第3話 リリーの生い立ち

    ~お家騒動~


 ドーナツ型の地図には幾つかの国の名が記されていた。東側はザイン帝国で約4割の領土。西側はコンベール大王国で約4割。南側にスタンリー王国。北側にミナギ教国。両国がそれぞれ約1割。中央にはバカデカい湖、霧の湖。大陸の外側は海になっていた。


 ちなみにスタンリー王国は海に面しており湖には面していない。逆にミナギ教国は湖に面しているが海には面していない。ザイン帝国とコンベール大王国は湖、海、両方に面していた。


 村長が地図に記されている、ある小さい国を指す。


 「我々がいるのが、この小さい国スタンリー王国じゃ」


 地図から指を退けると、アギトの方に顔を向ける村長。


 「実は半年前に国王が死去されたんじゃが、跡取りを決めずに逝ってしまわれた」


 アギト。


 「それは大変だな」


 「死去された日は次の国王を発表する日の朝じゃた。候補は2人。

 

 まず1人は長男で第1王子、クラーク・ドミニク・スタンリー。このお方は母親が第2夫人じゃ。

 もう1人は次男で第2王子、カーシー・ドミニク・スタンリー。こちらは次男じゃが正室の子じゃ。


 第1王子は相当な女好きらしく、陰では『バカ王子』と呼ばれておる。しかし、気前が良いため宮中では支持者が多い。しかもその後ろ盾には帝国がついておる。


 第2王子は狡猾で慎重な策士。そのため宮中では密かに押す者もいる。こちらの後ろ盾は大王国じゃ」



 腕を組んで聞いていたアギト。


 「一種の代理戦争みたいなものか。しかし話を聞くと発表する朝か。王になれないとわかったどちらかの陣営が殺った可能性が高いな」


 「やはり、アギト殿もそう思われるか」


 「誰でもわかる事だ。待てよ、じゃあ、この国は今王様不在なのか?」


 「そう言う事じゃ。今、政務を司るのはコネリー・アイマ・ラッセル卿じゃ。このジーナの祖父じゃ」


 「「えっ!!」」


 アギトとリリーナは顔を見合わせて驚く。


 アギト。

 良いところのお嬢様じゃないか。なんでこんな村にいるんだ?


 ジーナはバツが悪そうにリリーナを見て語り出す。


 「リリーちゃん、この村はいつできたか知ってる?」


 「さぁ? 15年ぐらい前ですか?」


 「そうよ。貴女今年でいくつなる?」


 「あ、15才になります」


 「この村は貴女を守る為に造られたのよ。お爺様の意向でね」


 「な、なんでですか?」


 「それは貴女が、この国の王の娘だからよ」


 「「はぁ?」」


 アギトとリリーは再び顔を見合わせ驚く。変に気が合う二人。

 

 「貴女の本当のお父様の名は、ブルーノ・ドミニク・スタンリー。この国の王だった人よ」


 ジーナはチッラとアギトを見る。


 「レーン・ブーリンはアル君、アルト・ブーリンの父ではあるけど貴女の本当の父親ではないの。彼は育ての親よ。貴女の本当の名はリリーナ・ドミニク・スタンリーよ」


 「私みたいな田舎娘が?」


 胸に手を当てるリリーナ。


 「今夜は話が凄すぎて付いていけません。もうお腹一杯です」


 「そうね。でも、これを理解してもらわないと、夕方のゴータ村襲撃事件は分からないわ。我慢して聞いてね」


 「はぁ、はい、分かりました」


 一呼吸おいて話し出すジーナ。


 「ある日、ブルーノ王は狩りに出かけたの。その狩り場の近くで休憩した村がゴータ村。そこで接待していた1人に貴女の母ダリアさんがいたの。どうやらその時にお手が付いたみたいね。まさか1回で身篭ると思わなかった王はそのまま忘れていたみたい。


 ダリアさんは産後の肥立ちが悪く貴女を生んで、暫(しばら)くして亡くなったの。1年後、ダリアさんが貴女を出産した事を知った王は、貴女を王宮には迎えず認知だけしたの」


 アギト。


 「酷い話だな。でも何で王はその事を知ったんだ?」

 

