第三章 正義の行方

第1話 傷

「おい、起きろ」

「んだよ、こんな夜遅くに」

ここは、刑務所。その檻となる部屋の中に、横になっている男が一人。


「目覚めよ、凶悪殺人鬼――――志田義孝しだよしたか


「ん?」

志田と呼ばれる男は、体を起こした。

「お前、此処の人間じゃねぇな。何者なにもんだ?」

男は扉の窓から覗く眼を睨んだ。

扉の向こうにいる人物は、志田の問いを無視して語る。

「罪無き人を29人殺した鬼よ。穏やかな俗世に今一度、その畏怖を放て」


――――「コォォォン」。


乾いた木材を叩く様な音がした次の瞬間、二人は忽然と姿を消した。







「ここで速報です。昨晩、霧紫刑務所に収監されていた凶悪殺人犯『志田義孝』死刑囚が刑務所を脱獄した、との情報が入りました。周囲の防犯カメラ等を確認していますが、行方は分かっていないとの事です」


朝から騒々しい。

点けたテレビからは、刑務所より凶悪殺人犯が脱獄したというニュースを各局で取り扱っている。

脱獄方法は不明。

完全な密室で発生した証拠の無い脱獄を、世間は飛び付くようにして取り上げる。


「爽弥ぁ、学校に間に合うのぉ?」

母さんがキッチンから学校の心配をする。

「今行くよー」



World Rewrite

第3章 正義の行方



「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい、気をつけてね~」

新しい日々が始まる。

それが普通ならば、陽気に感じられる天気だった。

なぜ感じられないかと言えば、昨日に起きた一件が心に刺さり、駅へと向かう足取りを重くしたからだった。


――――『千年時計が間もなく終わりを迎える。私達は間違いを犯した』。


ウィリス・レクターと名乗る老人が最後に残した言葉。

「外にいる彼女に」、つまりは伝えてほしいと言った言葉。

恐らく魔法関係に違いないと思い、來禾に伝えようとしたが、昨日の一件から姿を見せていない。


「何よ、爽弥。ボーッとして」


突然、後ろから声がかかる。

声をかけてきたのは綾音だった。

「いや、何でもないよ」

「あっそ。元気が無いから声かけてあげたのに」

綾音はそう言って走り去っていった。

僕は変わらない足取りで駅へと向かう。

商店街を抜け、信号待ちをしている時だった。

駅前に人だかりが出来ている。

何事かと、信号が青に変わってから近づいてみた。


――――『蒼霧線運転見合せ』。


どうやら、電車が止まっている様だ。

「ご案内致します。現在、座山と穂積川の駅間で沿線火災が発生しております。その為、蒼霧快急線は葉抹~室戸駅間で、蒼霧各駅停車は葉抹~雫霜月駅間で運転を見合せております」



