ゴミの分別

 昔、ゴミを分けて捨てることがなかった時代。公園のゴミ箱に空き缶と瓶とペットボトルが入っていました。回収業者を待つ間、三人は「一番優れた容器」をテーマに話し合っていました。しかし、三人とも自分こそが優れていると主張して誰も譲ろうとしませんでした。ゴミ箱暮らしの古株、空き缶はカランコロンと壁に体をぶつけて自慢の音を鳴らして主張します。

「どうだ!この頑丈な体は!瓶小僧やペットボトルの小娘では割れたり凹んだりして形が変わってしまうだろうが、俺様は違う!常に同じ形を保つ俺様こそ優秀なのだ!」

ふん、と鼻息を噴く空き缶に、チンチロチンと瓶が異議を唱えます。

「何言ってるんだ!一番小さな体で入れ物として、量が入らないのは致命的さ!僕を見たまえ!くびれた美しい体、そして君たちの中で一番の容量を持つ…最も優秀なのは断然この僕さ!」

ふぅん、と鼻を鳴らす瓶の尻を小突いて、今度はペットボトルが口を開きます。

「お尻にひび割れ作って何言ってるのよ、このナルシスト野郎は。確かに体は凹むけど、ナルシスト君ほど柔じゃない!そして何より私は持ち運びに便利!蓋を取ったら飲み切らないといけないあんたたちと違って、私にはキャップがある!好きな時に好きな分だけ飲んで、余ってもまた後で飲める!機能面ではピカイチの私こそ最優秀よ!」

ふふ、と自信満々に笑顔を見せるペットボトル。それを待てよと空き缶。ちょっと待ちたまえと瓶。待ちなさいよとペットボトル。三者一歩も譲らず、毎日のように論争は続きました。

 そんなうるさい住人達に、眠りを邪魔されたゴミ箱はとうとう怒ってしまいました。

「こりゃー!お前らいい加減にせんか!!」

ゴミ箱の一喝に三人は口を噤みます。

「そんなに一番を決めたいならわしが決めてやる!それで文句はなしじゃ!良いな?」

誰の味方でもない客観的な意見がもらえるということもあって、三人はそれに納得しました。ゴミ箱は咳払いを一つして、三人を見渡します。

「一番優秀なのは…。」

三人が熱い視線を送る中、ゴミ箱は空き缶を見つめました。

「空き缶じゃ!中身を保護する丈夫さはまさに無双!うっかり落としても割れたり穴が開くことはほとんどないから優秀と言えよう!」

空き缶は二人に見せ付けるように高らかにガッツポーズを取りました。二人は納得できない表情で空き缶を恨めしく見ていましたが、ゴミ箱は言葉を続けます。

「それから瓶、お前も一番じゃ!その美しい容姿は見ていて映える。容量の多さも他二人にはない特権じゃ!お前の蓋はキラキラしておってわしは好きじゃよ。」

三人は、顔を見合わせました。この流れ…とっても嫌な予感がします。

「そしてペットボトル!お前も一番じゃ!人間の視点で言えば、お前は機能面で実に優れておる!飲み物を好きな時に飲めるというのはありがたいものじゃ。飲み残しも防げて無駄もなくせるからのぉ。」

唖然とする三人をよそに、ゴミ箱はまた一つ咳払いをして話をまとめました。

「詰まるところ、お前たちの誰もが一番に優れておる!各々が短所を持ちながらも、それに代わる長所を持つ。他にない各々の優れた長所は紛れもなく一番だとわしは思うぞ。比べることなぞ不毛な程に、な。この場で一番を一人に絞る必要があるのか!?一番が三人いてはいかんのか!?」

「いかんな。」「いけませんね。」「いかんでしょう。」

三人が口を揃えて異議を申し立てると、ゴミ箱は怒りを通り越して呆れてしまいました。

「お前たちも頑固じゃなぁ…。わしの意見を素直に聞き入れるのが道理だと思わんか?お前たちの意見よりも尊重されるべきだと思うのじゃが。」

「何でだよ?年の功っていうオチなら納得しねえぞ?」

空き缶が顔をしかめて文句を言うと、ゴミ箱は体を揺すりました。バランスを崩して三人はコロコロと転がり、体勢を整えてたところでゴミ箱が話し始めました。

「ワシの中にはお前たちがおる。つまり、中身があるということじゃ。対してお前達はどうじゃ?今のお前達の中身はカラッポ。中身が詰まっておる方が話に重みがあるのではないか?」

三人はそれぞれ体を揺すってみました。飲み物が入っていたときの重さは当然感じられません。お互いがお互いの様子を見ているうちになんだか虚しくなってきました。追い討ちを掛けるようにゴミ箱は続けます。

「中身だけではない。ペットボトルはご自慢のキャップが外れておる。空き缶や瓶も同様にな。中身も蓋もないお前たちの話なぞ、言葉通り身も蓋もない話なのではないのか?」

ゴミ箱の言葉に三人は俯いて黙ってしまいました。三人とも確かにそうだと妙に納得した様子で大人しくなったようです。これでゆっくり眠れると、ゴミ箱は目を閉じて眠りにつきました。


 業者がゴミを回収に来た際、ゴミ箱は業者のおじさんに、三人の話を聞かせました。すると業者のおじさんは大笑い。

「他のゴミ箱も文句たれてましたよ。種類の違うゴミがうるさくてかなわない、って。」

 その後、ゴミ同士が喧嘩をしてうるさくならないようにという配慮で、ゴミの分別が始まったのだとか。

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