第8話 夜の来訪者 その2

     ~対面~


 ドアを開けるとそこには3人の男性と1人の女性が立っていた。リリーナ達に向かって丁寧な礼をする4人。

 執事と思われる40代半ばの男はグレーの礼服に片メガネ。髪は銀色でオールバックで、目の色は薄いブラウン。身長は約180㎝位で体はやや細め。

 

 護衛の男性は30才前後。黒いスーツに剣を携えている。髪は淡い茶色で、目は細くやや釣り目で黒い瞳の持ち主。身長は175㎝程。体の線は細い。


 女性の方は25才前後。こちらも黒いスーツに剣を携えている。髪は淡い茶色でセミロング。目はやや大きく釣り目で黒い瞳。身長は165㎝程。体は細目で綺麗な女性である。


 荷物持ちの男は顔を布で覆っていて確認できない。この男もやはり服は黒いスーツを着用している。体は中肉で身長は180㎝程。



 不審がるアギト。

 何だコイツは?



 執事。


 「この度はリリーナ様のご尊顔を拝し、光栄の極みにございます。私、スタンリー王国第2王子カーシー・ドミニク・スタンリー王子にお仕え致しております執事のアモス・ブラウンと申します。以後お見知りおきを。

 ここに控えますは護衛の2人は男性の方の名がカロン・マルタン。女性の方の名はバディ・ルロワと申します。もう1人はただの荷物持ち。リリーナ様のお耳を汚す身分卑しき者なればどうかご勘弁を」


 リリーナ。


 「わざわざご丁寧な挨拶、痛み入ります。私がリリーナ・ドミニク・スタンリーです。こちらに控えますはジーナ・アイマ・ラッセル。その右におりますのはジーナの妹のミア・アイマ・ラッセル。そしてその更に右に控えますは私の育ての親レーン・ブーリンの息子、そして私の義理の兄アルト・ブーリンです。立ち話も何なのでどうぞお座り下さい」



 挨拶が終わり両陣営が席に着く。丸いテーブルを挟みアモスは窓側。護衛の2人はアモスの後ろで待機。荷物持ちは更に離れて後ろの窓際。


 アギト。

 なんだこの並びは? これでは荷物持ちが一番安全な位置だ。


 対するリリーナ側はアモスの正面にリリーナ。その右隣りには司会進行役のジーナが椅子に座っている。そしてアギトはリリーナの真後ろ。ミアはジーナの後ろ。


 アギト。

 アモスの護衛の男女2人だが…かなり出来るな。


 アギトは2人の腰に差している剣を見る。

 アギト。

 2人揃ってレイピアか……まさか! こんなに早くリリーとアルの両親の敵に逢えるとはな!



 アモス。


 「この度は誠に残念な事と相成りました。我が主カーシー様も大変心を痛めておいでにおられます。つきましてはリリーナ様のお心をお慰めしたく我が主の別荘にお招きしたいと申しております。

 なおその折りにはご兄妹の邂逅を祝福し、ささやかではありますがお食事会などを催したいと仰せにございます。いかがでございましょうか?」



 神妙な面持ちで返事を返すリリーナ。


 「お心痛み入ります。ですが事件があったのは昨日の事、今だ心の整理がすんでおりません。それに両親の遺体はまだゴータ村にあり、埋葬すらすんでおりません。

 何よりこの国の王ブルーノ様の娘と知ったのは昨日の事。私にはまだ多くの時間が必要です。心落ち着くまでどうかお時間をいただけませんでしょうか?」


 

 大仰に返事をするアモス。


 「おぉ、そうでございましたか。これは失礼を致しました。では失礼ついでに何か王家の一族の証(あかし)となる用な物はお持ちでございますでしょうか?」


 ミアがリリーに王家の証、鷹の紋章の入ったミスリルの短剣をリリーナに渡す。リリーナは剣先を自身に向けて柄(つか)をアモスに向けて渡す。


 リリーナ。


 「こちらになります」


 アモス。


 「お手に取ってもよろしいでしょうか?」


 「えぇ、どうぞご自由に」


 アモスは白い手袋をはめ、おもむろにミスリルの短剣を手に持ち鑑定を行う。


 「はい、確かに王家の者だけが持つ事を許されるミスリルの短剣でございます。失礼をいたしました」


 丁寧にリリーナに柄の方を向け返すアモス。


 「これで疑いは晴れましたね。では貴方にお聞きしたいのですが、何故私がこのコーカス村に居る事がお分かりになったのですか?」


 「私共の情報網はこのスタンリー王国の端々まで網羅しておりますれば造作もないことです」


 「そうですか。では私の事はいつお知りになったのですか?」


 「我が主(あるじ)がいつからリリーナ様をご存知あげているかは、私は存じ上げません」


 「しかし今回、貴方がここに来られたと言う事は少なくとも襲撃事件以前に私の存在をご存知であったはず。ならば、何故早い段階で私に愛の手を差し伸べてくださらなかったのでしょうか? 普通、行方の知れない身内の所在が分かれば直ぐに会いに来られるはずですが?」