「遅刻確定じゃん!」

綾音も乗りそびれたらしい。

「どうすんの、これ!」

「どうするって言ったって、どうしようもないよね」

「今日は朝に全校集会があんのよ?」

綾音は一つため息をつく。

「全校集会の中、体育館に遅れて入っていく時の恥ずかしさはありゃしないわ! 嫌なの、あれが!」

「そう言っても仕方がないよ。別の方法かを探すか、再開するのを待とうよ」


そこへ、二人に声をかける少女が一人。

「良かったー、遅刻は私だけじゃないんだね」


「「委員長!」」

学級委員長がいた。

どうやら、乗ってた電車がこの駅で運転を見合わせたらしい。

「そう言えば、委員長の家ってどこなの?」

「確かに。帰る方向が一緒なのは知ってたけど、いつも私達が先に降りちゃうから知らなかった」

「私? 私は、奥部だよ」

「「え!?」」


――――奥部駅。

爽弥達の最寄り駅である谷戸駅から36駅先の駅である。

度々、『蒼霧線の中間地点』と呼ばれる。


「まさか、そんなところから」

「まあね。遠いけど、好きで通ってるからいいの」

「流石、委員長」


「そ・ん・な・こ・と・よ・りッ!!」


綾音が待ちくたびれたと言わんばかりに声を上げる。


「どうすんの? 学校遅れるよ!」

「さて、ここからどうしよう」

「どうしようって言っても、タクシーは割り勘しても高いし、他の方法じゃ・・・」


爽弥達が話していると、目の前に1台の白いリムジンが停まる。

遮光の黒い窓が開く。


「皆さん、ご機嫌よう」


アリアだった。


「お乗りになって。遅刻しますわよ」





リムジンの中は白一色。

窓に取り付けてあるカーテンやライトが、車内を一つの部屋の様に仕立てる。

「助かったよ、アリア。ありがとう」

「いいんですの(爽弥様の為ならばッ!)」

「しかし、本当に高いところを走るんだね」

委員長が窓の外を見て言った。

僕らも外を見ると、車は高い高架の上を走っている。

「皆様は初めてかしら。今、私達が通っている場所は、新都市構想事業団によって建設された『広域高高度高速道路網』。通称、スカイハイウェイ。各新都市を地上50m以上の高さの道路で結んでいるんですの。更に、その素材は核爆弾にも耐えると言われる『超硬コーティング多重層コンクリート』。並大抵の災害ではビクともしませんの」