 「ダリアさんの祖母が村長と相談し私のお爺様に手紙を出した事で分かったの。王は正室と第2夫人がいるこの宮殿にリリーちゃんを迎えなかった。多分、争いに巻き込みたくなかったみたい。そこでお爺様に一任。当時、騎士長と副騎士長だったアル君のご両親を新たにリリーちゃんの親として面倒をみさせたわけ。ゴータ村で」


 「そこで何故コーカス村が出来たんですか? よく分りません」


 「それは第1王子と第2王子が仲が悪く手が付けれなかったから。王子と言うよりは母親の確執が問題ね。王は2人の跡取りに国を任す事を不安を感じ、まだ幼女のリリーちゃんの体にある細工を施したの」


 「細工?」


 「その前に、何でこの小さな国は他の大国に挟まれながら侵略されないのか不思議に思わない?」


 ジーナは人差し指を地図にはわせ小さいスタンリー王国を指す。


 「何故ですか?」


 「それは500年位前に帝国が圧倒的な兵の数で攻め込んで来た時、散々に叩きのめした事があったの。その追い返した物が何か? それこそがスタンリー王国の財産であり秘密の何か。それが何なのか今となってはわからないの。その秘密の場所を記したのがリリーちゃんの体のどこかに記されているの。その秘密を、そしてリリーちゃんを守る為にこの村が出来たの」


 「凄い話になってきたな。俺の推測だが第1王子か第2王子、もしくは両方か? リリーの存在を知り彼女を奪うために、今回襲ってきたわけか?」


 「私はそう思っているわ」


 「そしてその何かを解くカギが貴方の刀と、リリーちゃん自身なの。2つが揃わないとそこには辿り着けない」


 「だから刀を召喚し1本に戻し、本来の力を得る必要があったのか」


 「そう言う事。ちなみにこの世界では剣が一般的であり、刀はアル君しか持ってないの。ブーリン家の家宝ね。まぁ、私が知らないだけで他にも刀があるかも知れないけど」


 「じゃ、村は私の事で巻き添えになったと言う事ですか? そんな……そんな!」


 周り者達がリリーナに同情的な目で見守る。


 「私が…私があの村で生まれなければ…誰も死ななかった…いゃーー!!」


 「落ち着けリリー! お前のせいじゃない!」

 

 アギトは落ち着かせるため彼女の肩に手を添えた。その時ドアから誰かが入って来た。その人物は全身黒装束で顔も黒い布で隠していた。急いで来たのか肩で大きく息をしている。黒い布を顔から解くと、中から綺麗な赤い髪が現れた。ポニーテールに結って、碧い目をした美人。ジーナの妹ミアだった。


 「さっきゴータ村の盗賊共が警備隊に全員殺された!!」


 「「「「「何だって!!!!」」」」


 そこにいた全員が一斉に声を上げる。


 ジーナは立ち上がりミアに詰め寄る。


 「早い、早すぎるわ! 何で?」


 「そんなの知らないよ! ボクは事実を言っただけだ」


 ミアは男勝りで自分の事をボクと呼ぶ。


 「ごめんなさい。つい興奮して」


 アギトはジーナに問いかける。


 「早く盗賊が処理出来たのは良い事じゃないのか? 何か問題でも?」


 「アギト君、この世界では国の警備隊は動くのに1~2日かかるものなの。それがこんなに早く動くとは。考えらるれるのは事前に用意していた。つまり今回の襲撃事件を知っていた。しかも全員殺したとなると口封じとしか思えないわ」


 「じゃ、第1王子派か第2王子派のどちらかが仕掛け、どちらかの陣営が火消しにまわったのか? もしくは自作自演」


 「自作自演?」


 「自分で盗賊を仕掛けておいて、口封じをしたとか?」


 「その可能性はあるわね……何にしても情報が少なすぎるわ」


 村長がアギト達の様子を見て口を開く。


 「とにかく、今日はもう暗くて無理じゃ。明日、改めて考えよう。お前さん方もお腹が減ったじゃろ。一度お開きじゃ。悪いがジーナよ、2人に食べ物と寝る所の用意を頼む。あと村のみんなは臨戦態勢じゃ!」


