第6話 会話

~アギト達と別れて天に召されるレーン・ブーリンとタリ・ブーリンの魂の会話~


 レーン。


 「良かったなリリーは。良い人達と巡り合えて。タリ、アギト君をどう視る?」


 「私は彼のオーラを視た時、驚いたわぁ!」


 「そうだな、彼の背後には金色のオーラが輝いていた。あのオーラはどんな苦境に身を置いても跳ね返す力のある色だ。それに引き換えリリーのオーラは黒くくすんでいた」


 「リリーはこの先、王位継承権の争いに巻き込まれるのでしょうね…可哀想なリリー。本当は村娘として素敵な旦那様と出会い、子を成し、平凡でもいいから静かな生涯を過ごしてもらいたかったわ」


 「王の死がそれを許してくれない。今や王位継承権のカギを握る重要人物となってしまった。クラーク様とカーシー様、両陣営から狙われている」


 「だからリリーのオーラが黒くくすんでいるのね」


 「だからタリは、リリーにアギト君を薦めたのか」


 「えぇ、彼ならきっとリリーを苦難から救ってくれる。そして夫婦になれば、生涯彼が傍にいる」


 「しかし、それではアギト君の気持ちはどうなる?」


 「あら、何言ってるの? アギト君も満更でもないみたいよ」


 「よくそこまで分かるな」


 「私も女ですから。殿方の顔を観れば大抵分かりますわ」


 「怖いな」


 「でもアギト君は中々の人気者ね」


 「どう言うことだ?」


 「貴方は昔っから女心が分かっていませんね。ジーナちゃんはアギト君を好いていますわ。ミアちゃんも今後どう転ぶか?」


 「そんなに彼はモテるのか? しかしリリーが姫様になれば政略結婚もあるかもしれない」


 「……そうね。でも、そうはならないと私の勘が教えてくれる」


 「女の勘か?」


 「えぇ、だからリリーには是非アギト君と一緒になって欲しいの。その時には私の手作りのドレスを纏(まと)ってね。ジーナちゃんやミアちゃん達を押しのけて……頑張れリリー!」


 「そうだな……では、そろそろ逝こうか、タリ」


 「えぇ、貴方」


 2人の魂は天に召されるのであった。





 アギト達がコーカス村に帰り着くと臨戦態勢は解かれていた。村長を含む主な責任者が寄合所に集まりゴータ村の実情を説明をする。そして明日、馬車を出し2人の遺体を引き取りこのコーカス村の墓地に埋葬する手はずとなった。

 今の時間は昼の12時。ここでお開きとなり昼食をとる為ジーナの家に戻る。リリーナは昨夜あてがわれた部屋に戻る。ジーナはそのまま食事の用意。アギトとミアはリビングで待機。



     ~リリーナの時間~


 リリーナはアルトの手紙を読み返し、銀の薔薇のブローチを胸に着ける。


 「ありがとう兄様、私の一生の宝物です! 大事にしますね」


 今度は母親の仕立てたドレスを胸に当て、姿見の鏡で自分を観た。


 「綺麗!! ありがとう母様。私が結婚出来れば必ず着ます……でも何でアギトさんなのかな? 変に意識してしまう」

 あと父様からのプレゼントに関しては、兄様からの伝言だと言ってアギトさんは私に伝えてくれた。


 回想するリリーナ。



 アギト。


 「リリーの父さんからのプレゼントは、レーンさんが生まれて初めて作るチキン料理だったらしい。作り始める前に襲撃があって出来なかったみたいだ。

 このプレゼントは食べなくて良かったんじゃないのかな? 本番前に作ったのをアルとタリさんが試食したらしいんだが、2人とも不味くて吐いたそうだ。砂糖と塩を間違えたみたいだな」


 「父様らしいわ! でもそんな美味しくない物でも食べたかったな。いい思い出になったと思う……多分。やっぱり食べなくて良かったのかな?」


 娘から見た父親は、どの時代どの世界でも、だいたいこんな扱いである。





    ~ミアとアギトの時間~


 ソファーでくつろぐ2人。


 「ミアはジーナさんの手伝いをしなくていいのか?」


 「今日は姉さんの番なんだ」


 「じゃミアの番はいつだ? 明日か?」


 顔を歪めるミア。


 「うるさいな~永遠に番は回って来ないんだよ!」


 「はぁ? お前本当に料理出来ないんだな! 嫁の貰い手がないぞ!」


 「そんな事より、ね~ん、ア・ギ・ト・さん♡ 近くに行ってもよろしいですか?」


 「な、なんだ。急に猫なで声で、気持ち悪い」


 「い・い・よ・ね♡」


 「あぁ、いいよ」


 「ありがとう♡」


 ミアはアギトにまたがると、抱っこされる形になる。そのまま顔をアギトの顔に近づけるミア。


 「な、なんなんだ」


 アギトの鼓動が異常に速くなる。


 「アギトさん、私、貴方の事が…とっても……とっても……嫌いなの!!」


 ミアはアギトの口を両手で摘まむと思いっきり左右に引っ張った。


 「捕まえたぞコイツ!! この口か? ボクの事をバカとかブスとか胸が無いとか言った悪い口は? あああぁぁ? 嫁に行けないだと!! あああぁぁ?」


 「言ってない、言ってない! ああぁぁ、痛い、痛い! ブスとか胸が無いとか言ってない! バカとアホと嫁に行けないしか言ってないです!」


 「ほとんど言ってるじゃないか! アギト、許さぁん!!」


 そこにジーナが現れる。


 「あら、2人とも随分仲良くなったみたいね、良かったわ♡」


 「「どこが?」」


 「あら、息もピッタリね!」


 「姉さん、アギトがボクを襲うて言うんだ!」


 涙目でジーナに訴えるミア。


 アギト。

 何という演技力だ!

 「嘘だ! 嘘だ!!」


 そこにリリーナが2階から降りて来る。


 「兄様、何て言う事を!!」


 ジーナ。


 「あら、私は襲ってくれないの? アギト君なら何時でもいいわよ♡」


 リリーナ。


 「ジーナさん、何て事を言うんですか! そんな事を言うと本当に襲いますよ、この人は!!」


 「あら、私は本気よ♡」


 「姉さん!!」


 「ジーナさん!!」


 「もう誰か何とかしてくれーー!!」




 この後同じ様な展開が再び起こり、昼食が終わったのは3時頃になる。そして、その夜とんでもない人物が村を訪れる事になる。

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