見た目は普通の高速道路と変わらない。

普通車から大型車、様々な車種が走行している。

目線を遠方へ移すと、太陽の光を照り返す海が見える。

「綺麗…………」

綾音が食い入るように見ている。

「あれは白浜湾。霧紫から一番近い海ですわね」


「ねぇ!」


委員長が何かを閃いたようだ。


「今年の夏は、海に行こうよ!」


「それは妙案ですわね!」

「行こう! 行こう!」

僕は正直、乗り気ではなかった。

しかし、周囲からは賛同を希望する眼差しが注がれる。

僕はそれに耐えられず、答えた。

「そうだね。海、行こうか」





程なくして学校に着いた。

いつもの時間に着き、一安心する。

正門前で降ろしてもらい、教室へと歩き始めた。

すると、アリアが傍に寄ってくる。

「爽弥さん、これを……」

そう言って見せてきたのは、一枚の写真。

どこかの庭園を思わせる花と緑が綺麗な場所が写っている。

椅子と机が置かれたテラスのような場所で、車椅子に座り微笑む白髪が長い少女とその傍らに立つ真面目な顔の二人の男。

一人の男は黒いスーツを、もう1人は白衣を着ている。

「この方々の内、一人でも知りませんか?」

見たところ、面識は無い。

「ごめん、知らないな。この人たちは誰なんだ?」

アリアは暫くの間、顔を俯かせていたがこちらを見て微笑んだ。

「わかりました。ありがとうございます」

そう言ったところで、間を割って綾音が唐突に話しだした。

「ねぇ、春休み中の宿題ってやった?」

「やったに決まってるだろ」

綾音はニヤリと笑みを浮かべ言った。

「ちょっと見せて♪ 数学の宿題だけでいいからさ!」

僕は歩く速さを速める。

「自分でやりなよ。提出は明日だから、まだ間に合うし」

「いいじゃん!」

綾音は頬を膨らます。

「そしたら、力ずくでも!」

綾音は僕のリュックに手を掛けようとする。

綾音から必死で逃げようとしたが、敢えなく捕まった。

僕は、助けを求めた。

「アリア、綾音に何とか言ってよぅ」



「はい。はい、分かりました。直ちに向かいます」



どうやら、指令の様だ。

「申し訳ありませんの。委員長、綾音さん、爽弥さん。指令が下りました、任務に行ってまいりますの」

アリアは何処か浮かない顔をする。

「大丈夫?」

綾音が心配する。

「心配、要りませんわ! それより、先生方に連絡をお願い致しますの」

「分かった、先生には私が伝えておく。気を付けてね」

「よろしくお願いいたします」

アリアは任務へと向かった。



――――天野薬品霧紫工場第三東棟前。

「お待たせいたしましたの、師匠」

「お疲れさま、アリア。現場は…………、見ての通りさ」

巾兼は目の前を指差す。

目の前には、黒く焼け焦げた建物の残骸が山積みになっていた。

そこからは微かに煙が上がっている。

煙たい匂いの中に、仄かに独特な薬品の香りが混じっていた。

そして、建物の前の道路、そこに敷かれたブルーシートの上には、本来の姿を想像できない程に焼け焦げた人の死体が十数体並んでいる。

「うっ。慣れませんわ」

「はは、無理するなよ。さて、この件に関してだが……」

巾兼が言い切る前に、アリアは言った。

「志田義孝。この火災は、単なる事故ではなく、志田義隆によるの“続き”」

「今のところ確固たる証拠は無いが、奴が脱獄している以上、その線は拭えない。アリア……、あの日から気持ちの分別は付いているか?」

「…………」

アリアは無言だった。

「気持ちは分かるが、私達は公安局だ。都市を内部の脅威から守ることが役目。その脅威に情を移すな。例えそれが、過去に同じ時を過ごした知人であろうとだ」

アリアは更なる無言の後、漸くして口を開いた。

「分かっておりますの、師匠」

そこへ、

「巾兼執行官、アリア執行官!」

瓦礫の山から一人の捜査員が二人を呼ぶ。

二人は瓦礫の山を登り、捜査員の元へ向かった。

「これを見てください」

捜査員が指差す先にあったのは、瓦礫に埋もれた建物の床に付いた一つの『傷』。

その『傷』は瓦礫に囲まれ全貌は見えない。

しかし、その一部からして瓦礫によって抉られた傷ではないことは確かだった。

赤い液体で所々色が付いた大きな傷。

「ここに生存者は?」

巾兼は捜査員に問う。

「この一件に生存者はおりません。しかし、この『傷』付近からは一体の焼死体が発見されています。その遺体は『死体L』です。そこの道路に横たわる死体がそうです」

捜査員が指を差すのは、うつ伏せの状態で横たわる一体の焼死体。

その傍には「L」の札が置いてある。

「死体Lは比較的、火傷が少なく、背部には独特な裂傷が見られました。その為、この様に安置しております。一捜査員が憶測を立てるべきではありませんが、恐らくはと同一犯・・・、つまりは志田義孝死刑囚の犯行かと」

巾兼は、一呼吸置いて答えた。

「そうだな。天野家失墜を目論んだ志田義孝が起こした殺傷事件である『散花事件』。嘗て天野家直轄の研究機関であった『Mo-Bic(モービック)』で起きた、過去に類を見ない放火殺人事件だ。死者29人、負傷者37人で火災から命からがら逃げ延びた者の背中には、三本の引っ掻き傷が付いていた。猫や犬といった類いではない、もっと大きな獣による引っ掻き傷。逮捕後に判明したんだが、奴は…………」



「『火焔狼ファイアーウルフ』、炎を操る狼男」



巾兼は、話そうとした部分を捜査官に先に言われてしまい、少々不機嫌になった。

「……よく知ってるね。君が転職してくる前の話なんだけど」

「え、私の事を知っているのですか?」

「知ってるよ。最近、配属された三船晃太みふねこうた捜査官でしょ?」

「はい、そうです! 自分、公安局本部警察機関捜査第七班捜査官の三船晃太と言います! うわぁ、巾兼特級執行官に覚えてて頂けるなんて光栄ですッ!」

「しかし、よく知ってるね。ニュースで取り沙汰されたものの、あまり公にしていない部分も多い事件だ。志田義孝が能力者だってことも公表されていないし、ましてやそれを知るのは公安局の人間だけだ。被害者の調書を見ても、能力について知る者はいなかったんだ」

「はい。一捜査官として、勉強の為に過去の事件・事故等の資料を拝見しています。そこに、『散花事件』もあったもので。志田の能力はそこで知りました……。特殊と言いますか、独特と言いますか、現場の惨状からするに狂気的なものを感じたので、記憶に残っています」

三船は道路に横たわる死体Lへと目を向ける。

死体Lの背中には、三本の引っ掻き傷が付いていた。

体を大きく抉るように付いた引っ掻き傷。

それを見ていたアリアが言った。

「この建物の監視カメラのデータはありますの?」

「それが……」

捜査員はアリアの質問に困った表情で答えた。


「監視カメラのデータは、この建物を含め工場内全てのデータが何者かによって改竄され、火災当時のデータが録画されていません。恐らく、外部よりハッキングされたものと思われます」


