第2話 2人で1人

     ~コーカス村~


 3キロぐらい移動した所に大きな集落、いや砦か要塞と言ったらいいのか、とんでもない規模の村があった。一辺がざっと300mぐらいのほぼ正方形。集落の周りは4mはある堀に水が張られている。壁の高さも4mはある。端と端には物見櫓があり真ん中に一つだけ橋がある。その橋の両サイドには鎖が付けられておりいつでも橋を引き上げられる様になっている。


 「ここが私の村、コーカスよ」


 ジーナは後ろにいるアギトに振り返り説明をした。


 「これは村じゃないな」


 リリーナ。


 「まるで初めてコーカス村に来たような言い方ですね?」


 ジーナ。


 「それより早く中に入って」


 橋を渡り村の中を見渡す。夕食の支度なのか、各家々の煙突から煙が出ている。すると、村人達がジーナを見つけると駆け寄って来た。その中から体格のいい30代の男性がジーナに語りかけてきた。


 「お帰りジーナ。リリーちゃん無事だったんだね、良かった! それでゴータ村の様子はどうだった?」


 「酷いものよ。それより寄合所に村長達を集めて。その時、説明するわ」


 「分かった」


 男性は雰囲気が変わった、アギトを見て話しかけてきた。


 「ところで君はアル君か? 少し雰囲気が違うな」


 「俺はアルと言う名前じゃない。龍宮アギトだ」


 「やはり、兄様じゃないんですね。では兄様は何処に行ったんです? 何故、貴方は私の名前を知ってたんです?」


 ジーナ。


 「落ち着いてリリーちゃん。それもまとめて話をしましょう」


 ジーナはアギトとリリーを村の中央にある寄合所へと案内する。入ってすぐに大きな丸いテーブルがあり、備え付けのイスに座る。村長と村の代表者達がテーブルへと急ぎ集まる。アギトの右隣にはジーナ、左隣にはリリー、前には村長が座る。まず初めに村長がジーナに質問をする。


 「ゴータ村の様子はどうじゃった?」


 「酷いものね。多くの盗賊に襲われ、村はほぼ壊滅。建物は焼かれ男性は殺され、女性は…慰み者に。悪いけど私には何もできなかったわ」


 「まあ、何しろジーナが無事で良かったわい」


 リリーナ。


 「私の父様や母様はどうなったかわかりませんか?」


 「ごめんなさい。安否は確認できなかったの」


 「……そうですか」


 涙を堪えながら俯(うつむ)くリリーナ。小さな肩を震わしていた。


 「あとでミアが詳しい状況を報告してくれるはずよ」


 アギト。

 ミアは確かジーナさんの妹だよな。何故、知らない情報を知ってるんだ、俺は? それより今はリリーだな。


 「大丈夫か? リリー」


 「はい」


 重い沈黙が続く。


 「ところでジーナさんは俺の事を知っている様子だったけど、何故だ?」


 「まずその事から話をしましょうか。まず貴方はこの世界の人じゃないと思うの。貴方のその服はこの世界にないし貴方の使った剣技は見た事がないわ。多分私達が行った儀式に巻き込まれたんじゃないかと思う」


 「どう言う事だ?」


 「私とここに居る人達は、ある事から伝説の刀が必要になったの。私達のいるこの世界パンゲアでは1000年前に大陸全土を巻き込む大きな戦争があったわ。その動乱を安定に導いた人が持っていた刀がストレンジソード。未知なる力を備えた刀よ。


 だけど、その大きな力に危機を抱いた人達が研究を重ねレプリカの刀を作りその力を分てしまったの。それが今から500年ぐらい前。私達はそれを召喚し一つに戻したかった。二つに分散された力を再び一つに戻し、ある事を成し遂げる為に」


 国切丸を手にするアギト。


 「その一振りがこの国切丸か。これをたまたま持っていた俺は、巻き込まれて召喚されたと言う事か?」


 「そうなるわね。多分」


 「信じがたい内容だ。何かそれを証明できるモノはあるのか?」


 「じゃ、その証拠を見せるわ」


 ジーナは村長に顔を向けると、無言でうなずく。許可を得たジーナは、アギトとリリーを連れて小さな建物に移動し、地下に下りて行く。


 「ここがそうよ」


 そこには足の長い燭台(しょくだい)(ロウソクを立てる台)が四つあり、その真ん中には縦長の台があった。


 アギト。


 「これが証拠なのか?」


 ジーナ。


 「そうよ。これが召喚台よ」


 「これで信じろと?」

 

 「これ以外はないの。残念だけど」


 複雑な顔をするアギト。


 「……分かった。納得できないが仕方ないな」


 「ゴメンね」


 2人のやり取りを見ているリリー。


 「兄様は。私の大好きな兄様は何処に行ったんですか、ジーナさん」


 「それは……分からないわ、リリーちゃん」


 「そんな」


 愕然とするリリー。そんな彼女の肩に手を乗せ悲しい顔をするジーナ。


 「一度、寄合所に戻りましょう」


  