 「存知かねます」


 「では話題を変えましょう。今回警備隊が通常よりもかなり早く行動されたようですが、理由をご存知ではありませんか?」


 「分かりかねます。我が主は正式にスタンリー王国の王になっておりませんので」


 「この襲撃事件の裏にはコルベール大王国の影が見え隠れしているようですが、それもご存知ないと」


 「はい、分りかねます」


 「分からない事が多いのですね、国の隅々まで情報網を構築しておきながら」



 アモスの額に一筋の汗が流れる。


 「いやはやリリーナ様は手厳しい。素晴らしい政治手腕をお持ちのようで!」


 「では貴方はここに何をされに来られたのですか?」

 

 「リリーナ様へのお悔やみと、別荘へのご招待を…」


 「それはお手紙でも良かったのでは? 何せ私の所在が分かっても中々お会いに来られないお方の様なので」


 「それは…やはり一度、ご尊顔を拝しに…」


 「では私の顔をご覧になりましたね。ならばもう用事は済みましたね」


 「いえ、まだいつ別荘の方に来られるかお返事を頂いておりません」


 「最初に申しあげましたが、私の心が癒えるまでです。返事になりませんか?」


 たじろぐアモス。

 畳み掛けるリリーナ。


 「他にご用件がなければ、これで終わりにしたいと思います。いいですか?」


 アモスと護衛の2人、そして荷物持ちを見るリリーナ。


 「遠い所わざわざありがとうございました。私共はこれにて失礼致します。今夜はもう遅いので別室にて泊まれる部屋を用意しております。むさくるしい所ではありますが、この村で一番良い宿泊部屋でございます。お気に召さないかもしれませんが、どうかごゆるりとおくつろぎ下さい」


 アモス達はリリーナに丁寧に礼をすると、村長に促され隣の部屋へと移動をする。






    ~リリーナ陣営~


 家に着くとリリーナはアギトに寄りかかる。


 「兄様~疲れました!」


 アギトは彼女の背中に手を回すと、汗でびっしょり濡れていた。


 「リリー凄い汗だな? だが良くやった」


 「リリーちゃん、本当に凄かったわ。司会進行役だったのに私全然出る暇なかったもの」


 「リリー、ボクもビックリしたよ。まるで人が違うんだもの。何かに取り憑かれたみたいだった」


 「私が一番ビックリしました!」



 服を着替えた後、テーブルを囲みお茶を飲みながら話をする。


 「ところでアギト君、護衛の2人をどう思う?」


 「やはりジーナさんは気付いてたか?」


 「「どう言う事?」」


 リリーナとミア2人が不思議な顔をする。


 「リリーとアルの両親を殺害した奴だよ」


 「本当ですか、兄様!?」


 「あぁ、まず間違いない。まず剣がレイピアだ」


 「アギト、レイピアなんて皆が護身用に身に付けてるぞ」


 「まぁ待て。まずここら辺で髪が淡い茶色で、瞳が黒いのは珍しいんじゃないのか? あの人種はコルベール大王国のレニア地方に多い? レニア地方はここから随分遠い所だ。確か大王国の西の端の海に面した場所だったはずだ? そこの人間はここら辺りにはあまりいないだろう? そして……かなり腕が立つ」


 「魂魄石でおじ様を呼び出した時、おじ様は『剣の流派はレニア地方の流れを組むもの』とおっしゃってたわ」


 「そんなすぐ分かりそうな2人を、なんで連れて来たんでしょう? 兄様は分かるんですか?」


 「俺の推測だが、『第2王子のカーシー陣営に付かないと両親みたいになるぞ。間違っても第1王子の陣営につくなよ』と言う警告、または脅しかな?」


 「あいつらー、ボクがこれから行って文句を言って来る!」


 「やめなさいミア。あとあの2人に勝てるのは多分アギト君だけよ」


 「俺自身、自惚れているわけではないが、あの2人に勝てる奴はこの世界にはあまり多くはいないはずだ。時間が経つにつれアルの記憶、経験が俺の頭に、身体に入ってきてる。だから分かるんだ。

