第15話 撤退

 

     ~カーシーの焦り その2~

 

 コーカス村を見下ろす事の出来る丘に、立てったり座ったりを繰り返す人物がそこにいた。その人物こそ、この国の第二王子 カーシー・ドミニク・スタンリーその人である。


 「あのアルトとか申す者を、まだ始末できんのか?」


 小さいテーブルに、お茶を用意する執事アモス。


 「はい、まだネイル隊長からは何の報告も来ておりません」


 「ネイルは役に立たんな。あんな小僧1人も始末できんとは! 高い買い物だったか? ネイルを引き抜く為に一体いくらかかったか知っておるか、アモス?」


 「はい、存知ております。しかし今回は敵のアルトと申す者を褒めるべきかと。ほぼ1人であの村を守っておる様子」


 「敵を褒めてどうする。しかし、アイツをなんとかせねば俺の計画にホコロビが出来てしまう。始末はカロン殿に任すにしても、何とか奴の動きを封じたい。それが出来ないとまた失敗だぞ」


 話の途中で1人の兵が現れ、カーシーに報告をする。


 「申し上げます! 只今アルトなる人物を撃退に成功。その際弓矢にて怪我を負わせたもよう」


 先程まで沈んだ顔のカーシーが、笑顔に変わる。


 「何? それは本当か!」


 「はい、矢は全部で2本刺さっております。1本は右太腿を貫通。もう1本は心臓に近い腹部に刺さっております」


 「でかした! ならば全軍をもって攻めたてよ!!」


 「恐れながら、こちらの被害も甚大でござりますれば攻撃は難しいかと」


 「どう言う事だ?」


 「はい、怪我人の数が多くその手当てに多くの兵が割(さ)かれております」


 「内訳を言ってみろ!」


 「はい、死亡者350名。重傷者750名。軽傷者300名。重傷者の大半は手、もしくは足を無くしたもようです。その為、看病に400人程の兵が前線には出られません」


 「何だと!! 実質1000人強しか動けんのか! 折角のチャンスなのに!」


 「やられましたな、カーシー様!」


 「どう言う事だ、アモス?」


 「敵は、いえ敵と言うよりはアルトと名乗るあの人物。こちらの兵を削る為に、あえて殺さずに負傷者を増やしたのでしょう。中々の策士ですな。しかもそれをやってのけるだけの技量を持っておるようで。なかなか一筋縄ではいかない様子。今後、我々にとって厄介な敵になりそうですな」


 「バカ兄貴だけでも手こずっておるのに……待ってよ。ならばバカ兄貴をアルトに当たらせる事も可能か」


 「そうですな。上手くいけばお互いが疲弊します。その残った方をカーシー様がとどめを刺すと。漁夫の利を得る事も可能かと!」


 「そうだな、800人も籠もる要塞に1000人の兵では無理があるな」


 「はい、城攻めは3倍の兵が必要でございます」


 カーシーは懐中時計を見ると、もうすぐ4時になろうとしていた。


 「作戦変更だ。一度戻り作戦を練り直す。撤退の用意をしろ!」


 「はっ!!」


 ついにカーシー軍は撤退の準備に取り掛かる。






     ~ミアの不安~


 ミアはアギトを1人残してきた事に、何か言い知れぬ不安を抱いていた。第六感ともいうべき何かだ。遂にミアは踵(きびす)を帰す。


 「ゴメン、姉さん、リリー。ボクやっぱりアギトの傍にいるよ」


 「ミアどうしたの? 昨日からやけにアギト君にご執心ね、好きになったの?」


 リリーナ。


 「エッ! ほ、本当ですかミアさん?」


 「いゃ、その何だ。まぁ、イイじゃないか! それより、さっきから凄く嫌な感じがするんだ。分からないけど、変な胸騒ぎがするんだ!」


 「分かったわ。アナタがそこまで言うなら、きっと何かあるわね。こういう時の勘って、悪い意味で当たるから。いいわ、ミアは戻って。何もなければそれが一番よ」


 「ゴメンよ、姉さん、リリー」


 松明(たいまつ)で照らされた道を急いで戻るミア。


 「直ぐ戻るからな、アギト!」






     ~紅い瞳の女 その1~


 その頃アギトは疲労と養生の為、ミアのベットで睡眠を取っていた。微かに玄関のドアが開く音がする。アギトは夢と現実の狭間の中でその音を聴いた。


 ミアが忘れ物を取りに帰ってきたのか? 音を出さないのは俺を起こさない為の心遣いか? 


