キモノ・サルベイション

梅戸藤花

エプロンと化した化繊染めの久留米絣、あるいは着物を布に戻す過程の難しさ

 祖母はとにかく片付けない人なので、彼女の十畳の居室は絵に描いたような汚部屋だった。この日は、埃をかぶった十箱の衣装ケースを、ゴミ、祖母が着る物、貰うものの三つに分ベつしました。何十年前に着たのかわからない町内会の法被や最後に洗濯したのはいつだったのだろうかという風な浴衣風の寝間着に紛れてそれはあったのです。

 深藍の地に黄色赤白で木の葉を模った木綿の着物。一発で久留米がすりと分かる。樟脳の臭いと埃臭さに辟易しながらも、これを頂いた。

 衣装ケースの九割はゴミで、祖母の普段着によさそうなインド綿のチュニックが三枚。それから久留米絣の着物。それが今日の漁果でした。

 家に帰って着物を洗濯ネットに入れてアクロンとダウニークリーンブリーズの香りと共に手洗いコースで洗濯。バスタオル用の長いハンガーに久留米絣を干す。ついでにチュニックも干しました。余談だが家には三台洗濯機があるのです。

 母が、久留米がすりでエプロンを作ってと言うので祖母の着物リユース第一弾はエプロンに決なりました

 

 まず、基本情報としてこの文を書いている梅戸は、着物の畳み方、着物の品格、TPO、保管の仕方は知っているものの、洗濯というのは業者に頼むのが常道と思っている。そして、手芸に関しては多少洋裁の心得がある程度です。

 今回の久留米がすりの仕立ては、一重。読者の方が想像される“着物”には振袖や黒留袖のような裏地のついたものと、浴衣のような裏地のないものに大別されると思う。それはざっくり言ってフォーマルかカジュアルかの違いである。とりあえず、この久留米絣の着物は一重なのでカジュアルな着物と思っていただければ分かりやすいと思います。

 それを踏まえて、着古され、木綿独特の柔らかい手触りの久留米がすりを洗濯した際も、着物って言っても元は木綿。所詮セルロース。つまりコットンのシャツめいて洗っても大丈夫だろうとドラム式洗濯機にぶち込みました。後で知りましたが、藍染の着物は染料の藍が色移りの原因になるのですね。無知とは恐ろしいものです。

 始めに、着物を解いたことのない梅戸はとりあえず袖を糸切ばさみとカッターを使って幅三十六センチ長さ一メートルほどの布に戻しました。次にどこを解けばいいか分からない梅戸は裾を解きました。

 それから、背中心の縫い目を解き、脇、前面の身巾などを解きました。残るは衿だけです、これが、表から縫い目が見えなかったので布を引っ張って縫い目を探して少しずつ解きました。これで幅十八センチほどの布と幅三十六センチの長い布ができました。

 インターネット検索システムで簡単なエプロンの作り方に目を通した後、久留米かすりはエプロンの身頃に、衿の布は紐になりました。

 エプロンを作り終えて、祖母の久留米がすりとは一体どんなものだったのだろうと再びグーグル検索したところ、本来の久留米がすりは自然染料の藍を使って染めるが、一部は化学染料で鮮やかな色柄を持つものもあるそうでした。

 堅牢な化学染料で染めた布の為か、エプロンとなっても何度洗濯しても色落ち色移りなく木綿独特の風合いはそのままのようで、母はガーデニングの時に重宝しているそうです。

 久留米がすりのリサイクルを終えて梅戸は思いました。ちゃんとした解き方を学ばないと解く時にすごく大変だと。まだまだ祖母の部屋には箪笥が二棹、衣装ケースが十箱くらい残っています。

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