第10話 時間

   AM6:00


 翌朝アモスのところに馬車が迎えに来た。村長、アギト、リリー、ジーナ、ミアが見送りに門まで出向く。

 村長がアモスに話かける。


 「こんなに早く行かれなくとも。ぜひ朝食をご一緒にと思っておりましたが」


 アモス。


 「あまりお邪魔してもご迷惑をおかけしますので。またいずれお会いすることもあるでしょう。その折にはよろしくお願い致します。ではリリーナ様、その他の方々もお体にお気を付けて」


 アモス、カロン、バディの3人は馬車に乗り込む。この時アモスはポケットの中に手を入れると、何かをしていた。


 不審に思うアギト。

 何をしてるんだ?


 まだ、身分卑しき者だけが乗らない。身分卑しき者はリリーナに駆け寄ると袋を渡す。

 中身を確認するリリーナ。


 「こ、これは?」


 中身は大量の金貨だった。

 身分卑しき者。


 「アモス様が渡し忘れた物です。どうかお納めください!」


 「ありがたいのですが、頂けません。お気持ちだけ頂きます」


 身分卑しき者はリリーナにだけ聞こえる声でつぶやく。


 「取っておけ、迷惑料だ。いらないのなら村長にでもやれ。それと近いうちにまた来る。その時はお前をいただくからな」


 驚くリリーナ。そのやり取りを見ていたアギト。身分卑しき者が最後に馬車に乗り込むとコーカス村をあとにする。

 アギト。


 「アイツ、リリーにだけ正体をばらしたな」


 「兄様、聞こえていたのですか?」


 「あぁ、耳もいいからな」


 「それにしてもアギト君の言った通り、本当にランプで合図を送っていたわね」


 「兄様、本当にスゴイです!」


 「ボク、アギトを尊敬したよ」


 「あぁ…」


 アギトは生返事を返したあと考える。

 徒歩と馬車が何故か気になる。何だこの違和感。歩いて来たのなら歩いて帰る。馬車で来たのなら馬車で帰る。分からない。なぜ帰りだけ馬車なんだ? 気にし過ぎなのかな?


 アギトはカーシー達の泊った部屋へ行く。テーブルの下に張り付けていたある物を回収する。そしていつもの4人で朝食を済ませる。




    AM8:00


 アギトは食事を済ませた後、寄合所に村長をはじめ主な人間を集めて、回収した物をテーブルに置く。皆が席に着く。


 アギト。

 

 「さぁ、答え合わせといこうか」


 ミア。


 「何だ、この黒い物は?」


 「これは俺たちの世界にあるスマホと言うもんだ」


 「これをアモスのいた部屋から取ってきたのか? これってどう使うんだ?」


 「これは遠く離れた人と話をしたり、人の会話を録音したり出来るんだ」


 「スゴイじゃないか!! けど録音てなんだ?」


 「う~ん、説明するのは難しいな。まず聴いてくれ」



 アギトは録音された会話を再生する。


 「アギト、アモス達の声が聴こえる。なんだこれは?」


 「兄様、これは何かの魔法ですか?」


 「アギト君、これ凄いわね!!」


 村長。


 「アギト殿の世界にはこれが沢山あるのか?」


 「あぁ、俺のいた世界では多くの人がこれを持っている。俺だけが特別じゃない」


 そこにいた全員が驚く。


 アギト。

 なかなか面白い光景だ。

 「さて、驚くのは後にしてくれ。まずアモス達の会話を聴いてくれ」


 全員耳を傾け会話の内容を聴く……聴き終わると皆が怒りの顔に変わっていた。


 リリーナ。


 「父様や、母様を殺したのは昨夜の4人なのですね!!」


 アギト。


 「そうだな。俺のにらんだとおり、リリーの両親を殺(あや)めたのは護衛のカロンとバディだ。だが、指示を出したのはカーシーだ。これで、あの襲撃事件の全容が分かったな。俺に関してはまだ分かってないようだ」


 ジーナ。


 「そうみたいね」


 アギト。

 途中、第1王子のクラークの名前があったな。カーシー達の方も上手くいってないようだな。

 「あとジーナさんの祖父のところに忍び込んだメイドは、そのままにしておいた方がいいな」


 ミア。


 「何でそのままがいいんだ? 早くおじい様に連絡して、捕まえた方がいいと思うけど」


 「アギト君まさか、そのメイドを使ってウソの情報を流し、逆に利用する考え?」


 「流石だなジーナさん、よく分かってる。その通りだ。使えるモノは何でも使う。だってもったいないだろう!」


 「アギト君て結構、腹黒なのね」


 「褒め言葉としていただいておくよ」


 「兄様、性格悪いです」


 「性格が悪くないと生きて行けないぞリリー。真っ直ぐもいいけどこれからは騙しきった方が生き残る。リリーは今そんな世界にいるんだ。でも確かに俺は腹が黒すぎるな。ハハハハ…」


