第4話 異世界の朝

    ~異世界の朝~


 アギトは異世界で初めての朝を迎えた。目に太陽の光が差し込む。


 アギト。

 朝はどの世界も清々しいな。


 ジーナが朝食の支度をしていた。


 「ゴメンなさい。うるさかった?」


 「いや、いつも朝は早いんだ。毎朝、木刀で素振りしてたから」


 「へぇ~、凄いのね。あっ、お腹空いたでしょう。朝食の用意もう少しで出来るから待ってて」


 感心するアギト。


 「ジーナさんは19才だよな?」


 「そうよ」

 何で、私の歳を知ってるのかしら?


 テーブルを眺めるアギト。


 「それにしてもジーナさんは凄いね」


 「何が?」


 「料理が出来て、面倒見が良くて、何より美人だ。まるで母親だな。ジーナさんみたいな若い母親なら俺も欲しいな」


 「年は関係ないわよ。 ア・ギ・ト・ク・ン♡ 実際、妹2人の面倒みてたしね。あと母親ではなく恋人がいいなぁ♡ ところでアギト君のお母様はどんな感じの人?」


 「ジーナさんとは対照的な人さ。ガサツで気遣いの出来ない母親だよ」


 「あら、散々ね」


 「仕方ない、事実だから。けど、おおらかで優しい人だったな」


 「『だった』?」


 「両親は1年前に事故で亡くなったんだ」


 アギトの顔が僅かに曇る。ハッとするジーナ。


 「あっ、あの……ゴメンなさい」


 「いいよ、気にしてないから」


 少し微妙な時間が流れる……そう言えば今何時なんだ? スマホで時間を確認するが時間がこの世界の時間は分からない。

 スマートフォンを不思議な顔で見つめるジーナ。


 「何? その機械?」


 「これはスマートフォンと言って、時間を知らせてくれたり、離れた人と会話できる機械だ。こちらの世界では使えない物だと思う。電気とか、コンセントとかないだろう?」


 頭を捻るジーナ。


 「何を言っているのか分からないわ」


 「要は時間を知りたかったんだ」 


 理解するジーナ。


 「今はまだ朝の6時よ」


 「6時?」


 「そうよ。昨日皆で話あった建物、寄合所があるでしょ。あそこの上に皆が見えるように大きな時計が付いてるの」


 驚くアギト。

 この世界は時間の単位が俺の世界と同じなのか?


 「どうしたの?」


 「いや、時間の単位が俺の世界と同じだから」


 「1日は24時間よ。これも教会が昔に決めた事みたい」


 どうなってんだ? ここまで同じとは。地球と同じ時間軸で別の世界。この世界はパラレルワールドなのか? 分からないな? とりあえずスマホの時間をこの世界の時間に合わせるか。


 スマホを見るとバッテリーが少なくなっているのに気付くアギト。


 通常オフにして電気の消耗を抑えるとするか。


 ジーナ。


 「どうしたの? 深刻な顔をして」


 「いや、別に」


 「あ、忘れてたわ。アギト君の着替えを用意しておいたから、これに着替えてね。それと靴ね。その靴じゃ履きにくいでしょう?」


 そうだった。昨日からずっと部屋用のスリッパだった。ジーナさんが用意してくれた服はアルが着ていたのと同じ服で色違い。上下の紺で、靴は黒のショートブーツ。


 アギトが着替えが終わる頃に、リリーナとミアが下りて来る。

 少し眠たげなリリーナ。


 「お早うございます、ジーナさん。と、その兄様でなく、アギトさん」


 「別に兄様でもいいよ」


 複雑な顔をするリリーナ。


 「……はぁ」


 「お早う、姉さん。アギト君」


 「お早う、ミアさん」


 アギトに近づくミア。


 「アギト君、一つ提案なんだけどボクの事はミアでいいから、キミの名前もアギトって呼び捨てにしていいかな?」


 「あぁ、かまわない。どうせ同い年だからな」


 「良かった。何か同い年に気を使うのは嫌だから」


 2人の話に割りこんで来るジーナ。


 「じゃ、私もジーナて呼んでよ」


 「いや、流石(さすが)に年上の人には」


 ジト目でアギトを見るジーナ。


 「アギト君の意地悪。人を年寄扱いして」


 助けに入るミア。


 「仕方ないよ、姉さん。姉さんはここでは一番年上なんだから。あれ? 何でアギトが姉さんの歳を知ってるんだ?」


 ジーナ。


 「それもアル君の記憶?」


 「あぁ、大分アルの記憶が整理されてきた感じだ。それと夢の中にアルが現れて話をしたんだ。リリーの事をよろしく頼むと言ってたな」


 驚くリリーナ。


 「兄様と話をしたんですか?」


 「あぁ、変な言い方だが夢の中では元気そうだった。かなりリリーの事を心配してたな」


 「そうですか」


 話の途中でミアがリリーナに近づきある事を確認する。


 「リリー、一つ聞きたいんだけど、おじ様やおば様は確か魂魄石こんぱくせきを持ってたよね」


 「えぇ、肌身離さず身に付けてます」


 「そうか。ありがとう、リリー」


 アギト。


 「何だ、その魂魄石と言うのは?」


 ミア。


 「その石を持っていると、持ち主が亡くなっても24時間以内ならその者の魂を石に留めておく事が出来るんだ。つまり24時間以内なら死者と会話が出来ると言うこと」


 「それは凄いな。石に関してはアルの記憶にはなかった。なら、魂魄石を見つける事が出来れば昨日の襲撃事件の中身がある程度分かるな」


 「そう言う事になるね。けど魂魄石をよく2つも持っていたね。凄く高くて二つあれば家一件建つよ」


 ジーナ。


 「きっとご両親はこんな事を想定して持ってたんじゃないかしら?」


 早々に食事を済ますとそのまま寄合所に集まり今後の予定を決める。アギトとリリーナ、ジーナ、ミア、それとコーカス村の腕利きの男性六人の十人でゴータ村の様子を見に行く事となった。


 ジーナ。


 「アギト君、今日は馬に乗るの様(さま)になってるわね」


 「あぁ、だいぶ慣れた。あとアルの感覚にも助けてもらってる」


 ミア。


 「アギトは馬に乗れなかったのか?」


 「あぁ、馬は初めてだったからな」


 「お喋りそこまでよ。さぁ、急ぐわよ」


 それぞれ馬にまたがりゴータ村に向かう。アギトはそこでジーナさんの服に目をやった。


 アギト。

 昨日と同じ服だが、やたらと胸元が開(はだ)けるてるな。馬の振動で大きな双丘がこれでもかと言うぐらい揺れてるぞ。いかん、どうしても目がいってしまうな。あれワザとだよな。


 今度はリリーナとミアに目を向ける。

 リリーはジーナさんから借りたスミレ色の上服に、下はデニムか。ミアは昨夜の部屋着と同じで赤いビスチェにホットパンツか…着替えろよ。



 ゴータ村に行く途中、盗賊を斬った場所を通る。そこには真っ二つになったままの遺体と馬があった。


 ミア。


 「す、凄い。これ、キミがやったの?」


 「あぁ」


 他の男達も驚く。アギトは馬から降りると何かを探す。


 ジーナ。


 「何を探してるの?」 


 「いや、何でもない」

 やはりないか。


 アギト以外は首をかしげる。


 「時間を取らせて悪かった。さて、行こうか」



 一行は再びゴータ村に向けて出発した。


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