「そうですか、分かりましたわ」

巾兼は、眉間にシワを寄せて言う。

「となると、今回の件は志田義孝だけではないという事だ。散花事件は、志田単独による犯行で機器類へのハッキングや細工は確認できなかった。今回、誰かと手を組んでいるということは、目的は『天野家への復讐』ではないのか?」

「利害の一致による、第三者の介入でしょうか・・・」

そこへ、一人の男が声をかける。


「お世話になります、公安局の皆さん」


声がした方へ振り向くと白衣を着た男が一人。

「初めまして。私は、この天野薬品霧紫工場の工場長を務めさせて頂いている瀬川浩一せがわこういちと申します」

「こちらこそ。私はC.D.O公安局執行機関の巾兼由奈、こっちは部下のアリア・バレットです」

瀬川は表情を変える。

「さて、今回の件に関してですが、私共としては公安局にある程度の『責任』があるのでは、と考えているのですがいかがでしょう、執行官様」

「…………責任?」

「はい。この一件はあなた方が想像している通りであろう『散花事件』の犯人、つまりは今朝方から報道されている志田義孝死刑囚による犯行だと考えており、志田義孝をという意味では、公安局そちらに非があるのでは、と」

巾兼は語気を強める。

「何が言いたい」

「言った通りなんですがね……。この『事件』は、世間一般には『火事』という事になっている。それが、として広まれば、公安局あなたたちの立場は危ぶまれるということだ。『脱獄者を野放しにしている』、と」

瀬川は表情を変える。

「フフ。失礼しました。少々、度が過ぎたようで」

瀬川は笑う。

「脱獄は致し方ない、と言うべきでしょう。昨今、超能力を持つ者が増えてきている。いくら対抗しようと策を立てたところで、それを超える能力者が現れる事は私達、研究者も重々承知している。ただ、大切な人を失った遺族達は、あなた方を『無能集団』として目の敵にする事もあるだろう。それを忘れないで欲しい」

巾兼は目線を反らし、頷いた。

「私も一職員として、肝に命じておこう」

「さて、私はあなた方を脅しに来たわけではないのです。本題に移りましょう。まず、今回の放火殺人についてです。これが志田義孝によるものであれば、この一件では終わらないはず。奴は、天野家に恨みを持っていて、天野家の没落が目的だ。また別の施設を狙いかねない。それについて説明がしたい。私に付いてきてくれ」

瀬川は何処かへ向かって歩き出した。

そこへ、アリアが尋ねる。

「志田義孝の抱く『恨み』とは、何ですの?」

「奴の『恨み』について、か。少し昔話をしよう・・・」


「奴は、元は天野家令嬢の専属筆頭執事だが、それ以前は何の変哲もない大学生に過ぎなかった。ある時までは・・・。志田の両親は天野家直轄の研究機関『Mo-Bic(モービック)』の研究員だった。しかしある時、Mo-Bicで行われていた実験で二人とも命を落とした。『散花事件』以前の話だ。君達、公安局なら知っているだろう。



――――『潔水ヶ原きよみがはら研究所重力場実験事故』。



「Mo-Bicの一つである潔水ヶ原研究所。そこで行っていた重力研究施設で重力場発生装置が暴走。半径数キロに渡って地球の15倍もの重力が襲った。装置は供給電力の消失により停止したが、勿論、その場にいた全員が死亡した。これは、志田義孝がまだ中学生の時の事。『両親が亡くなった』と伝えても、受け入れてはくれなかった」

巾兼は言った。

「何故、事故の責任者である天野家の令嬢専属執事に?」

「申し訳ないが、私に真意は分からない。憶測でしか答えられないが、当時の天野家当主であった天野陽一は恐らく彼を自身に近い場所、その管理下に置くことで、天野家への『報復』を抑止することが目的だったんだろう」