 アギトと皆の距離が僅かに広がる。

 村長。


 「しかしアギト殿は凄いの。ジーナから聞いておったがここまでとは。まだ若いのに」


 「俺の世界では小説という本があって、その中でも推理小説が好きなんだ」


 「アギト、その推理小説てなんだ?」


 「事件が起きたら、どうしてこうなったのか考え解決する本だ」


 興味を持つジーナ。


 「面白そうね!」


 最後に俺、リリー、ジーナ、ミアでスマホを使い写真を撮る。出来上がりを見せると3人の女性達は驚いていた。人の驚く顔は楽しい。




    AM10:30


 カーシー達の軍の野営地をアギト、リリーナ、ジーナ、ミアで探す。コーカス村から約500メートル先の林の中で発見する。


 ミア。


 「アギトの言った通りだったな」


 アギト。


 「食事の形跡などを見る限り、ざっと50人ぐらいだな?」


 ジーナ。


 「そんな感じね」


 「これと言った不審な形跡はないな。本当にカーシー達の護衛が目的だったようだ」




    PM12:00 


 昼飯をとった後、近所の若い夫婦レス・ブリスとジーン・ブリスが赤ん坊を連れて来た。ミアとジーナ、そしてリリーにお披露目をして雑談に花を咲かせている。

 リリーナがジーンに話かける。

 

 「可愛いですねー! お名前は何と言うんですか?」


 母親のジーンが赤ん坊をあやしながら答える。


 「ケビンよ」


 ジーナ。


 「男の子なのね。男前になっても女の子を泣かしちゃダメよ!」


 呆れるミア。


 「赤ん坊に何言ってんだよ、姉さんは!」


 「「「「あはははは!!」」」


 周りを見るジーン。


 「それにしてもいつも来る花屋さん遅いわね」


 リリーナ。


 「どうしたんですか?」


 「今日この子の為に花を飾ろうと思ってたのよ。でも、花屋さんが来ないの。いつも午前中に来るのに?」


 ミアが横から口をはさむ。


 「あぁ、あの娘か。あの子おっちょこちょいだから、朝寝坊でもしたんじゃないのかな?」


 部屋の中で聞いていたアギト。

 お前が言うな!


 ブリス夫婦は長い間、リリーナ達と立ち話をして帰っていった。


 アギト。

 家に入れてやればいいのに。赤ん坊が可哀想だろ。それにしても長い間、雨が降ってないみたいだな。すぐに口が乾燥する。赤ん坊にはきつかっただろうな。





     ~花屋の娘~


 その頃、花屋の女の子は馬車イッパイに花を乗せ、コーカス村へと向かっていた。


 「今日はジーンさんにイッパイ花を買ってもらおっうと。なんせ赤ちゃんが生まれたんだから。それにしても、あの赤ちゃん可愛いかったな。今日会ったらホッペをスリスリしちゃおっうと」


