思わず唸ってしまった。こういう良質な短編ホラーに出逢いたかった。不精せず根気よく探してみるものである。全体の雰囲気もさることながら、文体から怪しく艶やかな臭いが立ち込めている。クトゥルフについて明るくないが、十分楽しめる。
大気に溶け込む水気が、露になり、肌にまとわりつくように染みていく恐怖。 自分が一体何者なのか。自分が一体何をしたのか。分からないままに進んでいく日常の、人格の崩壊。 あまりにも冒涜的で、あまりにも邪悪で、あまりにも醜悪な結末。 だがしかし、被害者たる彼の慟哭はこの世界の誰の耳にも届くことはないのである。
この小説は主人公・河津の不幸な一幕を描いています。詳しいことを書きすぎるとネタバレになるのでここでは技術的なことを書きたいと思います。情景描写はすばらしいものがありました。ホラーならではのねっとりとした怖さがにじみ出ています。会話文は少なめで地の文が湿った怖さを醸し出しています。短編小説なのですぐに読めます。空いた時間に読んでみてはいかがでしょうか。次回作にも期待しています!