 寄合所に戻った3人。


 アギト。


 「では、この世界は俺のいた日本じゃないんだな? ……国切丸はアンタ達にやるよ。必要なモノなんだろう? だから俺を元の世界に帰してくれないか?」


 「ごめんなさい、帰る手立てはないの」


 「ジーナさん、アンタふざけないでくれるか? こっちの世界に来れたんだ。だったら元の世界にも帰る方法もあるだろう? 帰してくれ!」


 「本当にごめんなさい。帰る手段は古文書にも他の文献にも書かれてないの」


 「なっ!」


 ジーナはテーブルに頭をこすりつけて謝る。そこにリリーナが口を挿(はさ)む。


 「元の世界に戻りたいと言う、アナタの気持ちは分かります。でも、私は両親と兄の安否が分からないんです! どちらが重大かは分かりますよね?」


 「俺は好きでこの世界に来たんじゃない! リリーの気持ちも分かるが、俺の……待てよ。何故、俺はリリーやジーナさんの事を知っている?」


 ふくれ面のリリーナ。


 「知りません! それと気安く私の事を『リリー』と呼ばないでください!」


 考え込むアギト。

 落ち着いて思い出すんだ。リリーを助ける直前、俺は確かに声を聞いた。『リリーを、僕の妹を助けてくれ!』頭に響いたあの声は……まさか。


 「さっき村の人達が俺の顔を見てアルとか言ってたな。リリーも俺とアルを間違えた。普通、兄妹を間違える事はない……そいつは俺に顔や背丈が似ていて髪が赤く、上下の服が茶色ぽい色。靴は黒のブーツ。腰に刀を差してなかったか?」


 驚くリリーナ。


 「そうよ! 何処で会ったの?」


 アギトは親指で自分の胸を指す。


 「多分、アルは何処を探してもいない。あいつは多分、俺の中にいる」


 唖然とする一同。少ししてどよめきが起こる。


 「「「えぇぇ?」」」


 ジーナ。


 「どう言う事?」


 「俺がこちらの世界に来た時、暗闇の中でそいつとすれ違ったんだ。そこで俺とあいつはぶつかり、気がついた時にはあの道の近くで倒れてたんだ」


 説明していると、俺自身の頭の中が整理されてきた。どうやら自分で答えを導き出したようだ。


 リリーナ。


 「それがどうして、アナタの中に兄様がいる事になるんです?」


 「リリー、お前が盗賊に追われていた時、俺の頭の中で声が聞こえたんだ。『リリーを、僕の妹を助けてくれ!』と。だから俺はお前の名前を知っていたし、ジーナさんの名前も知っていた」


 「ありえない事ではないわね。だって私達が行っていた召喚魔法は、もう一つの刀を召喚し、二つの刀を一つにする魔法だったから。刀が一つになった時、アル君と背格好や顔が同じだったアナタが重なり合って一人の人間が誕生した。無理があるけど一応、話の筋は通るわね」


 「ありえないです、そんな事! 普通、2人が1人になりますか? 私は今までそんな話きいた事がありません!」


 否定するリリーナ。


 「しかし、今も俺とアルの意識が混ざりあって考えが一つにまとまらない。さっきまでは何もなかったが、リリーに会ってからはアルの記憶が大量に流れ込んで来るんだ。そうだな、信じられないならリリーの秘密を一つ教えようか?」


 驚くリリーナ。


 「えっ?」


 アギトは彼女の耳元に口を近づける。


 「お前、最近アルの下着の匂いを嗅いで、ウットリしてる処を見つかったよな」


 真っ赤な顔になるリリーナ。


 「な、何で、何で、そんな事を知ってるんですか?!」


 「どうしたの、リリーちゃん?」


 リリーナは気を取り直し、真面目な顔をジーナに向ける。


 「な、何でもないです。それよりアナタは、以前アル兄様から聞いたんじゃないんですか?」


 「まだ疑うのか? ならまだまだあるぞ。最近お前下着の色を白から黒#$&#$」


 アギトの口を両手で塞ぎながらにらみ付ける。


 「信じる、信じるから……もう言わないで!」


 「あら、もうおしまい? お姉さんはもっと聞きたかったのにな。後でコッソリ教えてね、アギト君」


 アギト。

この人、ヒソヒソ話が聞こえてたな?


 「ところでさっき私が話した事、アル君の情報で分からないの?」


 「ああ、リリーの情報ばかり流れてきて、他の情報が入って来ない。かなり、リリーの事が心配だったみたいだ。あと俺はいきなりこちらの言葉が理解できたが、これもアルが影響しているのか?」


 ジーナは腕を組みながら答える。


 「分からないわ。でも、そうだと思う」


 「じゃあ、アルと融合した事で、俺はこちらの言葉が理解できたとゆう事か?」


 「そう言う事になるわね。まあ、分からなくても言葉を理解できる魔法があるから問題はないわ」


 「スゴイな! そんな便利な魔法があるのか! じゃあ、火とか水、風の魔法とかあるのか?」


 「ええ、指先から少し火を出したり、顔を洗う水を出すくらいならあるわ」


 「町を焼き尽くす炎とか、水で町を押し流すとかないのか?」


 「そんなのないわ。それは貴方の世界ならあるの?」


 「いや、俺のいた世界の本の中によく出てくる作り話だ。気にしなくていい。そんなことより、『ある事を成し遂げたい』と言ってたな。『ある事』とはなんだ?」


 「それはワシから説明しようかの」


 年の頃なら60才前後の体格のいい村長が口を開く。


 アギト。

 この村の人達は体格がいいな。


 「まず、この我々のいる国が」


 慌てるアギト。


 「待ってくれ、そこから話が始まるのか?」


 「そうじゃな。まず地図を見てもらおうか」


 ジーナは立ち上がると、後ろの棚から地図を持って来てテーブルの上に広げた。そこにはドーナツ型の大陸に各国の名が記されており、中央には湖が描かれていた。

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