 アギトは窓越しに外を見ると、空はすっかり暗くなっていた。


 「ミアさん、父様や母様がどうなったか分かりませんか? 無事に逃げ出せたかどうか?」


 「ゴメンね、リリー。ボクが最後に見た時は盗賊達と戦ってた。後は分からない」


 涙目のリリーナはうつむく事しか出来なかった。


 アギトの顔をまじまじと見るミア。


 「キミはアル君?」


 「あぁ、俺はアギトだ! 龍宮アギト」


 「キミ、いくつ?」


 「17だ。ミアと同じだ」


 「ボクと同じ歳か。まぁ、よろしくね」


 2人の会話に入るジーナ。


 「ここではなんだから、食事でもしながら話ましょう。私達の家はここから100m先よ」


 アギト。


 「ん? 不思議に思ったんだが、距離の単位が俺の国と同じなんだけど?」


 ミア。


 「知らないよ。これはミナギ教国の姫巫女様が大昔に決められた事だから」


 「遙か昔ていつだ?」


 「知らないって」


 こうしてジーナとミアの家に向かうアギトとリリーナ。





     ~家~


 ミア。


 「さぁ着いた。ここが僕達の家だよ。ゆっくりくつろいで」


 その家は2階建てで西洋の農村を思わせるレンガ造りの家。家の中は4DK。ジーナとミアの二人では大きいサイズだった。


 ジーナ。


 「じゃ、私はご飯の用意をするからミアは2人を部屋に案内して」


 「分かった。じゃ、リリーは2階に付いて来て。アギト君はここで待ってて」


 ミアとリリーナは2階に上って行く。


 「リリーの部屋はここだよ。今は使ってないけどマメに掃除してあるから」


 「この部屋は?」


 「妹のソフィアの部屋だよ」


 「そう言えばソフィアさんは、シスターの見習いをされてましたね」


 「もう5年位経つかな。時々帰って来るけど最近は会ってないね」


 「どこの教会でしたっけ?」


 「エスター教会。ここより田舎だよ」


 「エスター教会て、帝国と大王国の境目ですよね?」


 「うん、ソフィアはボク達三姉妹の中で一番回復魔法の素質があったんだ。だから上級魔法を習得する為に教会に行ったんだ」


 「そう言えばジーナさんやミアさんは回復魔法はどれくらい出来るんですか?」


 「初級と中級の間位かな。リリーは?」


 「私もお2人と同じ位です」


 「じゃ、あんまり大した事ないね」


 「ないよりましですけどね」


 「そうだね」


 「「アハハハハ」」


 「話は変わるけど、あのアギトとかいう人は信用出来るのかな?」


 「分かりません。だけど悪い人ではないと思います」


 「まぁ、それは分かるけど。その話は姉さんとするか…リリー、無理に明るくしなくていいんだよ」


 悲しげな顔に戻るリリー。


 「……」


 「……ゴメン。ご飯が出来るまでゆっくりして。出来たら呼びに来るから。一度下に下りてアギト君に部屋の案内してくるよ」


 リリーナは1人になると、涙で溢れシーツを濡らす。そして心の中で叫ぶ。


 (とーさーまーー!! かーさーまーー!! にーさまーー!!)