 そんな事を思いながらアギトは夢の住人に戻っていく。いつの間にかアギトの枕元に一人の人物が立っていた。身長は165㎝ぐらい。しなやかな身体を黒いレオタードのような服で覆っている。顔も黒い布で覆っている為、その様子を窺い知る事は出来ない。



 謎の人物。


 「コーカス村の様子を視にくれば何なんだコイツは! この男の動き、剣技は? 本当の名はアギトか。この世界では珍しい名前だな。異世界人なのか? 


 あのカーシーがここまで手こずるとはな。第一王子のクラークはいいが、あのお方の邪魔だけはさせん! 今後大きな災いになるやもしれぬ、弱っている今がチャンスだ。悪いがここで退場してもらおう!」


 明確な殺意。それにより夢の中から強引に引き戻されるアギトの意識。ダガーでアギトの喉を狙うが、寸前のところでかわすアギト。


 「誰だ、お前! お、女か?」


 「……」


 「言葉を発しないのは、声を覚えられたくないからか? しかし、お前のその燃えるような紅い瞳は覚えた。雇い主はカーシーか?」


 「……」


 何の反応もないな、ならば。

 「クラークか?」


 「……」


 もう一度仕掛けて見るか。


 アギトはここである人物の名を出す。


 「ラルス皇帝か?」


 アギトを睨みつける瞳が微かに揺れる。


 ビンゴ!

 「そうか、クラーク第一王子を飛び越え、ザイン帝国の若き皇帝 ラルス・ゲルタ・ザイン皇帝か。俺はまだ無名の筈だが、どうして俺を消そうとする? お前の独断か? 将来敵になるかもしれないから先に消しておくつもりか?」


 「……」


 「返事がないと言う事は、肯定と思っていいな?」


 その瞬間、女はダガーをもう一本取り出し両手に持つと、逆手持ちに持ち変える。態勢を低くしアギトに襲いかかる。アギトの身体はまだ本来の力を出せない。しかも国切丸は女の背後にある。アギトは女の両手首を掴むと投げる為に体を捻るが、態勢を崩しダガーの鋭い剣先が僅かに腹部を刺す。


 「くっ!」


 アギトは思わず声を漏らす。






     ~ミアの想い~


 急いで帰って来たミアは大きく肩で息をしていた。


 「やっと帰ってきた。何だ? 2階が騒がしいな。アギトの奴あれほど寝てろと言ったのに、仕方がないな!…いや違う、これは争っている音だ! 誰が? まさか!!」


 ミアは急いで2階にある自分の部屋に戻る。そこにはアギトと何者かが争っている様子が見てとれた。


 「誰だ、お前は? カーシーの手の者か?」


 言うが早いかミアの三節棍がアギトと曲者(くせもの)の間に滑り込む。


 「ア、アギト大丈夫か? 刺されたのか、アイツに! また血が出てるじゃないか? よくもアギトを刺したな! 許さない!!」


 ミアの三節棍が棍棒に変わり敵の首を捉える。しかもその先端には刃が付いている。どうやら片方の俸には刃物が仕込まれているようだ。形勢が逆転する。女はその刃先をかわすと、そのまま窓を突き破り逃亡をはかる。紅い瞳の女は松明の灯りを避けながら闇に消えていった。


 「追うか? いやまずアギトの治療が先だ」


 アギトの傷ついた腹部に回復魔法をかけるミア。僅かな傷のためミアの回復魔法だけでも十分だった。


 「アギトごめん、1人にして」


 「よく戻って来てくれたな、ミア! 助かった」


 「う、うん、何か嫌な感じがしたから」


 「そうか、ありがとな、ミア。借りができたな」


 「そんな事はどうでもいい。それより他の処は刺されてないか?」


 「あぁ、大丈夫だ」


 「そうか、良かった。くそ、カーシーめ!」


 「いや、あの女はどうやらザイン帝国のラルス皇帝の手の者みたいだ?」


 「? 何で、ここでザインが出てくるんだ?」


 「俺の推測だが、カーシーの動向を探ってたら、俺が大暴れした。そこでさっきの女は、スタンリー王国にザインが出張った時、俺が厄介な敵になると思った。だから、弱っている今なら殺れると思ったんだろうな。さっきの行動はあの女の独断だろう」