 間違っても、お前は手を出すな、いいなミア。お前がいくら三節棍の使い手だったとしても相手が悪い、殺されに行く様なものだ」


 「おじ様やおば様でも敵わない相手よ。アナタがいくらこの村一番の使い手でも、アギト君の言う通り相手が悪過ぎるわ。それは私も同じ事」


 「じゃあ、アギトがリリーの親の仇を打ってくれるのか?」


 アギトは持っていたティーカップの取っ手をへし折る。


 「あぁ、俺が必ず仇を討つ!!」


 怯える3人。


 「だが、それは今じゃない。向こうが舞台を用意するはずだ。それまで待て。それに今夜は不味い」


 ミア。


 「どうして、今夜はダメなんだ?」


 「それは後で話す」


 「……うん、分かった」


 「それと、あの荷物持ちどう思うジーナさん?」


 「どうって?」


 「ジーナさんすら気付いてないのか、たいしたもんだなアイツ」


 「それはどう言う事、アギト君?」


 「あの荷物持ちは多分、第2王子カーシーだ!」


 「「「えぇ!!! まさか???」」」


 同時に驚く3人。


 「俺なら相手がどんな奴か、一度視に行くな」


 「そうね、確かに私もそうするわ」


 「何も思わなかったか? 非公式とは言え、一国の姫様と第2王子の使者との会談だ。普通そんな場所に荷物持ちとか来るか? しかも身分卑しき者だぞ。何か必要な用件があれば分かるが、アイツは最後まで何もせず俺達を監視しているだけだった。用事がないなら別室で待機するのが礼儀だろ。


 それにアイツの立ち位置だ。一番奥の窓際に立っていた。会談した所は2階だが、あの寄合所の2階はそんなに高くない。もし何かアクシデントが起きた場合、直ぐにあそこから飛び降りて逃げられる。しかも飛び降りても怪我はしない。しても捻挫ぐらいだ。つまりいつでも逃げられると言うことだ。


 その時は護衛の2人が盾となる。しかもあの執事もかなりの腕前だ。徒手空拳か暗器(あんき)(隠し持てる小さな武器)の使い手かは知らんが時間稼ぎは出来る。きっと近くに小部隊が潜んでいるはずだ。そこまで行けば安心できる。


 つまり、こちらが何か事を起こせばいつでも対応出来るはずだ。こちらの建物の配置や門までの距離とか全て向こうに筒抜けと言う事だ。いくらこの村が要塞みたいなものであっても、要塞ではない。本物の軍が動けばひとたまりもない。必ず近くに軍が潜んでいるはずだ。しかし王になってないから私設軍である可能性は高いがな。


 大体第2王子は用心深く狡猾(こうかつ)なんだろ。それぐらいの準備をしているはずだ。何故なら俺もそうするからだ。だからリリーの親の仇を打つのは次回であって今夜じゃない」


 「アギト、考え過ぎじゃないのか? 相手はそこまでするかな?」


 「じゃ、アモス達はここまでどうやって来た? リリー達が服を着替えている間に村長に聞いたが、アモス達は徒歩で来たらしい。第2王子の別荘はここから随分と遠い所だ。そんな遠い所から歩いて来るのか? しかも時間を見れば今は夜の9時だ。月明かりもないのに無茶な話だ。

 俺なら歩いて来るなんて嫌だね。つまり、アモス達を連れて来た奴等がいると言う事だ。そしてそいつ等は、この村の近くで待機していると考えるのが自然だ」


 驚く3人の女性達。

 ジーナ。


 「アギト君、貴方は出来る人だと思ってはいたけど流石にここまでとは。洞察力が凄いわね!!」


 リリーナ。


 「私もビックリです。アル兄様なら絶対気付かないです。流石、アル兄様が見込んだだけの人です!!」


 ミアは口を開けて、ただ呆然と俺の顔を見るだけで何も話さない。見た目はやっぱりアホの子だ。


 「もし俺の推察が正しいのなら、今夜何らかの合図を軍に送るはずだ。俺の予想では今の暗い時間なら光の合図。皆が寝静まる夜中にランプを回転させたり、部屋を明るくして雨戸を開け閉めする信号の様な合図だと思う。内容は(待機せよ)とか(現状維持)とか言うところだろうな」


 再び驚く3人の女性達。


 「アギト君、前の世界で軍隊にでも居たの?」


 「俺はただの学生さ」


 「何でこんなに詳しいですか、兄様?」


 「軍記物とか好きだったからな」


 ミリタリー系とか戦争映画をよく見たからと言っても分からんだろうな? ミアは相変わらず口を開けたままだ。分かってないだろうな。

 あちらさんも反省会の途中かな? 後は明日の朝、カーシーの部屋に仕掛けた物を回収に行くだけだな。カーシーサイドの合図を確認したら今日は寝るか。

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