 暫くすると途中で道を阻む一団がいた。その中から一人の男が女の子に近づく。


 女の子。


 「何かあったんですか?」


 男。


 「この先の橋が突然壊れてな、橋の架け替え工事をしてるところだ。悪いが今日いっぱいかかりそうなんだ」


 「えぇ~、そんな!」


 「悪いな」


 「ん~仕方ないですね。橋がないと私も困るし。明日は通れるんですか?」


 「今日中には直すから、明日は大丈夫だ」


 「分かりました」


 来た道を戻る女の子。

 ゴメンなさい、ジーンさん。赤ちゃんに会いたかったな…明日は行くからね、赤ちゃん。


 帰って行く女の子を見ながら仲間と話す男。


 仲間の男。


 「帰ったか」


 「あぁ」


 「さて、こちらも準備に取り掛かるか」


 「そうだな」


 男達は道を通行止めにしたまま、橋を直す事もなく姿を消した。男達が去った後には、無傷の橋が残っていた。




    PM2:00 


 村長が家に来てリリーナ達に声をかける。


 「さて、リリーナさんのご両親の遺体を迎えに行く時間じゃな。村の若いもんを向かわせるがお前さん達はどうする?」


 リリーナとジーナ、そしてミアは同行する。


 リリーナ。


 「兄様は行かないんですか?」


 「俺は少し気になる事があるから欠席するよ。その代わり葬儀に必ず出るから」


 「そうですか……少し寂しいです」


 「すまないな、リリー」


 ミア。


 「アギト、何で……」


 ジーナ。


 「やめなさい、ミア」


 「だって、姉さん」


 「アギト君、何か気になる事があるのね?」


 「あ、あぁ」


 「分かったわ。それじゃ仕方ないわね。皆行きましょう」



 アギトは部屋に戻り頭の中を整理する。


 アギト。

 まずアモス達との会談は9時に終わった。会談は40分だ。待たした時間は20分ぐらい。つまりアモス達は8時に来た。8時はこの村の橋を引き上げるギリギリの時間だ。その時間はもう暗くて周りはほとんど見えない。そんな時間に徒歩で来る事はない。 


 別に馬車で来てもいいはずなのに徒歩だった。ならアモス達は途中まで兵と同じ馬車で来た事になる。護衛だから別に兵の姿を見せてもいいのに、アモス達だけが姿を現し兵は姿を消した。兵には橋の近くで何かをする事があったからだ。


 橋を引き上げるまではやぐらに人がいて周りを警戒している。その警戒をアモス達が徒歩で近づく事によって注意を引き付ける。暗くて見えにくいのに、さらに注意を引き付ける。そこまでして見られたくないモノ……なんだ?




    PM3;30


 アギトが考え込んでいると、リリーナ達が帰ってきた。アギトは考えを一度中断し葬儀に出る。




    PM5;00


 葬儀がすむと、ジーナの家に帰り再び考えるアギト。


 そんなアギトに声をかけるミア。


 「まだ考えてるのか、アギト」


 「あぁ、なんか気になってな」


 「なに考えてるんだ? 一緒に考えようか?」


 「あぁ、あとでお願いするよ」


 アギト。

 ミアではこの推理は無理だ。気持ちだけありがたくいただくよ。ありがとうな、ミア。



 再び集中するアギト。

 橋の近くを徒歩で……橋の近く……橋……。


 ○ 橋は川、海、谷の上を乗り越える為の構造物で人や物を運ぶ為に利用する。

 ○ 戦時において、守る側は橋を壊す事で相手に攻め込まれないように時間を稼ぐ。

 ○ 戦時において、攻める側は橋を確保する事により迅速に軍を移動させ、敵を追い詰める事が出来る。


 この村の橋は鎖により開閉する仕組みだ。守る側は橋を上げ、攻める側は橋を下げたままの方が良い。そうか橋の確保か。橋を確保するには鎖を破壊するか、橋を持ち上げる為の滑車の部分を破壊する。


 しかし今朝は問題なく稼働した。もしカーシーが攻めて来ても橋の確保が出来なければ籠城戦になる。籠城戦になれば時間がかかり第1王子側に気付かれる。そうなれば第1王子側に付け込まれ政治的に不利になる。攻めるなら電光石火。つまり短期決戦しかない。


 これなら第1王子側に非難されてもあとの祭りだ。しかし、この世界には爆弾や時限爆弾なんてないはず。念の為に誰かに聞くとすればジーナさんしかいないな。彼女なら糸口が見えるかもしれない。



 アギトはソファーでくつろぐジーナの手を取り奥の部屋に移動する。


 「ジーナさん、聞きたい事があるんだが?」


 アギトに手を引っ張られ、喜色を表すジーナ。


 「も~、アギト君って大胆ね♡ ソファーには皆がいるからここに連れて来たんでしょ。ジーナ嬉しいわ♡ それじゃ~言うわね♡ 私のスリーサイズは~上から93、60、90よ♡ 」