 「そうか、分かった。でも考えるのは後だ。今は少しでも眠って、身体を休めて。部屋の中が滅茶苦茶で寝れないかもしれないけど、ボクが護衛をするから…あと、膝枕もしてあげるから」


 慌てるアギト。


 「いや、それはマズイだろう!」


 「今ので、枕もボロボロだ。いいから早くしろって、怪我人なんだから!」


 「いや、もう怪我は治ったって!」


 「いいや、アギトは怪我人だ!」


 ミアはベットのマットを床に敷きなおす。遠慮するアギトを強引に寝かせると、膝枕をするミア。

ミアはいつものホットパンツだ。


 き、緊張する。

 アギトは恥ずかしいので起き上がろうとする。


 「もう、だい……」


 「ダ・メ・ダ! いいから、寝ろ!」


 「しかし」


 「ア・ギ・ト!」


 「はい!」

 やたらとミアが優しいな。何でだ? ミアの生足か……何だか落ち着くな。


 アギトはそんな事を考えながら再びまどろむ。


 アギトが眠るのを確認するミア。

 何でボクはこんなにアギトの事が気になるんだ? 最初にアギトを見た時、信用出来なかった。どうでもいい男性だった。それが、何故…そうだ昨日のあの言葉だ。ボク、姉さん、リリー、ボク達3人をアギトが包み込んだ時の言葉だ!


 『お前達の盾となり矛となる。あいつらの汚い手を、お前達に指1本触れさせない』


 あの言葉でやられたんだ。ボクは今まで男の人を好きになった事なんてなかった。けど彼なら、アギトなら信頼できる。こんなにボロボロになりながら、まだボク達の為に立ち上がろうとしている。

 ここまでされたら、たいていの女性はまいってしまう。いや、女性だけじゃないはずだ。男性も同じはず。何でここまでボク達の為に……何で。



 ミアは気が付くと、アギトの顔に自分の顔を近づけていた。


 「アギト」


 ポニーテールの先がアギトの顔にかからないように、心を配りながら静かに唇を重ねるミア。


 口づけは触るか触ない程度のものだった。それはミアにとって生まれて初めての口づけだった。






     ~紅い瞳の女 その2~


 女は独り言を吐きながら闇の中を駆ける。


 「もう少しの処で邪魔が入った。今回の失敗は高くつくかもしれんな。あの女は確かミアとか言ったな。今度会ったときは覚悟しておけ! 

 しかし、アギトと名乗る人物はいったい何者だ! あの洞察力! 黙秘を貫いたのに全て言い当ててしまった。あの男の恐ろしいところは、身体能力や剣技だけでなく、実はあの頭なのかも知れんな」


 壁の近くまで来ると、女は口に手を当て鳥の鳴き声をする。


 「ホゥー、ホゥー、ホゥー!」


 すると壁の外から別の女性の声がする。


 「アニヤ様ご無事で! 現在こちらには誰もおりません」


 「分かった、今から壁の外に出る。引き続き見張りを怠るな!」


 「かしこまりました」



 アニヤと名乗る女性は、あらかじめ隠して置いたロープを持ち出すと壁の上に投げ掛ける。ロープの先には先の曲がった金属製のフックが取り付けてある。壁にフックが掛かるのを確認するとそのままよじ登る。登り切るとフックを外し、堀の外にいる女性に投げる。


 アニヤは堀の水の中に身を投じると、泳いで村の外に出る。配下の女がタオルを渡す。顔に撒いた黒い布を取ると銀髪のセミロングに紅い瞳が現れた。少し釣り目の美人だ。

 アニヤは渡されたタオルで身体を拭くと、配下の女に声をかける。



 「ひとまずコーカス村から離脱する。着替えを積んだ荷車で服を着替えたらそのまま待機。この村の結果を確認しだい二手に分かれる。お前は帝国におられるラルス陛下にこの村の現状を報告。私は第一バカ王子に報告をする」


