第11話 もう一つの時間

    ~カーシーの視点~


    AM6:00


 馬車に揺られながらアモスがカーシーに話かける。


 「カーシー様、正体を明かしてもよろしかったので?」


 「かまわん。どうせ向こうも俺の正体を分かってるだろう。これが分からんようではバカ兄貴と同じよ。もしそうなら今後の計画もやりやすいがな」


 「そうでございますな。で、例の作戦は予定通りでよろしいですか?」


 「あぁ、予定通りだ」


 「それでは、途中ネイル隊長の部隊と合流し、ここから3キロ先の山中で朝食といたしましょう」


 カロンとバディの方に顔を向けるカーシー。


 「それで良いか、カロン殿とバディ殿?」


 カロン。


 「お気遣いありがとうございます。ですが我々への気遣いは無用」


 「はははは、固いな2人とも、まあ良い。ではアモスそのようにいたせ」


 「かしこまりました」


 その後ネイル率いる小部隊と合流を済ませたカーシー達は、そのまま移動し山中の少し開けた所で食事をとる。ネイルの部隊は移動する前に既に食事を済ませていた。


 ネイル隊長。彼は元スタンリー王国の軍に在籍していた。現在はその腕を買われカーシーと共に行動をする。容姿は180㎝弱。目は青く、髪は金髪のスポーツ刈り。彼の目には野心が潜んでいた。



     AM8:30


 カーシーは木と木の間にぶら下げたハンモックに揺られながら森林浴を楽しんでいた。


 リリーナ…妹とはいえ美人だったな。しかし、あの身体の何処に秘密があるというのだ。そもそも、リリーナ自身その秘密を知っているのか? 知っているなら動きがあるはずだが。


 だがリリーナも言っていた通り親父の娘と知ったのはここ2~3日の事だ。秘密を知らない可能性もあるな。ならば仕方がない、俺が直々にリリーナの身体を調べるとするか! ついでに、あのジーナとミアもまとめて俺のモノにしてやる!


 「はははは……!」


 「どうかされましたか、カーシー様?」


 「アモスか。いやな、夜の事を思うとつい笑いがこみ上げてきてな」


 「その事でございますか。それは私も同じでございます。カーシー様がいよいよこの国の王となる記念すべき第一歩。待ち遠しですな」


 「そうか、お前もか」


 「はい」


 カーシー。


 「ははははは!」


 そんなカーシーに微笑むアモス。



     PM12:00


 カーシーはアモスとカロンとバディの4人で昼食をとる。カーシーはサンドイッチを頬張りながらバディに声をかける。


 「バディ殿はあまり喋らないな、どうしてだ?」


 カロンが代わりに答える。


 「この者は高貴な方の前では緊張して喋れなくなるのです。どうかお許を」


 「あい分かった。しかし、そろそろ慣れてもよい頃だがな。そう思わぬか、カロン殿?」


 「こちらに来てまだ1ヶ月。慣れるのに時間がかかります」


 「まぁ、よい。2人には今回の件、そして我がバカ兄貴の時にも活躍してもらわなくてはならん。一緒にいる時間もまだまだある。そのうち慣れるであろう」


 「はい、それまでお待ちを」


 「うむ」


 食事をすました後、4人は2組に別れた。バディはカーシーとアモスのいないのを確認するとカロンに詰め寄った。


 「お師様、何で私を庇ったのです?」


 「お前があのまま喋らなければカーシー様の機嫌を損ねる。さすれば本国におわすアンジェ国王様のお耳にも聞こえよう。そうなると我々の立場も苦しくなる。

 せっかく苦労して掴んだ近衛長の地位を手放すわけにはいかん。ならばお前も、もう少し媚を売る事を覚えよ。やっと裏の仕事から抜け出し、アンジェ国王様の近衛長の職に就いたのだから」


 「嫌でございます。あのカーシーという男はいつも私の身体を舐め回すように見ております。王子でなければ刺し殺しております。殺されないだけでも良しと思っていただけませんか?」


 「分かった、もう何も言うな。私の方で何とかごまかす。その代わり王子には絶対に手を出すなよ。分かったな?」


 「……はい。話は変わりますが、お師様はあのアルトとか申す男と戦って勝てるのですか? 失礼ながら我が恩師とはいえあの者に勝てるとは思えません」


 「ハッキリ言うな。そこがお前の良い所ではあるが」


 「申し訳ありません」


 「まぁ、良い。勝てるかどうかは、ネイル殿が我々を投入するタイミングにかかっている。前半に投入すらなら我々の負け。しかし、中盤以降なら我々の勝ちだ」


 「何故ですか、お師様?」


 「分からんのか? 剣は上達してもそこら辺りが分からぬようでわ、まだまだだな」


 ふくれ面のバディ。


 「そうでございましょうか?」


 「中盤以降ならあ奴の太刀筋や癖などが分かる。しかも体力も限界に達しよう。そこで我々が出れば確実に勝てる」


 嫌な顔をするバディ。


 「何か卑怯でございます」


 「何を言っておる。以前は裏の仕事もしてたではないか」


 「でも今は……」

 

 「嫌ならお前はカーシー様の警護でもしておれ」


 「それはもっと、イ・ヤ!! バディはお師様の傍を離れません!!」


 「分かった、分かった、絡み付くな。動けんだろうが」


 バディはカロンの腕に自分の腕を絡ませる。


 「どの道お前の力が必要になる。置いてはいかんよ」


 「お師様の意地悪!」


 不貞腐(ふてくさ)れたバディの顔に呆れるカロンであった。



     PM1:00


 カーシーとアモスは今後の予定を打ち合わせしていた。

 