 固まるアギト。

 す、すごいプロポーションだ!! かぶりつきたくなる。違う、違う、スリーサイズを聞きたいんじゃない。聞いて良かったけど。


 頭を左右に振るアギト。

 残念な顔をするジーナ。


 「違うの?」


 唇に指をはわしながら考えるジーナ。


 「分かったわ、アギト君! ゴメンなさいね、私とした事が」


 アギトの耳に口を近づけ囁(ささや)くジーナ。


 「アギト君だから教えるけど、他の人に言ってはダメよ。じゃ、言うわね。私のウィーク・ポイントは耳の後ろと……」


 再び固まるアギト。

 あぁ~、聞きたいけど後回しだ。


 真剣な表情をするアギト。


 「ジーナさん、真面目な話なんだ」


 「ゴ、ゴメンなさい」


 アギトはジーナの両肩に手をかけ目を見る。

 気を取り直して、改めて聞くアギト。


 「この世界に時限爆弾はあるか?」


 「何それ?」


 「じゃ、爆弾はあるか?」


 「爆弾てなんなの?」


 ここまではアルの記憶と一緒だな。この世界には爆弾は存在しない。

 「なら爆発するような魔法はあるのか?」


 ジーナは暫らく考える。


 「あるにはあるけど微妙よ。なんせ、害獣を追い払う時に使うぐらいだから」


 「爆発の威力はどのくらい?」


 「ん~、このくらいの石なら粉砕できるかな?」


 そう言ってジーナは手と手を広げる。


 20㎝ぐらいか。砕くのではなく粉砕か。かなりの威力だな。空気を圧縮して爆発させるのかな? 今は関係ないな。


 「これって微妙でしょ。だって土砂崩れなんかで道に落ちてきた岩とか砕けないし。せいぜい獣を追い払うか魚を取る時ぐらいかな」


 「なに言ってんだ。人の家に忍び込んで泥棒する時なんかに使えるじゃないか」


 「言はれてみればそうね! でもこんな魔法使える人ほとんどいないわよ」


 「でも、使える人間はいるんだな?」


 「私は知らないけど、いると思うわ。昔聞いた事があるから」


 「じゃ、時間を設定して爆発させる事は出来るのか?」


 「さぁ? 術者が見た物を爆発させると思うんだけど。そんな時間を設定して爆発させるなんて知らないわ」


 「質問を替える。時計と一緒に組み込んで時間をセットした場合はどうだ?」


 「分からないわ。出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。でもそんなもったいない事しないわよ。だって、時計てスゴク高いんだから」


 「ありがとう、ジーナさん!」


 アギトはジーナに礼を言うと外に出る。

 口を尖(とが)らせるジーナ。


 「もっと色っぽい質問をしてくれたらいいのに。アギト君の意地悪!」



 

 考えをまとめるアギト。

 時間設定の爆発は出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。ならば出来ると仮定する。

 そういう事か。俺の頭の中にかかっていたモヤが晴れた。


 ① 徒歩で来て、なぜ櫓で警戒する人間の注意を引く必要があったのか。

 ② なぜ会談が必要だったのか。

 ③ カーシーがリリーに金貨を渡した時に言った迷惑料の意味は。

 ④ 今朝はなぜ馬車で迎えに来たのか。


 さっき問題の答えはこうだ。


 ① 時限爆弾モドキの取り付けを悟られない為の工作。

 ② リリーをさらう時に顔が分からないと困る。

 ③ 金貨はゴータ村の件ではなく、これから起こる事に対しての対価。

 ④ 昨夜に時限爆弾モドキを設置し、任務を完了したため。


 つまり昨夜の会談はリリーがすんなりカーシー陣営に加われば良し。もし拒否しても力づくでカーシー陣営に連れて帰る。会談はこの作戦を実行するためのカモフラージュだったんだ。なら攻め込むのはいつか? 答えは今日中だ。 


 時限爆弾モドキをアナログ時計でセットするなら24時間は出来ないはずだ。12時間以内のはず。今朝アモスがポケットの中で何かをしていたのは時限爆弾モドキのスイッチを入れていたんだ。

 別れたのは朝の6時だ。ならば夕方6時までに橋の鎖か滑車を破壊するはずだ。今何時だ?


 アギトはスマホで時間を確認する。

 5時58分。不味い、時間がない。


 アギトはこの村に一つしかない橋に全力で向かう。橋に到着した時間は5時59分。


 鎖を確認するアギト。

 異常なし。


 次に4メートルはあるコンクリートの様な壁に取り付けられた滑車を確認する。アルトによって強化された脚力で一気に跳躍するアギト。


 アギト。


 「あった!!」


 20×10㎝ぐらいの黒い箱が、左右の壁の滑車付近に設置されていた。強化されたアギトの聴覚が箱の中の秒針の音を捉える。疑惑が確信へと変わる。


 アギト。

 急がないと!


 片側の黒い箱に手を伸ばそうとした瞬間、左右の壁から爆発が起き、滑車は鎖ごと堀の中の水へと沈んでいった。

 アギトは爆風に煽られ、態勢を崩すとそのまま地面に叩きつけられた。確認する為、再び跳躍するアギト。しかし、壁の上部には滑車は見当たらなかった。この瞬間コーカス村の防御力は大幅に低下した。



  時間はPM6:00になっていた。

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