第9話 北の玄武洞(Ⅵ)
刹那達がドラゴンと対峙している岸壁よりも更に奥の方で、それほど強くはないが紅い光のようなものが立ち上るのを刹那は見た。
〈・・何だろう・・〉
『どうやらこいつと戦ってた奴等は奥にいるようだな』
暗黒騎士にも紅い光のようなものが見えたのか、不思議に思っていた刹那の思いに応えるように、剣を正面に高く構え直しながらそう呟やいた。
その時だった。刹那達へ敵意を剥き出しにしていたドラゴンが振り返り、どす黒い憎悪のような負の感情を露にするように紅い光のした方を向かって睨み叫んだ。
《あんな処に逃げ込んでやがったかクズ共め!次は逃がさんぞ!》
岸壁の上で攻撃を繰り出していたドラゴンが、今にも飛び出しそうに両翼を大きく広げ体勢を低く身構えた。
『こいつはまずいな。ドラゴンの奴、俺達から奥の奴等に標的を変えやがった』
ドラゴンの狙いが自分達から他へと移ったのを刹那も感じた。それと同時に、今まで落ち着き払っていた暗黒騎士の言葉に焦りのようなものが含まれていたのを感じとれた。
ドラゴンが今にも飛び立とうとしているのを見て、刹那は何も考えずに岸壁へと走り始めた。
『行かせない!』
『待て!無理に突っ込むな!』
ドラゴンに向かって走り出す刹那を止めようと暗黒騎士は叫んだが、その声は虚しく辺りに響き渡った。
闇雲に自分に向かって走り寄る刹那に、ドラゴンは右翼を大きく降り下ろした。再び蛇のような捻った豪風が刹那に襲いかかり、その衝撃をまともに喰らってしまった。
『くっ・・』
身体中の関節がバラバラになるような軋む音、露出した肌から血が吹き出す感覚、今まで経験したことのない激痛が刹那を襲い、あっという間に数十メートル近く吹き飛ばされた。
『・・・!』
『刹那さん!』
ユナは痛む体を持ち上げ刹那に走り寄った。刹那の露出した肌からは真っ赤な血が止めどなく溢れだし、傷を回復させなければ命に関わる事は目に見えていた。教会のルールが怪しい今、事態は一刻を争う。
『今回復させるね』
〈ヒール〉
ユナは震えの止まらない手を必死に抑え、刹那の胸の上にロッドをかざした。
その状況を黙って見つめていた暗黒騎士は、キッとした激しい瞳でドラゴンを睨み付け、固く握った剣の柄からはギシギシと軋む音が聞こえた。
刹那達が中央広場で不気味な声を聞く45分前である。
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