 カーシー。


 「どうだ、3時までに全員揃いそうか?」


 アモス。


 「はい、予定通り進んでおります。既にコーカス村と隣村は、午前中に通行止めにして人馬の流れを止めております。騎馬隊500が既に到着。ここから少し開けた所に待機。午後3時までに残りの騎馬隊、弓矢隊、歩兵部隊が順次到着しますれば問題ないかと」


 「そうだな。今回は兵3000を6部隊に分けている。でないと目立ち過ぎるからな。気取られぬ為には仕方ない。しかもその内の1000は母上の実家からの支援だ。時間がかかるのは仕方ないか。ゴータ村のような失敗は出来んからな…あと例の箱は大丈夫なのだな?」


 「はい。壁に取り付けた黒い箱は時間通りに稼働致します」


 「しかし良く思い付いたもんだな、あんな仕掛けを」


 「コンベール大王国からの技術供与がありましたもので」


 「それだけアンジェ国王も早く俺をこの国の王に就かせたいと言う事か」


 「そのようで」


 「我が国の鉱物資源の独占権が欲しいのだろう」


 「このスタンリー王国は良い鉄が採れますから」

 

 「仕方あるまい。コンベールにも美味い汁を与えねば、この国での俺の立場が危うい。それにしても、ネイル隊長を軍から引き抜いたのは大きいな」


 「ネイル少尉は頭の固いフレイザー将軍とは水と油。あの方はまだ26才。まだまだ出世するのに貪欲でござりますれば、ひたすらお国の為とほざく将軍とは合いませぬ」


 「うむ、手柄であったなアモス。しかしアモス、今はネイル隊長だ」


 「これは失礼を」



     PM3:00


 カーシーの前で敬礼するネイル。


 「カーシー様、全ての部隊が揃いました」


 6人の部隊長とネイルがカーシーの前に揃う。弓矢隊500。騎馬隊500。歩兵部隊2000。計3000。


 兵達の前で演説をするカーシー。


 「全ての指揮権はこのカーシーがもつ。が、俺は素人だ。故に実際の指揮権はここにいるネイル隊長に委ねる。

 今回は前回のゴータ村の二の前を踏む事なく確実に勝利を掴む。村だと思って油断するな! この作戦に失敗すれば大王国から今後、支援を得るのが難しくなる。ネイルもと一丸となって勝利を掴むのだ!」


 

 一斉に鬨(とき)の声を上げる兵達。


 「「「「「「「オオォーーーーー!!!!!!」」」」」」


 ネイルともう一度作戦を確認するカーシー。村人の処分、リリーナの確保、そしてカーシーが急きょ指示したジーナとミアの確保。作戦決行までの空いた時間は部隊を休ませた。



 作戦名 〔宝玉の収奪〕 がいよいよ実行されようとしていた。



      PM3:30


 軍がコーカス村へ移動を開始し。村人に気付かれない様に移動する。村までの距離約2キロ。



      PM5:00


 軍の布陣が完成する。



      PM5:30


 カーシー、アモス、カロン、バディの4人でコーカス村が一望できる丘に向かう。このコーカス村は緩やかな盆地になっている。4人はそれぞれ双眼鏡を持ち村の様子をうかがう。


 カーシーが双眼鏡を覗きながらアモスに話かける。

 

 「気付かれてない様だな」


 「そのようですな」


 「まだ橋は健在か」



     PM5:58


 双眼鏡を覗いていたバディが声を発する。


 「なに? 1人の男が橋の方に向かって、凄い速さで走ってる!」


 その場にいた全員が双眼鏡を覗く。


 カーシー。


 「あれは確かアルトとかいうリリーナの義理の兄か」


 アモス。


 「そのようですな」


 カーシー。


 「俺の策を見破ったのか? 何故だ? まぁ、良い」


 凄まじい跳躍で一気に壁に手をかけるアギト。


 「何だ、あの跳躍力は! 人の成せる技ではないぞ!!」


 ここでアモスの頭の中で、ある考えが脳裏をよぎる。


 あの髪は染めているのではないとすると……黒い髪、あの運動能力。まさか、まさかあの者は異世界人! この世界において黒い髪はいない。いるとすればミナギ教国におられる、あのお方のみのはず。この時代に2人の異世界人。いったいこの時代に何が起ころうとしているのだ。


 愕然とするアモス。


 そしてアギトが黒い箱に手をかけた瞬間、黒い箱は2個同時に爆発する。橋は防衛の役割を放棄した。



      PM6:00


 橋がついにカーシーの手に落ちる。



 「間に合ったな」


 ほっとするカーシー。だが、カーシーは何者かの視線を感じる。


 「まさかアイツ、俺が視えるのか? なんか目があったような気がしたが。村とこの丘は2キロあるんだぞ! き、気のせいだな? よし一つ目の作戦は成功だ。ハラハラさせる」


 気を取り直しネイルに命令を下すカーシー。


 「ここからはネイル隊長に指揮権を委ねる」


 近くに控えていたネイル。


 「かしこまりました!」


 ネイルは後ろに向き直すと、規則正しく整列する部隊に大きな声で命令を下す。


 「これより〔宝玉の収奪〕作戦を実行する! 手はず通りまずは騎馬隊が先行! 次に歩兵部隊、最後に弓矢隊!

 騎馬隊は速やかに橋の確保! 歩兵部隊は村を包囲した後、梯子の用意! 同じく弓矢隊も村を包囲! 弓矢隊は火矢を使用せよ! 次に矢を射かける! 皆、この一戦にカーシー様、そして我々の未来がかかっている! 決して油断なく遂行せよ!!」



 「「「「「「オーーーーー!!!!!!」」」」」」



  「いざ、出陣!!!」



     PM6:02


 

 巨大な黒い塊りが、山を駆け下り始めた瞬間だった。

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