 「かしこまりました」


 「もうすぐ夜明けがくる。カーシー軍の負けが確定だな…アギトか、厄介な奴が現れたな」




     AM5:30


 寄合所で怪我人の介護をするジーナとリリー。


 「ミアさん、帰ってきませんね」


 「何かあったのか、ないのか分からないわね。それより、なんか外が騒がしくなってきたみたいね。まさか、また攻撃?」


 ジーナとリリーナは2人して外の様子を見に壁の足場に向かおうとする。そこにミアとアギトが現れた。アギトは槍を杖代わりにして身体を支えていた。アギトはリリーナを見つけると直ぐに謝る。


 「リリーすまない。起きて来てしまったが、一ヶ月の無視は勘弁してくれ。地味にダメージが心に残るから」


 「まぁ、いいでしょう。キチンと寝てたみたいですし」


 「姉さん、その件に関してなんだけど」


 ミアは先程の事をジーナとリリーナに報告をする。


 リリーナ。


 「兄様、大丈夫なんですか?」


 「軽傷だったから、ミアの回復魔法で治った。しかしミアが来てくれなかったら、危なかった。ミア本当にありがとうな」


 照れるミア。

 ジーナはそんなミアを観察する。

 (この子アギト君に何かしたわね? いったい、何をしたのかしら? まあいいわ、この件はあと回しね)


 一旦思考を元に戻し、アギトのいる方向に向きを変えるとアギトに話かけるジーナ。


 「けどここにきて第1王子を飛び越え、その背後の帝国が直接出てくるとはね!」


 「ジーナさん、そう悲観する事はない。帝国はまだ当分は動かないはずだ。多分第一王子を使って様子を見るんじゃないかな? それよりもこの騒ぎは何だ? カーシー軍が動き出したのか?」


 突然、鐘の音が村中に鳴り響く。櫓で警戒に当たっていた村人が叫ぶ。


 「カーシー軍が撤退を始めたぞ!!」


 アギトは近くの足場に駆け寄ると、壁の外を見る。そこには多くの怪我人を連れたカーシーの私設軍が撤退を始めていた。撤退中の軍とは別に、こちらの様子をうかがう3人の人物がいる。目を強化すると、今度はハッキリと見える。カロン、バディ、カーシーだ。


 カーシー達もアギトの存在に気が付いたようだ。


 ん? アモスがいない。

 アモスを探そうと周辺を探ろうとした時、カーシーが大きな声でアギトに話しかけてきた。

 

 「アルト、今回の活躍褒めてやる。だが、次回はないぞ! しかし、もし気が変わったなら俺の所まで来い。部下にしてやる」



 アギトは持っていた槍を渾身の力を込めてカーシーに投擲(とうてき)する。距離は約300m。そのまま一直線にカーシーの顔めがけて飛んで行く。カロンが一歩前に出て飛んでくる槍をレイピアで叩き落とす。