 1階にいるアギトとジーナ。


 ジーナ。


 「ところで、アギト君て強いのね」


 「どうかな?」


 「だってアナタが斬った、あの盗賊と馬。真っ二つだったじゃない」


 「必死だったからな」


 「何かやってたの」


 「剣術を少しね。でも人を斬ったのは初めてだ」


 「えっ、ウソ! とても初めて人を斬ったなんて思えない斬り口よ」


 「それには俺自身驚いてる」


 「そ、そう」



 2階からミアが下りて来る。


 「待たせたねアギト君。キミの寝る所はこのリビングでいいかな? 他に部屋がなくて」


 「ミア、それは失礼よ。私の部屋で…」


 話の途中で言葉を遮るミア。


 「この人はまだ信用が出来ない。少なくてもボクは信用していない」


 アギトを見るミア。


 「この部屋以外は全て鍵がかけられる。用心の為だよ。いいかなアギト君?」


 「いいよ。外で寝るよりはましだ」


 「良いてっよ、姉さん」


 「ミア、アンタね」


 ジーナはミアをにらんでいるが、ミアはどこ吹く風と言うような感じだ。


 「ゴメンなさいねアギト君。ミアにはよく言っておくから」


 「それより姉さん、ご飯の支度はまだ?」


 「もう、出来たわよ」


 「余り時間がなかったから簡単なモノしか出来なかったわ」


 「やった! じゃあ、リリーを呼んで来る」


 「ミア、アナタ服を着替えてきなさい!」


 「は~ぃ」


 2階に上がるミア。ジーナはアギトの前で頭を下げ申し訳なさそうに謝る。


 「ゴメンなさいね。貴方をこの世界に呼び出し、あまつさえこの仕打ち。本当にゴメンなさい」


 「かまわない、気にしてないから。それに俺が彼女の立場なら同じ事をしたと思う」


 「そう言ってくれると助かるわ」


 しばらくして2人が下りて来た。


 「ジーナさん、ご飯までお世話になってすみません」


 「お待たせ! 着替えてきたよ」


 リリーと共に下りて来たミアはラフな格好に着替えていた。胸元の大きく開いた赤いビスチェに、下はデニムのホットパンツ。しかもジーナさんほどではないが、かなり大きく張り出した胸。はっきり言って目のやり場に困る。


 ミア。


 「なに胸を見てんのよ、スケベ」


 ジーナ。


 「アナタがそんな格好してるからでしょ」


 「いいじゃないか、ここはボクの家だよ。好きな格好で!」


 「今日は男の人がいるのよ」


 「分かったよ! それより早くご飯、ご飯」


 全員席に着くと手を合わせた。


 「いただきます」


 献立は野菜スープに、鶏肉のソース炒め、そしてやや固めのパンだ。中々美味い。何も食べてなかったので、ついガッツイテ食べてしまった。リリーはやはり食欲がない。


 「リリー、しっかり食べないと明日動けないぞ」


 「キミはリリーに馴れ馴れしいな。けどアギト君の言うとおりだよ。明日動くならしっかり食べておかないと困るのはリリーだよ。食べたくなくても無理にでも食べないと。それにこの鳥の炒め物は姉さん自慢の一品だから、絶対に美味しいから」


 「そうね。自分で言うのもなんだけど結構、美味しいわよ。ミアが作ると美味しくないけどね」


 ふくれるミア。


 「姉さん、余計な事言わないでよ!」


 「「「はははははは」」」


 「アギト君、キミ笑い過ぎ!」


 アギトをにらみ付けるミア。

 食事が終わり、お風呂をすますとソファーに寝そべるアギト。


 ジーナさんは俺の事を知りたがっていたが、疲れていたので明日にしてもらった。やっぱり電気はないか、水道も。


 国切丸を手にし、見つめるアギト。


 「お前も、ストレンジソードと融合したのか?」


 時間が経過する。


 「見つめても、返事するはずないよな」

 バカか俺は。


 赤い月の光が近くの窓から差し込む。


 「やたら明るいな、この世界の月は」


 顔に月の光を浴びながら、深い眠りに就くアギト。すると暗闇の中から誰か俺の方に近づいて来る。


 アギト。


 「誰だ?」


 謎の男。


 「初めまして龍宮アギト君。自己紹介が遅れたね。僕がアルだよ。正確にはアルト・ブーリン。暫くの間よろしくね」


 「アル、今回はよくもやってくれたな!」


 アギトはアルに近づくと、襟を掴む。


 「そう邪険に扱わないでくれよ。悪いと思ってるんだからさ。それに僕自身も被害者なんだから」


 「お前が言うか!」


 「それより昼間リリーを助けてくれてありがとう」


 襟から手を離すアギト。


 「お前に言われなくても助けた。人として当たり前の事をしただけだ」


 「そうは言っても中々出来ないよ。ましてや人を斬るなんて!」


 「そりゃそうだな。ところでさっきの『暫らくの間』とはどう言う事だ?」


 「抜け目ないね。これならリリーを任せても大丈夫だ。『暫らくの間』と言うのは当分の間、君の魂に僕の魂がお邪魔すると言う事だよ。このまま行けばいずれは魂の融合は起きるけどね。既に身体の融合はすんでいるよね」