瀬川はある建物の中へ入っていく。

「さあ、この中だ」

瀬川は部屋の扉を開けて入っていく。

二階建てのごく普通のコンクリート造りの建物。

内部は白色で統一された殺風景なエントランスと廊下が迎える。

出入口そばの階段を登り、廊下を歩いた突き当りに瀬川は立っていた。

「ここが私の部屋だ」

『工場長室』と表札が付いた扉。

その先にあったのは、工場長室とは名ばかりの普通の部屋だった。

部屋の奥である窓際には一般的な灰色の事務机、その手前には安価なテーブルとソファー。

両側の壁には資料が数多く並ぶ戸棚がある。

「適当に腰を掛けてくれ」

「なんか、工場長にしては寂しい部屋ですわね」

「こら、アリア」

「ははは、そうだろうね。私もここは滅多に使わないからね。普段は現場の巡回と関連企業との会議ばかりで、ここには必要なものしか置いていない」

瀬川はそう言いながら、いくつかの資料を手に取り対面に座った。

「さあ、本題について話をしよう。今回、狙われたのは天野薬品霧紫工場。ここは、薬品製造で一大拠点とも言える施設だ。奴が『主要施設の破壊』を目的の一つとするならば、恐らく次の標的は3ヵ所」

瀬川は資料を捲り、ある部分を指差す。

「まずはここだ。北臨海きたりんかいにある『天野エレクトロメカニクス』。ここは、この天野薬品霧紫工場で製造する化学薬品を使用した製品を作っている」

瀬川は再び資料を捲る。

日常ひつねにある『東日常実験場』。実験場とあるが実際は廃棄場だ。ここには産業廃棄物としても捨てられない廃棄物が各地の天野家関連施設から集約されている」

瀬川は資料を捲る。

上霜じょうそうにある『天野金属工業』。重金属製品を作る大規模工場だ」

アリアは首を傾げる。

「しかし、天野家が有する施設にはもっと規模の大きい施設や特殊で危険な施設がいくつもありますの。何故、その3ヶ所が?」

「他の規模の大きい施設では世間への影響が少ない恐れがあるからだ」

「世間への影響?」

「そう。奴は天野家の没落を狙っている。その為にメディアが騒ぎ立てやすい施設を狙っているんだ。今回は、この薬品工場が線路に近いということもあり、蒼霧線は火災で列車の運転を止めていた。それと同様の騒ぎを起こすのであれば、その3ヶ所が当てはまりやすい。都心に近く、大きい設備を有する施設。尚且つ世間一般に知られている場所。他にも施設は存在するが、安全を考慮して公表していない施設も多い。ただ、そんな施設を狙ったところでメディアには映りにくいからな」

「なるほど。そう言う事であれば、直ちに警戒しよう。公安局に戻り、警戒の準備だ」





「湯崎長官」

「お疲れさま。どうだった、現場は」

「はい。現場は全焼、生存者は居りません。監視カメラのデータも得られず、確認できる証拠としてはこちらになります」

巾兼は数枚の写真を見せる。

「損傷の少ない死体には、この散花事件と同様の裂傷が付いていました。志田義孝の犯行で間違いないでしょう」

「確保は?」

「現場到着の時点で奴の姿はありませんでした」

「そうか」

「一つ、情報としてなのですが」

巾兼は湯崎の机に資料を置いた。

「現場となった天野薬品霧紫工場。そこの工場長である瀬川浩一より、その3ヵ所が次の標的になるであろう、と」

湯崎は資料を捲り、目を通していく。

「今回、志田がどう動くか分からない以上、まずは可能性を辿っていくしかないか」

湯崎は資料を置く。

「分かった。警察機関にも話を通そう。この三ヶ所の防衛にあたるんだ。話がつき次第、連絡をしよう。短い間だが休んでいてくれ」

「了解しました」

巾兼は長官室を後にしようとしたときだった。

「巾兼執行官、一つ聞いておきたい。アリアの調子はどうかな?」

「やはり、志田については思い詰める部分があるのでしょう」

「そうか…………。あの時、散花事件で抉られた心の傷が癒える事は無いと思ってはいたが」

「もし、アリアが引き金を引けないようであれば、その時は私が」

「ならば構わないが、奴が燻っている。あの時と同じ様に、君達が『引き金を引かない』と言うのであれば…………」

「分かっております。槙在てんざいには手を出させません。この一件は私とアリアに」

そう言って、巾兼は部屋を出た。




To be continue...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

World Rewrite chouniji16 @chouniji16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