 だが、槍の勢いが強く軌道を逸らすだけに終わる。後ろにいた馬の胸に突き刺さり、いななく暇さえ与えられずに死んでしまった。


 アモスは痺れた右手で思わずつぶやく。


 「なんという剛腕! この距離を勢い落とさずに投げてくるとは!」


 カーシーは冷や汗をにじませながらカロンに礼を言う。


 「カ、カロン殿、助かった!」



 アギトは大きな声でカーシーに返事をする。


 「カーシーそれが俺の答えだ! 俺は逃げも隠れもしない!! いつでも相手になってやる! それとカロンお前もだ! いつでも来い!」


 1歩前に出て声を張り上げるカーシー。


 「調子に乗るなよ、アルト! いずれお前を葬(ほうむ)ってやる! そして、リリーナ、ジーナ、ミアもいただく! 楽しみに待っていろ、アルト!!」


 アギトは無理をしたせいで、足場に膝を着く。すると、ミアとジーナが現れ俺の両脇を支える。


 リリーナが顔を出し、声を張り上げる。


 「私は、いえ、私達は貴方の所に行くつもりはありません! 今度来た時は貴方を許しません!!」


 ミア。


 「ボクも同じだ。ボク達にはアギトがいるから、何度来ても同じだ!!」


 「そうよ、女性を招待したいのなら、もっと紳士らしくしなさい! こんなやり方だと一生独身よ! 男前さん!」


 皆、言う事がキツイな。


 すると突然アモスがアギト達の近くの壁に現れた。


 コイツこんな近くにいたのか、俺に気取られずにこれほど接近するとは。 


 アモスがアギトに質問を投げ掛けてきた。


 「もう貴方達と争うつもりはございません! そう警戒されますな」


 「さっきまで殺し合いをしてたんだ。警戒するなと言う方が無理な話だ」


 「ごもっとも! ただ多少質問があるだけでございます」


 「答えれるもんなら、答えよう}


 「ありがとうございます」


 「まず一つ。アルト殿の本当の名前はアギト殿でよろしいですかな? 先程ミア様が『アギト』と申しておりましたが?」


 ミアはしまったと言う顔をするが、アギトは彼女の肩を軽く叩く。


 「そうだ、俺の本当の名前は、アギト。龍宮アギトだ!」


 「この世界の人ではないですな? その髪、その名前」


 「あぁ、俺は異世界人だ! そして俺は龍宮アギトであり、アルト・ブーリンでもある」


 首をかしげるアモス。


 「どう言う事ですかな?」


 「そこまで教えるつもりはない」


 「そうですか? それともう一つ。貴方様の戦闘能力は生まれつきのものですかな?」


 「それに関しても返答は控えさせてもらう」


 「それでは最後にもう一つ。間に合わなかったとは言え、あの門の破壊をどうしてお分かりになりました?」


 これにはリリーナ、ジーナ、ミアが一様に食いつく。


 「その事か。お前達が来た夜、お前達は徒歩で来て、馬車で帰ったからだ」


 「それで、何で分かるんだアギト?」


 お前が質問をするなミア。

 アギトは自分の推理を話す。


 アモス。


 「な、なんとたったそれだけの事で、そこまで考えが及ぶとは! 貴方の本当の恐ろしさは戦闘能力ではなく、そのずばぬけた頭の回転の良さですな……我々はとんでもない人物を敵に回したようですな。

 ただ残念な事に、貴方には人と運がない。我々は貴方のない物をもっている。そこが勝利の分かれ道ですかな」


 「そうかもな。しかし、俺には3人の女神が付いている。彼女達を手放さなければ、お前達には負けない!」


 アギトはリリーナ、ミア、ジーナの3人を引き寄せる。


 「男性は美しい女性がいれば頑張れるもの。しかも、その美女が3人いれば確かにそうでしょうな。ですが、貴方の言った通り私達との勝負、負けはしなくても、勝つ事もない。それは実質負けではないのですかな?」


 「価値観の違いだ。俺の考えでは今回のように負けなければ、勝ちなんだ」


 「そうでございますか」


 「アンタとは馬が合いそうだ。だが、出会った時期と場所が悪かったみたいだな」


 「そのようですな。残念ですが」


 「あぁ、残念だ」


 「では今回はこれにて、帰らせてもらいます。次回会う事があればその時はお手柔らかに」


 「こちらこそ、お手柔らかに頼む」


 「珍しく意見が合いましたな! わははははは!」


 「そうだ、これは俺からの餞別だ! ザイン帝国が動きだしたようだ。今朝俺の寝首を狩りに女が来た。かなり腕の立つ殺し屋だった。顔は布で覆っていたため分からなかったが、燃えるような紅い瞳をした女だ。中々良い身体つきだったぞ!」


 アギトの言葉に何故か反応する3人の女神達。


 「せいぜい寝首を掛かれないように、お前さん達も気をつける事だな!」


 「それは良い情報をありがとうございます。なればこれは、私からの返礼でございます。最近、第1王子のクラーク様のところに、紅い瞳をした銀髪の美女がメイドとして雇われました。


 名前はアニヤ・バーデン。歳は25才らしいですが、偽りでしょうな。ちなみに生まれはザイン帝国だと聞いております。本業はアサシンと言う噂、参考になりましたかな?」


 「あぁ、かなり参考になったよ。ありがとう」


 「それは、ようございました。ではこれにて失礼」


 「今度会える日を楽しみにしているよ」



 アモスは振り返らずに馬にまたがると、そのままカーシー達が待つ場所に向かう。




 アギト達の長い夜が明けようとしていた。

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