 「もしかすると、盗賊を斬った時、相手の動きがゆっくり見えたり、いつもより速く走れたりしたのは、融合のせいなのか?」


 「そうだよ。自分でもこんな事になるとは思わなかったけどね。あとキミにお願いがあるんだけどいいかな?」


 「なんだ?」


 「僕の我儘(わがまま)で悪いけど、その力でリリーを守って欲しい。これから彼女には大きな試練が待ち受けている。その為なら僕の力をキミに譲るよ」


 「でもアイツはお前の本当の妹じゃないだろう?」


 「長い間、兄妹で育ったんだ。本当の兄妹以上だよ」


 少し考えるアギト。


 「分かった。引き受けよう。初めっからそのつもりだったしな」


 「ありがとう。アギト君」


 「ところで完全なる魂の融合は、いつになるんだ?」


 「それは僕にも分からない。ひょっとして明日なのか、1年後なのか、それとも5年後なのか」


 「やけに大雑把だな」


 「ごめん」

 

 「分からないものは仕方ない。最後に一つ確認だが。アル、お前はリリーの事を1人の女性として愛してるな? 俺にもある程度分るんだ。お前の考えが」


 「……そうだね。魂の融合は隠し立てが出来ないからね。その通りだよ」


 「そしてお前のその気持ちが俺の心にも流れ込んできてるんだ。何が言いたいか分かるな、アル」


 2人の間に沈黙が流れる。


 「……よろしく頼むよ」


 「……分かった」


 彼は頭を下げるとそのまま消えていった。





     ~アルト・ブーリン~


 アギトが自宅で国切丸の鑑定を頼んでいた頃、時を同じくしてコーカス村の小さな建物の中である儀式が執り行われようとしていた。


 村長がアルトに何か話をしている。


 「よいなアルト殿。君の妹、いやリリーナ様をお守りする為、ストレンジソードと対を成すと言う刀を是非にも召喚しなくてはならない」


 うなずくアルト・ブーリン。


 「それと同時に融合もしなくては意味がない。これを一度に成す召喚・癒合魔法を執り行なう」


 「はい、分っています。ですからソードの持ち主である僕がここに居るのですね」


 「うむ。ではアルト殿この台にソードを置いてもらえるかな」


 「分かりました」


 部屋は地下室の為、昼間でも薄暗い。部屋の中央には縦長の台があり、その周りには足の長い燭台が四つ置かれていた。さらにその周りを聖職者と思われる男性が2人、女性が2人が囲んでいた。その台にソードを置くアルト。そして儀式が執り行われる。何やら呪文らしき言葉を吐きながら。

 暫くすると台に置かれたソードが赤く光り出す。だが光るだけで何も起こらない。誰も言葉を発しない。皆が同じ思いを口に出す。


 「「「まさか失敗した?」」」


 事態を観ていた村長が一歩前に出て言葉を発する。


 「もう一度じゃ。成功するまで何度でもやるんじゃ」


 うなずく聖職者達。


 だが、何度も何度も繰り返すが成功しない。遂にはあきらめて日を変える事となる。アルトは一度家に帰る事にする。その帰り道アルトは酷い酔いに見舞われる。


 「うぅぅ…気持ち悪い。なんなんだこれは!」


 アルトの頭上には赤い空間が発現する。


 「まさか、今来たのか? もう一つの刀が」


 道端に倒れ込むアルト。その瞬間アルトの姿が消える。暗闇の中、落ちて行く感覚に見舞われる。自分の足元に近づいて来る者がいた。


 「誰だ?」


 そこには自分と同じ顔、同じ背格好の人間がいた。その人物は自分と同じ様な刀を持った男性だった。その時アルトは確信した。召喚が成功したんだと。そしてアルトはその人物に声をかけた。


 「やぁ!」


 少しの時間が流れる。気が付くと自分の身体はなく意識だけがあった。


 僕は今の男性に憑依してしまったのか? いや、一部になったのか? 分からない。


 すると彼の目を通して妹・リリーナが何者かに追われているのが見える。


 リリーが危ない! しかし、今の僕には身体がない。彼に頼むしかない

 「リリーを、僕の妹を助けてくれ!」


 男はその声を聞くと、見事にアルト・ブーリンの気持ちに応えた。


 「彼も剣術をやっていたのか? リリーを追っていた者を一刀両断するとは。しかも、馬ごと! 僕の剣技とは違うけど凄い腕前だ」


 時間が経つにつれ、心と心が少しづつ融合する。すると身体の融合が本格的に始まる。男の事が理解できる様になるアルト。


 彼は龍宮アギトと言うのか。彼なら、いや彼にしかリリーを預けられない。


 アルトはそう心に決めると徐々に意識を手放した。

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