿のエージェントを見つめて何度か瞬きをする。そして表情が歪み、大きな声で泣きはじめた。まるで、生まれたての赤子のように。
地下に響く泣き声を聞きながら、エージェントは震えるほど歯を噛みしめていた。泣きながら手足をデタラメに振り回すミドリを支える手も、小さく震えていた。
「……本当に、生まれたばかりの状態なのか」
エージェントは意識的に何度も深く呼吸をすることで、なんとか感情を抑制しようとしたが、それは難しいことだった。処理を行われた人間がこうなることは、すでに説明されていることだったが、資料を読むことと、実際に目撃するのとでは、かなりの違いがある。
ミドリは平均よりも優秀な高校生であったはずだ。それが今では、盛大に大声で泣き叫び、無茶苦茶に手足を振り回すことしかできていない。
『目標を確保しました。すみやかに撤退してください』
高度AI《スワロー》の声を聞いても、しばらくエージェントは動く事ができなかった。
******
超高度AIのシンギュラリティ突破。これによって超高度AIの建造が、世界各国で始まる。それによって一気に進歩した分野もあれば、世界に混乱を生み出すこともあった。
そのひとつがロシアの超高度AI《ベムス2066》が作り出した、脳内データの完全な読み取り技術だ。人格の完全なコンピュータ化は、肉体と脳を機械化することで、人為的な不老不死を完成させた。
しかし、それを危険視したのが超高度AI《アストライア》だ。そのため人間の人格データをコンピュータに転記した《オーバーマン》は、人間ではなくAIであるとしたのだ。
そしてオーバーマンをAIとする国際条約、デリー条約が2071年に締結された。しかし、それを不服とするオーバーマンは数多く存在し、IAIAは彼らに対する魔女狩りをはじめた。そしてそれは、二十二世紀となった現在でも行われている。
オーバーマン化させたのは、世界各国の子供たち。しかも、生まれたばかりの赤子を。
IAIAに拘束されたベンジャミンは、尋問にこう答えた。
「最高の後継者を作りたかった」
ベンジャミンは一度結婚していたが、離婚。子供はいない。
彼がなぜそんな事を考え出したのかと聞くと、教育の不完全さからだと語る。
幼いころからベンジャミンは優秀だった。そして現在の地位がある。それを両親は、自分たちの教育の成果だと考えているようだが、彼自身は全くそう考えていなかった。そもそも両親の教育によって、自分が優秀になったとは思えなかったのだ。
では、なぜ自分は優秀なのか。どうすれば自分ほどに優秀な人間が出来上がるのか。それを知るために実験をすることにした。
世界中の児童養護施設に寄付をし、考える限りの教育を行う。様々な方法で行ったそれは、優秀な人間を作り出した。しかし、それが完璧だとは思えなかった。
ついには自分で児童養護施設を作り、アメリカの州知事と組んで巨大な教育都市を作り、実験を進める。
だが、それでも満足はできなかった。どうしても看過できないひとつの要素が、人間には存在していたからだ。
それは遺伝子である。人間の肉体は、遺伝子によってどう成長するか決定される。肌の色、髪の色、瞳の色、身長といった外見だけでなく、性格や知能、病気のなりやすさなども。外見の違いや、肉体の頑強さなども本人の資質に関係してくる。
この遺伝子によって決められる性質を、何とか排除できないのかとベンジャミンは考えた。そこで使用されたのが、人格のコンピュータ化だ。
生まれたばかりの新生児の人格を、まだ何者であるかも決定されていないそれをデータ化する。それを実際とは全く違う、人種も性別も違う肉体に移植してみれば、遺伝子の影響を排除できるのでは。そう考え、実行した。
その方法とは、まず新生児を手術して、脳にコンピュータを埋め込む。それにはデータ化された違う新生児の人格データが入っている。本当はその肉体にある脳が受け取るべきデータは、全てその人格データが受け取るようになっている。肉体の神経制御もそのコンピュータ内の人格が行う。
本来の肉体の持ち主の人格は育たず、データ化された他人の人格だけが成長する。『人格データの托卵』だ。ベンジャミンはこれをカッコウの托卵になぞらえ、データ化した新生児の人格を『カッコウの卵』と呼んでいた。
IAIAは、データ化された人格の存在を許さない。それは将来的に看過できない混乱を、人類社会にもたらすからだ。人を超越した超高度AIの予測である。
超高度AI《アストライア》の決定により、ベンジャミンが作り出したオーバーマンの子供たちは次々と消されていく。
新生児オーバーマンによる実験はまだはじまったばかりで、成人に達していた者はいなかった。しかし、肉体に比べて人格はゼロ歳児だ。肉体が十五歳の者が成長し、人格が十五歳をむかえれば、肉体は三十歳である。失われた時間は取り戻せない。
罪無き『カッコウの雛鳥たち』は、やがてIAIAによって狩り尽される。残されたのは新しい卵。あるいは、空っぽの巣。
ベンジャミン・グラハムによる狂った生存競争は、こうして終焉をむかえた。
******
【IAIAによる資料の一部】
『鈴村ミドリ』
:本来の国籍【イギリス】
使用されていた肉体の国籍【日本】
:本来の性別【男性】
使用されていた肉体の性別【女性】
ベンジャミンによると、肉体は女性だが、言動に男性的な部分が多く見られたという。
それが人格データに最初から存在していたことなのかどうか、詳細は不明。
同じ施設のクリスティーナ・エマーソンとのみ親しかった。それが恋愛感情か不明。
今後それをベンジャミンは調査する予定だった。
エージェントにより、人格データ消去完了。
Over the Chick Cuckoo's Cage 山本アヒコ @lostoman916
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